フットハットがゆく【340】「猪猟」|MK新聞連載記事

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フットハットがゆく【340】「猪猟」|MK新聞連載記事

MKタクシーの車載広報誌であるMK新聞では、塩見多一郎さんのエッセイ「フットハットがゆく」を2001年11月16日から連載しています。
MK新聞2022年4月1日号の掲載記事です。

 

猪猟

昨年暮れに狩猟免許を取ってから、週末土日は猟友会の巻狩り猟に参加し続けています。
通常の猟期は2月15日までですが、京都ではイノシシとシカの猟期は3月15日までとなっています。
僕がイノシシを猟銃で撃ち獲ったのは2月20日でした。

巻狩りとは、猟犬を使って獲物を追い出す勢子(せこ)と、それを待ち伏せして撃ち獲る待ち(まち)とに別れてする集団猟です。
僕の参加している地元の猟隊は勢子が1~2人(猟犬2~4匹)、待ちが5~10人、といった規模です。

この時は1つの谷に1人ずつ、7~8人で待ち受けている、という状況でした。僕は急斜面の谷のかなり上の方に配置されました。
無線で、「猟犬を山に入れます!」の合図。緊張が走ります。
山の反対側から猟犬が投入されてから、早いと数分で獲物が自分の前に現れる場合があります。逆に、3時間待って何も来ない場合もあります。

自分から遠い場所で発砲音がしました。無線が鳴る、「シカ数頭、外した!」。
そのあと山が静まり返り、時間が過ぎていきました。また3時間待ちのパターンか…と思いかけた頃、隣の谷で大きな発砲音!「イノシシや! 外した!」の無線。
僕の鼓動が高鳴りました。隣の待ちから横の待ちに獲物が移動してくることはよくあることです。
約3ヵ月間、毎週のように猟に出て、イノシシを見たのは過去に一度だけ。時速50kmといわれる走力で山の木々の間を駆けると、まるで黒い疾風のようで、突如現れて視界から消えるまで3秒少々…その時は銃を構える間もありませんでした。

今回は隣の待ちで銃声が鳴ったので、しっかり構えて、来ると予想できる方角に銃を向けておりました…。
急斜面の谷の上から見た、下方約40m~50mの獣道に、イノシシが現れました! しかもなんと、走らずにトコトコ歩いて来ました。
すぐさま発砲。命中! イノシシが谷の低い方へ転がり落ちました。しかし立ち上がってまた歩き出しました。
2発目発砲。命中。さらに下へ転がり落ち、木々の死角に入り見えなくなりましたが、バキバキッ、バキバキッと枝を踏んで歩く音が聞こえました。
少し距離があったので、半矢(弾丸が命中したものの、急所に当たらず獲物が逃走すること)になってしまいました。

「イノシシ、2発当てましたが半矢で逃走中!」と無線報告しました。
「すぐに追え!」の指示。追えと言われても50mの急斜面、降りるにはジグザグに歩いて行かなければ危険ですが、そんなことをしていては獲物が逃げてしまうと思い、土の上を滑り台のように滑落。
服も銃も泥まみれになってイノシシを見失った地点にたどり着くと、地面に血のりが点々と…。
谷伝いに血の跡を追うと、倒れているイノシシを発見! まだ生きていて、頭をもたげて僕の方を見ました。ゆっくり近づいて、3発目を急所に撃ち込みました。

人や猟犬を咬み殺すこともできる、鋭い短刀のような牙を持った、立派なオスのイノシシでした…。

…つづく

 

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