自給自足の山里から【206】「最期?のメッセージ」|MK新聞連載記事
MKタクシーの車載広報誌であるMK新聞では、縄文百姓の大森昌也さんらによる「自給自足の山里から」を、1998年12月16日~2016年6月1日まで連載しました。
MK新聞2016年4月1日号の掲載記事です。
大森昌也+あいさんの執筆です。
最期?のメッセージ
2月に尼崎から山へ帰ると、突然の暖かい気温に少し早い春が訪れたと勘違いしてしまったカエルたちがゲロゲロと鳴いていた。
父は3月から緩和ケアのため入院することになり、今は病院で過ごしています。
私が病院に顔を出すなり、「今夜が山場だからみんなを呼んでくれ」と言う。
本気なのか冗談かいまいちわからないので、少し空気を和ませようとラジカセに入ってるCDをかけると、さだまさしの『北の国から』のテーマソングが流れる。
見舞いに来てくれた友人たちと少し笑ってしまった。
あまりにもドラマのようで、これが『北の国から』だったら、今は何章目くらいなんだろ? と考えてしまう。
お父さんは昨夜、痛みと不安で眠れずいらいらしていた。
機嫌がいいと祖母と同じ冗談を見舞いに来た人に言う。「もうすぐ、さよなら」。
そんな父をみていると、2年前に亡くなった祖母を思い出してしまいます。
父から、「今回のMKの原稿を書く気力がないから、今から話す言葉を書いてくれ」と頼まれたので書きました。
「昨年末、左目の下が腫れて目医者に行くが、蜂にでも刺されたのでしょう、と塗り薬を渡された。それが日に日に大きくなり、6月頃から大きい病院で診てもらい、病名を上顎洞ガンと知る。7月には抗ガン剤、8月に手術、一度退院するが再発したため、10月から放射線治療をするが、放射線治療も効果がないと判断して治療を中断する。病院ではもう、治療がないため12月の末に退院して村に帰る。
但馬の仲間はみんな寄ってきてくれて、鍼(はり)や民間療法で治そうと寄り添ってくれた。それから3ヵ月経ったけど回復することもなく。民間療法も頑張るがなかなか思うように行かず。
昨日今日の症状は、3ヵ月経ったけれど、あまり考えたくない。まあ、人生74年すっとあの世に行けたらうれしい。
大地に立って、
大地とともに生きて、
大地とともに死んでいく。
それではみなさん、お元気で」。
冗談交じりに話しながらも最後に微笑みながらお父さんは言う。
「奇跡の生還なるか?」
(2016年3月14日記)
〈訃報〉
筆者大森昌也さんが2016年3月24日午前、逝去されたことを謹んでご報告いたします。享年73歳。
1998年12月16日付MK新聞494号より連載を開始し、約20年にわたりご寄稿いただきました。
感謝を申し上げるともに、ご冥福をお祈りいたします。(編集部記)
あ~す農場
兵庫県朝来市和田山町朝日767
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1998年12月16日号~2016年6月1日号
大森昌也さん他「自給自足の山里より」(208回連載)
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