フットハットがゆく【350】「リアルブレーメン」|MK新聞連載記事

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フットハットがゆく【350】「リアルブレーメン」|MK新聞連載記事

MKタクシーの車載広報誌であるMK新聞では、塩見多一郎さんのエッセイ「フットハットがゆく」を2001年11月16日から連載しています。
MK新聞2023年2月1日号の掲載記事です。

リアルブレーメン

飼っているヤギが、去年に続いてまた子どもを二頭生みました。
初産となった昨年は、寒さで赤ちゃんが死なないか心配で徹夜でつきっきりでした。
今年はヤギも僕も慣れたもので、基本、ほったらかしで大丈夫でした。
赤ちゃんヤギも生まれて間もなく立ち上がりました。
去年と少し変わったのは、母親が胎盤を食べなかったことです。
生まれた赤ん坊といっしょに胎盤が出てきて血を薄めたような羊水がたまっているのですが、去年はそれを母親が食べてしまいました。
母親が胎盤を食べる、という行為はいろいろな動物で見られるそうで、それは産後の栄養補給であるという説も…。
しかしヤギは完全草食動物なので、動物性のタンパク質を消化できる胃腸は持っていないはず。
だとすると、仮に野生下だった場合に、胎盤に含まれる血の匂いに寄せられて外敵がやって来るのを防ぐため、その痕跡を消すために食べてしまう。
ということが考えられます。
去年、母ヤギはあっという間に胎盤を食べました。
初めてその姿を見た時は意味がわからず、ギョッとしました。

しかし、今年はなかなか食べずにほったらかしでした。
もしかしたら、人間に飼われるうちに従来の本能を失い、わざわざ胎盤を食べなくても安全である、とのヤギの認識だったのかもしれません。
翌日も小屋の中にほったらかしにされていた胎盤。
うちはどんなものでも捨てずに循環させる主義ですので、胎盤も普通に捨てるのではなく、一応ニワトリにやってみました。
ニワトリは、穀物を好む草食動物のイメージですが、実際は雑食性で、夏場はムカデやカエルなどもつつき殺して食べてしまいます。
その様子はまさに「小さい肉食恐竜」のようです。
猟師として獲ったシカ肉など、刻んでニワトリにやると嬉々として取り合うように食べます。なので、ヤギの胎盤だって普通に食べました。
ただ、ニワトリにとって少し量が多かったのか、庭の隅に残しておりましたが、土にまみれて僕は気づいておりませんでした。

それを取り合い、大げんかを起こしたのが猟犬の子犬二頭です。
よくじゃれ合って甘噛みの取っ組み合いはやりますが、流血するほど咬みあったのはその時が初めてでした。
喧嘩の原因で取り合っていたのが、ヤギの胎盤だとわかった時はゾッとしました。

うちは他にも猫を飼っていまして、まさに『ブレーメンの音楽隊』を地で行く環境です。
物語では、ロバ、犬、猫、ニワトリが協力して泥棒を追い払い、仲良く音楽隊を作ります。
うちはロバの代わりにヤギ、という以外ブレーメンと同じ構成です。
4種の動物が家族のように仲良く暮らす生活を夢見ていましたが、実際なかなかそうはいかず、先日は猟犬の子がニワトリを食べてしまいました。
童話のようにはいかない『リアルブレーメン』の世界。
いっそこれらの出来事をエッセイ集にまとめて出版しようかな?と思っています。

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