フットハットがゆく!【364】「吸血生物の話」|MK新聞連載記事
MKタクシーの車載広報誌であるMK新聞では、塩見多一郎さんのエッセイ「フットハットがゆく」を2001年11月16日から連載しています。
MK新聞2024年7月1日号の掲載記事です。
吸血生物の話
子どもの頃は大阪の淀川のそばに住んでいました。大きく広がる河川敷、夏は草ぼうぼうで、昆虫、爬虫類、鳥などの宝庫でした。そんな草むらにガサガサ入って、虫やトカゲを捕るのが大好きな少年でした。その時は吸血生物に襲われる、ということはせいぜい蚊に刺されるという以外、記憶になかったのですが、50を過ぎて田舎に移住して、子どもの頃のように草むらに入ると、まあまあ悲惨な目に遭います。
移住して1年目の夏、飼っているヤギの散歩のために、半ズボン、裸足にゾウリで草むらに入りました。今思うと無謀です。フッと見ると足のすねから、いく筋かの血がタラタラと…。そしてその血にコバエがウジャウジャと、たかっていました。ゾッとしました。慌ててハエを振り払い、その場から逃げました。後から調べると、それはブヨという吸血性のハエで、歯で皮膚に傷をつけて、血を舐めるそうです。ブヨに咬まれた所は痒さが何日も続き、後々まで跡が残ります。蚊は上品な方だ、と思えるほど荒っぽい血の吸い方をする生き物です。でもそんなブヨも、キレイな川がある場所にしか住めないらしく、都会の汚い川では育たないそうです。
現在僕が住む京都府の田舎町では、シカなどによる農作物被害が深刻です。猟友会に所属する僕は、「有害鳥獣駆除」という仕事をしなければなりません。そのためには、真夏の山にも入ります。人間が歩く登山道ではなく、野生動物が歩く獣道をひたすら登ります。草が生い茂る獣道では、様々な吸血生物が獲物が来るのを待っています。その一つが山にいるヒル、ヤマビルです。先日、初めてヤマビルに吸血されました。ミミズとナメクジを合わせたような外見で、シャクトリムシのようにけっこう早く歩きます。足元から登ってきたり、木から落ちてきたり。僕の場合は長袖のシャツと手袋の隙間の手首に吸い付かれていました。引き剥がすと、小さな傷口から血が流れて、30分くらい止まりませんでした。こういった吸血生物の唾液には、血液が空気に触れても凝固させない成分が含まれているのです。
吸血生物の中で一番厄介なのはマダニです。前回のエッセイでも書きましたが、特に野生動物が行き来する獣道にマダニは多く潜んでいます。僕の場合は、草むらに入った次の日に、ダニに付かれたことに気づきました。朝起きると、陰嚢(キン◯マ袋)の裏っかわ辺りにチクっとした違和感を感じました。ダニは皮膚の薄いところを好み、体をよじ登って陰部に付かれることもある、と猟友会の先輩から聞かされていました。だから初めてダニに付かれてもパニックになったり、慌てずにすみました。といってもキン◯マ袋の裏ですから、鏡で見てもゴマ粒ほどの小さな点でよく分からず、スマホで何度も接写してみて、やはりダニであると確認して、除去しました。僕のスマホの写真アプリには、猟師という仕事柄、シカやイノシシの解体写真など、人に見せられない写真がたくさん収録されていますが、その最たるものが、自分のキン◯マ袋の裏の写真です。
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