アフガニスタンで受け継がれる現地での活動 中村哲さん死後のペシャワール会⑦|MK新聞2022年掲載記事

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アフガニスタンで受け継がれる現地での活動 中村哲さん死後のペシャワール会⑦|MK新聞2022年掲載記事

MKタクシーの車内広報誌であるMK新聞では、フリージャーナリストの加藤勝美氏及びペシャワール会より寄稿いただいた中村哲さんの記事を、2000年以来これまで30回以上にわたって掲載してきました。

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アフガニスタンで受け継がれる現地での活動 中村哲さん死後のペシャワール会⑦

この文章は、ペシャワール会会長の村上優さん/PMS支援室が、7月6日発行の会報に記載された報告を、ペシャワール会の了解を得て転載するものです。(11月号から続く)

2021年度の概要

医療事業

2021年度は新型コロナウイルス・デルタ株が猛威をふるい、6月には診療所の受診数が5000名を超え、酸素ボンベを買い足す状況となった。
しかし、8月の政変後もワクチン接種が引き続き行われ、発症は緩和されてきている。

また、政変後の経済制裁に、全国的に医療崩壊が起きたが、PMSのダラエヌール診療所は治療薬を常に備え、遠方からの患者も受け入れて診療を継続している。

灌漑事業

2021年度の主な工事は以下の通り。

(1)バルカシコート堰

2021年12月に着工した本工事は、今年9月に完工を予定している。

2021年度は昨年の洪水を経た、堰や護岸、河道の変化に沿った対策・施工が次の通り進められた。

湾曲斜め堰の完成(昨年度、仮堰として築造)

斜め堰は今年2月28日に完成。
8月の政変で資金問題が発生したため、2ヵ月間の工事の遅れと工事再開後の重機の使用台数制限などが重なり、川の増水が始まったなかで危険を伴う工事になったが、2月末に完成にこぎつけた。

(2)マルワリード堰・用水路改修計画

本事業は2019年12月から4年間の工期で開始された。

21年度は、用水路H区から4㎞のソイルセメントによる床面ライニング工事(覆工)を計画していたが、資金不足により2㎞に変更。
同地点は砂の堆積が多いため再度測量を行なって勾配率を変更し、ライニングが施された。

(3)シギ・ゴレーク堰計画

2019年秋に中村医師により打ち出された計画。
PMSは21年度内に着工の予定で、JICA、FAOと協議を重ねていた。
またこの事業は「PMS取水方式」の普及活動の実地研修の場ともなり、干ばつ対策に取り組むアフガニスタンの技術者の人材育成をも目的としていた。
昨年8月の政変で計画は白紙になったが、クナール河を挟んで対岸に位置するシギとゴレークでは護岸線について住民間の協議がまとまっていないため、PMSは静観することとした。

(4)維持・管理(保全)事業

特記すべきは、マルワリード用水路H区以外の浚渫作業は流域住民により自主的に行われたことである。
「中村哲医師が私たちのために尽力して造った用水路だから、自分たちで綺麗にしよう」と村々が発起した。

 

農業事業 ガンベリ農場

21年度はガンベリ農場の生産物がPMS事業の継続に大きな役割を果たした。
小麦や9月初旬のレモンの収穫、畜産では日々のミルクの生産、大量に植樹された樹木等からの収入で、診療所の薬品や工事現場の燃料が購入された。
全て賄(まかな)えたわけではないが作業を継続する一助となった。

米は約40トン(4トン/ha)、小麦は約60トン(1・5トン/ha)の収量。
他に柑橘類、玉ねぎなどを出荷。養蜂事業は改善の余地はあるが継続中。

干ばつ被災地への支援としてサツマイモの栽培に再銚戦。
種芋の越冬が難しく工夫がいるが被災地への普及を試みる。

ガンベリ農場は未開墾地をわずかに残すのみとなった。
自給自足を目指している農場であるが、人手不足で試験的な栽培も減少していた。
そこで昨年7月、農業学校卒の人材を5名採用、農場での作業に就いている。

◎植樹

2021年1月から12月までの植樹数は4万2542本、2003年以来の総植樹数は123万6201本となった。
植樹の内訳は、ヤナギ、クワ、オリーブ、ユーカリ、果樹。

政変により日本からの活動資金が送金できなくなった時、PMSはヤナギやユーカリを売却して資金を工面した。
両樹木は伐採後の再生が著しい。

 

緊急食糧支援

PMSは今年1月から2月にかけて、ナンガラハル州の、アチン、ガニヘイル(シンワリ)、ドゥールババ、デヒバラ、ダラエヌール、ナージヤンの各郡で、合計1800家族に食糧配給を実施。これも資金に制限があり、対象を栄養失調児や妊産婦のいる家族に絞って配給された。

干ばつ被災のうえに経済制裁が重くのしかかり、失業者も多く、状況が整い次第、PMSは緊急支援として食糧配給を継続する予定である。

 

現地との交流・その他

昨年の政変後、一時的に治安は不安定であった。
5、6月のコロナウイルス感染の拡大もあり、邦人の渡航及びPMS職員の来日もしばらく難しい。
現地の実情を知るうえでPMS職員との交流は重要である。
21年は前年度同様、毎月のオンライン会議を継続しコミュニケーションを図っている。
更に灌漑事業では、日本側の技術支援チームと水利事業について密な協議を重ねて工事が進められている。

 

2022年度の計画

2021年度の継続である。

①バルカシコート堰事業では、用水路の完成、沈砂池、洪水通過橋の造設、堤防・護岸工事。
バルカシコート村に隣接する渓谷に透過性の砂防堤造設。

②マルワリード取水門の間口の増設、これに接続する用水路50mを拡幅、コンクリート製土砂吐き(=可動堰)の建設、巨礫による固定堰の調整、ブディアライ地区までの用水路床面のライニング。

③維持・管理(保全)計画は流域住民への技術伝授の一貫として継続される。
また、今後着工する事業ではPMS取水方式の普及を念頭に立案され、PMS職員も含め人材育成に努める。

④ナンガハル州コット郡で秋季より、新規事業を実施。
作業地はスピンガル山脈の麓(ふもと)に位置し、クナール河からの取水ではなく、湧水を活用し灌漑を行う。

 

2021年を振り返って

食糧配給に携わったジア医師を筆頭とするPMSの職員たちは、ジャララバード市内で食糧を積み込んだトラックに並走して配給地へ向かいました。
2000年~2001年に井戸掘削をした方面でしたが、長い間治安が悪かったため、彼らは今回の配給にあたり、10数年ぶりに郡境を越えました。
小麦や果樹、野菜等で全ての農地が青々としているPMSの活動地から赴いた職員たちは、農地の体(てい)をなしていない干上がった畑を目の当たりにして驚き、配給に奮い立ちました。

昨年8月に外国軍とそれに関連する団体が撤退し失業者が急増しましたが、国民の90%が農業、牧畜業などを営むアフガニスタンでは、干ばつによっても失業し途方にくれているのです。
中村先生が会報に書かれた言葉「他所に逃れようのない人々が人間らしく生きられるよう、ここで力を尽くします。
内外で暗い争いが頻発する今でこそ、この灯りを絶やしてはならぬと思います」に私たちは幾度も奮い立たせられました。
そして、多くの方々に励まされた1年でした。
心からの感謝を申し上げます。

 

■村上優プロフィール

大阪府出身。
九州大学医学部卒業。
精神科医として、国立肥前療養所(現国立病院機構肥前精神医療センター)をはじめ、各地の国立病院を経て、現在さいがた医療センター(新潟県上越市)に勤務。1992年よりペシャワール会の事務局長、副会長を務め、2015年ペシャワール会会長に就任。
中村哲医師(PMS総院長、ペシャワール会現地代表)の後を継ぎ、2019年12月よりPMS総院長に就任、ペシャワール会会長を兼任する。
中村医師との公私にわたる交友は46年におよび、ペシャワール会発足当初から一貫して活動を支えている。

*PMS:ピース ジャパン メディカルサービス(平和医療団・日本)

中村哲医師によって創設されたアフガニスタン現地事業体

 

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フリージャーナリスト・加藤勝美氏について

ペシャワール会北摂大阪。
1937年、秋田市生まれ。大阪市立大学経済学部卒
月刊誌『オール関西』編集部、在阪出版社編集長を経て、1982年からフリー
著書に『MKの奇蹟』(ジャテック出版 1985年)、『MK青木定雄のタクシー革命』(東洋経済新報社 1994年)、『ある少年の夢―稲盛和夫創業の原点』(出版文化社 2004年)、『愛知大学を創った男たち』(2011年 愛知大学)など多数。

MK新聞への連載記事

1985年以来、MK新聞に各種記事を連載中です。

1985年11月7日号~1995年9月10日号 「関西おんな智人抄」(204回連載)
1985年10月10日号~1999年1月1日号 「関西の個性」(39回連載)
1997年1月16日号~3月16日号 「ピョンヤン紀行」(5回連載)
1999年3月1日号~2012年12月1日 「風の行方」(81回連載)
2013年6月1日号~現在 「特定の表題なし」(連載中)

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