ペシャワール会・中村哲講演会「カネ社会の終わりの鐘が鳴っている」|MK新聞2015年掲載記事
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MKタクシーの車内広報誌であるMK新聞では、フリージャーナリストの加藤勝美氏及びペシャワール会より寄稿いただいた中村哲さんの記事を、2000年以来これまで30回以上にわたって掲載してきました。
MK新聞2015年10月1日号の掲載記事の再録です。
原則として、掲載時点の情報です。
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ペシャワール会・中村哲講演会が箕面で初めて開かれる「カネ社会の終わりの鐘が鳴っている」
今年2015年の8月22日、大阪府箕面市で初めて開かれた中村哲さんの講演会には、会場のメイプルホールを530余人が埋め尽くした。
この日、ペシャワール会の簡単な歴史と、現在アフガニスタンで日々続けられている灌漑用水路工事の現況を紹介し、人気のない砂漠が緑の沃野に変貌した映像に、会場は簡単のどよめきに包まれた。
「数週間前まで私はアフガニスタンの山の中で医者としてよりは土木技師、作業員として働いていました。アフガニスタン東部のかつての穀倉地帯を目指して、1万6,500町歩、66万人が安心して生活できる場を作ろうと、努力を続けています。この緑化モデルがやがてアフガニスタン中に広がることを期待しながら。」
講演会実行員委員会の福田光子委員長によると、参加者は50代以上が多く、男女半々、中村哲さんの講演は初めての人が6~7割、実行委員スタッフが男性も含めてアフガン人の服装なのも異例だった。
講演に続いて会場とのQ&Aがあり、アフガニスタンをめぐって私たちが日頃感じている疑問点について答えてくれた。
タリバンは残虐か?
―我々はいろんな権力が頭上を通過するのを見てきましたが、タリバンは比較的話がわかる政権でした。
農村を中心とした方向性を持っており、農業には最も理解があった。
恐怖政治という行き過ぎた面はあったが、まず治安がよくなった。女子教育の取締り、酒蔵を戦車でつぶす。
でもタリバンの指導者の子弟はほとんどパキスタンで教育を受けていた。
イスラーム主義を掲げる以上、理論的にはそういう方針を公には取らざるを得なかった。
公開処刑は診療所の近くでもありました。これは農村部の慣習法で、徹底した復讐法。殺した者は殺し、盗みは手を斬る。
そうでもしないことにはあの無政府状態は収まらなかったろう。
米軍が女子の校舎を面白半分に機銃掃射して、数名が死傷する事件を我々の工場現場の目前で目にしました。
反タリバンを掲げる欧米はタリバン兵1,000名を捕まえ、コンテナに積め込んで砂漠に放置して蒸し焼きにする。
地下の刑務所に油を流し込んで何千人も焼き殺す。タリバンに勝つため謀略殺人何でもやったのも事実。
アフガン人の日本観は”失望”へ
―日本は最も尊敬すべき、最も親しい国と感じられていた。
理由は2つ、日露戦争とヒロシマ・ナガサキ。
今でいうG7は、今は紳士面をしているが、かつて強盗のような植民地支配をしていた。
その大国に勝ったことが、アジア世界にザーッと広がり、相手が巨大でも、理不尽には屈しない、勇敢なニッポン。
そして、戦後、数十年間、ただの一兵も外国に送っていない。送っても、一発も撃たない。このことが非常に評価されていた。
しかし、それが近頃は「片思いだった」という失望に変わりつつある。
強い欧米にペコペコして、アジア諸国には居丈高になるニッポン。
アフガニスタン空爆では、日本がその手助けをしたらしい。これが対日感情のだいたい間違いない推移だと思う。
安倍内閣には従わない
―私は1年の3分の2がアフガニスタンですから、偏った意見かもしれませんが、私は内閣には従わない、日本国憲法に従います(会場から拍手)。
あんまりまともに相手にしないほうがいいのではないか。後方支援は戦争ではないというが、トンデモナイ。
旧日本軍では輜重隊、立派な軍隊、つまり戦争加担です。そして装備の弱い輜重隊が真っ先に狙われる。
日本を襲うにはミサイルは不要。原発50数ヵ所にドローンを飛ばして、手榴弾でも落とせば日本は大変なことになる。
ミサイル装備などより、敵を作らないことです(拍手)、という意味で内閣は総辞職をしてしかるべきです(拍手)。
内閣が続くならば従わなければいいことで、無視するという方針でいいのではないか。みなさんに期待しております。
現地での技術の継承問題
―これが大きな課題の一つです。
数年前までは「おれの眼の黒いうちは」と言えたのですが、「先生、じゃ、目が白くなったら」(笑い)という段階に差しかかっています(1946年、福岡生まれ)。
でも、ある状況下ではアフガン人は非常に独立心が強い。「先生の後でも我々ができる」を目指して、それが今彼らの関心事になっている。
現在、河川工事以外は完全に自分たちでできる。
河川工事は技術者が少しずつ自分たちで判断して、「この地形であればこうする」ということはあと何年か私が生きていれば成し遂げられるのではないか。
用水路、取水施設については、村々で半年に一度の定期浚渫を定着させようとしている。
そして、政府の態度が少し変わってきています。他の地域はどんどん貧しくなっていく。貧しくなると治安が悪くなる。
ジャララバード県の3分の2がイスラム国(IS)の支配下ですが、これは完全に旱魃地図と一致する。
私たちが工事をしてきた地域は治安がものすごくいい。争う必要がない。
ISに参加する戦闘員は経済的理由です。給料が高いので傭兵になる。
水が平和に役立ち、傭兵になる必要がないことがいかに重要か、やっと政府も認識してきた。
グローバリゼーション下の生き方
―グローバリゼーションと最も遠い国がアフガニスタンです。
自給自足の世界から日本に帰ってきたときのコントラスト。
金が全て、物があり過ぎ、作り過ぎ、科学技術で何でも解決できるという錯覚。
資本が無限に増殖する過程はすでに終わりつつある。こういう世の中が長く続くとは考えられない。
株価が上がりさえすれば国が豊かになる。こんなバカなことがありますか。
もう終わりの鐘の音が聞こえております。
日本のような豊かな国土は世界にない。人間らしいモラルを取り戻すこと。金がなくても食っていける社会、これはいいですね(中村哲さんの実感が籠もる)。
GDPは所得の合算ですから、アフガニスタンで食糧増産をしても、GDPは伸びない。しかし、みんな豊かになっていく。数字の魔術です。
若者たちへ
―日本はかつて富国強兵、脱亜入欧、アジア人は駄目だからヨーロッパの仲間入りをしよう、と唱えた。
これは今でも続いているが、破綻を迎えている。
私たちも若いときは科学万能、人類は永遠に進歩するという信仰を植えつけられてきた。
「こうすれば経済は上向く」といわれても、「それで誰が得をし、誰が損をするのか」と、大人たちが当然とする価値観、科学観に疑問を持ち、時流に流されず、今の世を批判的に見ていく目を肥やす。
今、偉そうなことを言っていますが、あと20年後にはボケとるか死んでるかです。
この後始末をするのはあなたたちです(笑い)。私が今必要としているのは、願わくは(お許しがあれば)あとちょっとした寿命と、もうちょっと昆虫採集に行く時間です(笑いと拍手)。
ペシャワール会
☎092-731-2372
E-mail:peshawar@kkh.biglobe.ne.jp
(2015年9月11日記 文責・加藤勝美)
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フリージャーナリスト・加藤勝美氏について
ペシャワール会北摂大阪。
1937年、秋田市生まれ。大阪市立大学経済学部卒
月刊誌『オール関西』編集部、在阪出版社編集長を経て、1982年からフリー
著書に『MKの奇蹟』(ジャテック出版 1985年)、『MK青木定雄のタクシー革命』(東洋経済新報社 1994年)、『ある少年の夢―稲盛和夫創業の原点』(出版文化社 2004年)、『愛知大学を創った男たち』(2011年 愛知大学)など多数。
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1985年11月7日号~1995年9月10日号 「関西おんな智人抄」(204回連載)
1985年10月10日号~1999年1月1日号 「関西の個性」(39回連載)
1997年1月16日号~3月16日号 「ピョンヤン紀行」(5回連載)
1999年3月1日号~2012年12月1日 「風の行方」(81回連載)
2013年6月1日号~現在 「特定の表題なし」(連載中)