フットハットがゆく!【353】「山のお命 2」|MK新聞連載記事

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フットハットがゆく!【353】「山のお命 2」|MK新聞連載記事

MKタクシーの車載広報誌であるMK新聞では、塩見多一郎さんのエッセイ「フットハットがゆく」を2001年11月16日から連載しています。
MK新聞2023年5月1日号の掲載記事です。

山のお命 2

前回、今年度の猟期最終日にして、初の獲物(メスのシカ)を猟銃で仕留めた話を書きました。
静対静の対決、森の中を警戒心満載でゆっくりと進んでくるシカに対し、木のように動かず、さとられず、極限まで引きつけて撃った一発でした。

今回はその日の後半の猟の模様を紹介します。

何回猟に出ても全く獲物に出会わない時もあれば、1日に何頭も出会うことも。
この日の後半には、僕の待ち場に4頭のオスジカが現れました。シカといえども、峠の急斜面の上り下りはスピードが落ちます。距離も20メートルほどまで引きつけ、絶対外さないという自信の元、先頭の大きなオスジカに発砲しました。
しかし驚いたことに、シカはそのまま走り続けました。
「まさかこの距離で外した!?」と、僕は焦りながら2発目、3発目を発砲。
オスジカの群れはドドドッ と地響きを立てて急斜面を登って逃げて行きました。日本の猟銃(散弾銃)は3発までしか装填できない仕組みになっています。
全弾撃ち尽くした僕は、ただ唖然としてシカの後ろ姿を見送りました。

午前中に1頭仕留めて自信をつけていたのに、午後は3発も放って1頭も当たらないとは…また自信喪失。
そうこうするうちに日没時間も近づき、今期の最終猟が終了。
肩を落として下山する途中に、大きなオスジカが血を流して倒れているのを発見。
すでに息絶えておりました。
血のりの新しさ、他に発砲したものがいなかったことから、これは僕が撃ったもの、ということになりました。シカは体に鉛弾が当たっても、急所を外れていればそのまま逃走し、しばらくして失血死することがよくあるそうです。
撃った瞬間、シカが倒れず走っていったので、僕は外したとばかり思い込んでいましたが、実は当たっていたのです。

隊の人に手伝ってもらい、その重いシカを山から引き摺り下ろし、軽トラに乗せて自宅に持ち帰りました。
翌日、一人で8時間かけて解体。解体して分かったことですが、僕が撃った弾が心臓の下部を貫通しておりました。
このオスジカは、心臓を撃たれても、その後何百メートルも走り続けたのです。
恐ろしい生命力であると同時に、1発で仕留めてあげられなかった自分の腕の未熟さを猛省。
殺すと決めた相手はなるべく苦しませずに命を奪う、それを武士の情けとするならば、普段から相当に技術と精神力を磨き上げておかねばなりません。
僕はまだまだ未熟、シカを半矢(獲物を絶命させ損ねること。)にして苦しませてしまいました。
まさに自分は罪を犯し、それをつぐなうための罰をいつか受けるでしょう。
でもこの感情こそ、僕が求めていたものでもあります。スーパーで買った肉を、その素性も知らず、罪も感じず、誰に感謝していいかもわからないまま頬張っていたのが過去の僕。
そういう生活に疑問を感じて、ハンターの世界に身を投じ、誰の犠牲によって自分が生きながらえているのか、しっかり感じられるようになりました。
仕留めた獲物は僕と猟犬でできる限り無駄なく食べます。
一生懸命食べることがまた供養になると信じつつ。

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