フットハットがゆく!【370】「アライグマの話」|MK新聞連載記事

MKタクシーの車載広報誌であるMK新聞では、塩見多一郎さんのエッセイ「フットハットがゆく」を2001年11月16日から連載しています。
MK新聞2025年7月1日号の掲載記事です。
アライグマの話
猟師歴5年目に突入した今年度、ついに小物をシメることになりました。シカやイノシシなど、時に人間よりも体重のある大型動物に対して、キツネ、タヌキなど、猫や中型犬くらいの大きさの動物を、「小物」と呼んでいます。その小物の中でも特に農家に被害をもたらすのがアライグマです。言わずと知れた外来種で、「あらいぐまラスカル」のアニメが流行った1970年代に、北アメリカからペットとして大量輸入されました。しかし、外見の可愛さに比べて気性が荒くて飼いづらく、山に捨てる無責任な飼い主が続出、自然繁殖して全国に広がりました。雑食性で木登りも大得意、あらゆる農作物を食い荒らし、家の屋根裏に棲み込んで糞尿を撒き散らすなど、今や小型害獣の代表格になってしまいました。
動物の生き死にに関する話です。これ以降はご自身の責任でお読みください。
最近、同じ村の農家さんから、「隣の空き家がアライグマの巣になって、畑が荒らされて困るから、獲ってほしい」と、頼まれました。これも人助け。猟友会として市から発行された害獣駆除の許可証も持っていますので、初めてアライグマの捕獲に挑戦しました。田舎の日用品店で普通に売っている、小物用の箱ワナを使用しました。金網で作られた長方形のカゴで、奥に踏み板があり、それを踏むと留め金が外れて入口のフタが閉まる、という具合です。トリの唐揚げやかっぱえびせんなど、アライグマがよくかかるというエサを使いました。
何日かすると、アライグマがかかりました。本当に可愛い見た目ですが、牙を剥いて暴れ回っていました。殺処分するための方法ですが、昔の人はワナごと川に沈めて溺死させたそうです。でもその方法では、かなり苦しませることになります。僕は武士の情けとして、殺すと決めた獲物はなるべく苦しませずに死なせたい、と思っています。そこで、同じく害獣指定されているシカやイノシシ用の電気棒で、感電死させることにしました。それならば、一瞬です。
しかし、その電気棒をアライグマに使用したところ、なかなか死なず、最後にはナイフで動脈を切ってトドメを刺さざるを得ず、結果的に非常に苦しめてしまいました。自分の飼い猫と同じくらいの大きさの可愛い生き物を、散々苦しめてしまい、自己嫌悪で何日も寝つきが悪く、酒の量が増えまくる始末。機械が故障しているのか? やり方が悪いのか?…色々調べた結果、電気棒のアースを金網に繋ぐ際、サビ防止のメッキ加工がされている場合が多いので、その部分を紙やすりで削っておくと通電が良くなる、ということが分かりました。次にかかったアライグマにはそれを実行し、瞬間的に絶命させることに成功しました。武士の情けを行使できたことには満足が行きましたが、人間の都合だけで生き物を殺すことにはやはり抵抗があります。
動物を殺したくないから植物性のものしか口にしない、という主義の方もおられますから言いにくいのですが…、野菜や果物、米や麦、豆類でも何でも、人間が食べる農作物を守るために、実際には大量の野生動物が殺されているのです。
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