フットハットがゆく【346】「ドングリ」|MK新聞連載記事

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フットハットがゆく【346】「ドングリ」|MK新聞連載記事

MKタクシーの車載広報誌であるMK新聞では、塩見多一郎さんのエッセイ「フットハットがゆく」を2001年11月16日から連載しています。
MK新聞2022年10月1日号の掲載記事です。

ドングリ

この夏のこと。お隣さんのお孫さんが田舎に遊びに来ておりまして、「カブトムシを獲りたい。」とのことでした。
そういえば、僕はこの田舎の村に来てもうすぐ3年ですが、ここでカブトムシを見たことがないなぁ、ということで、他の村人に聞いてみました。
80歳くらいの方に聞いたところ、

「昔は山ほどいたけど、最近はほとんど見ない。」とのこと。

「なぜ、昔いたものが今はいないのでしょうか? お決まりの農薬ですかね?」と聞いてみると、

「シイタケの原木にするために、クヌギの木をみな伐ってしもたから。」だそうです。
クヌギの樹液を吸って生き、クヌギの倒木に卵を産んで育つカブトムシにとって、クヌギの木がなくなったというのは致命傷だったようです。

僕はダブルショックでした。カブトムシもシイタケも好きなので…。子どもの頃から虫好きでしたが、特に少年にとってカブトムシはヒーロー。
現在、飼う、飼わないは別にしても、自分の住んでいる周りにカブトムシがいれば、それは田舎生活に憧れて移住してきた者にとって、誇らしい山の大自然であります。
都会の人はデパートの虫売り場に行かなければカブトムシに出会えないですが、僕らはヒョイと山に行けばカブトムシなど唸るほど獲れる、そんな虫好き天国はとっくの昔になくなっていたのです。
正直ショック。

シイタケも大好きで、田舎暮らし自給自足を目指す中で、シイタケ栽培も目標の一つに入れておりました。
シイタケはクヌギなどの木を伐って原木とし、菌を植え付けて大量発生させます。
我が村のクヌギが、自らシイタケ栽培するために伐られたのか、ただ原木として売るためだけに伐られたのかはわかりませんが、どちらにせよお金儲けのためです。
たとえ金のなる木でも、伐ってしまえばそれで終わりです。
知り合いのキッズが来てもカブトムシを獲ってあげられないし、シイタケ栽培がしたければ原木を園芸店で買ってこなければいけません。

 

クヌギの木がなくなると、同じようになくなるのは種子であるドングリです。
これはイノシシの大好物です。
秋にクリやドングリをたらふく食べて太ったイノシシは脂が乗って美味しい、とされます。
ちなみにイノシシは昆虫の幼虫やサナギも土から掘り返して食べますので、カブトムシが消えたことも彼らの食糧不足につながります。
僕は昨年、念願の猟師となって猟友会に入り、イノシシやシカを狩る立場になりました。
うちの村には猟友会のメンバーがいないので、農家の人からは非常に期待されております。
農作物を食い荒らす彼らは、悪魔のように害獣扱いされているのです。
しかし、山からドングリなどの食べ物を奪い、悪魔を作り出したのは人間自身。
そんな彼らを害獣扱いにして、個体数を減らすために銃で撃っているのですから、人間の身勝手さには限りがありません。そんな一人の人間として、今後僕はどう生き物と関わっていけるのか…。

山での戦いは続く。

 

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