フットハットがゆく!【361】「五十代の悩み」|MK新聞連載記事

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フットハットがゆく!【361】「五十代の悩み」|MK新聞連載記事

MKタクシーの車載広報誌であるMK新聞では、塩見多一郎さんのエッセイ「フットハットがゆく」を2001年11月16日から連載しています。
MK新聞2024年1月1日号の掲載記事です。

五十代の悩み

あっという間に2023年が終わり、新しい年になりました。僕は4月で55歳になる年ですが、50を越えてから田舎暮らしを始めたため、新しいことに出会う毎日で刺激的です。

その一つが狩猟です。最近の悩みは、シカの腸をうまくさばけないことです。野生動物をジビエとして人が食すには、仕留めた後の内臓の処理が重要です。内臓、特に大腸・小腸には細菌が多く、シカの死後に細菌が増え臭いも強くなります。だからなるべく早くナイフで腹を裂いて、腸を摘出しなければなりません。その際に気をつけることが、腸そのものを傷つけないことです。腸にはいわゆるウンチがいっぱい詰まっていて、バイ菌だらけです。万が一ナイフで腸を裂いてしまったら、ナイフにもバイ菌が付き、その後そのナイフで触れた部分全体にバイ菌が広がってしまいます。そんな肉を人間が食べたら、食中毒を起こします。

11月に猟期に入り、僕は2回シカをさばき、2回とも腸の摘出に失敗してしまいました。仕方なく、そのシカの肉は飼っている猟犬たちのごはんに回しました。ちなみに、犬というのは祖先がオオカミで、狩でシカを仕留め、まずは内臓からバクバク食べていました。肉食動物にとって腸内に残された内容物は逆に栄養や繊維質を補充できる貴重な食材。元々食糞の傾向もある犬にとって、汚れたナイフでさばいた肉でも平気です。(それは野生の肉を食べることに慣れたうちの猟犬の話であって、普段ドッグフードしか食べない愛玩用のワンちゃんがいきなり不衛生な獣肉をたべたら下痢をすることもあります。)ということで、腸の摘出に失敗した二頭のシカは、全て愛犬の胃袋に納まることになりました。冷凍庫に保存して、何回にも分けて食べます。

さて、つい最近、三頭目のシカをさばく機会があり、過去2回の失敗を糧に、ついに腸の摘出に成功しました。衛生管理に成功したお肉は、僕自身もありがたくいただきます。シカ肉は脂分がほとんどない赤身です。俗にいう「高タンパク・低カロリー」で、健康にいいとされます。脂たっぷりの牛肉や豚肉が好きな人からすると、少し物足りなく感じることがあるかもしれません。そこは好みです。また、野生のシカを猟で捕えると、味に個体差があることがよくわかります。若い雌鹿と、年老いた牡鹿が同じ味のわけがありません。どちらが好みかも、人によりけりです。

もう一つ悩みがあります。シカを仕留める時に、命を絶つのに時間がかかってしまうのです。銃で撃って半矢(銃弾が急所を外れて即死しないこと。)になってしまい、倒れたシカを絶命させるためにナイフで頸動脈を切ったのですが、うまく切れなかったのか、息をしなくなるまでに時間がかかってしまいました。武士の情けではないですが、最期に苦しませるのは本意ではありません。動物が好きだからこそ、ちゃんとその死に責任を持って、お命をいただきたいのです。そのためには、まだまだ経験と修行が必要です。

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