エッセイ「本だけ眺めて暮らしたい」【352】|MK新聞連載記事

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エッセイ「本だけ眺めて暮らしたい」【352】|MK新聞連載記事

MKタクシーの車載広報誌であるMK新聞では、大西信夫さんによる様々な身近な事柄を取り上げたエッセイ「本だけ眺めて暮らしたい」を前身を含めて1988年5月22日から連載しています。
MK新聞2017年8月1日号の掲載記事です。

 

本だけ眺めて暮らしたい

ジョージ・A・ロメロ監督が七月十六日に亡くなった。享年七十七。今日、一つのジャンルとして確立したゾンビ映画の原型を造った人だ。
生ける屍――ゾンビに噛みつかれた人間もまたゾンビとなり、ゾンビは幾何級数的に増殖してゆく。なぜ、ある日突然にゾンビとして死人が蘇るようになったのか、どういう要因で噛まれた人がゾンビになるのか、何もわからない。
理由もなくジワジワと追いかけてくるゾンビの群れから、ただひたすら逃げ続けるのは、たびたび見る悪夢のような根源的恐怖だ。

1968年公開の『ナイト・オブ・ザ・リビング・デッド』から、二〇〇九年公開の『サバイバル・オブ・ザ・デッド』まで、本家である彼自身のゾンビ映画は全六作。四十年以上にわたって、この根源的恐怖を繰り返し描いてきた。
私はゾンビ映画が好きだ。これまで、別の筆名で映画紹介をあちらこちらに記してきたので、それらをリミックスして振り返ってみよう。

死後が〈無〉だなんて、そんな考えは所詮楽観論だよ」という、ある高名な自然科学者の言葉を思い出す。死に切れない死人として何度でも永遠に生き返らなければならないとしたら、こんな怖ろしいことはない。
考えてみれば、同類になるまで追いかけて来るヤツらは、ゾンビに限らず私たちの身の周りにいくらでもウヨウヨしている。「一千万ダウンロード、加入者急増中のSNSは……」「これが今、注目ダイエット法……」「バッグ、腕時計……海外高級ブランド、春の新作大特集……」。

今の世の中、いっそ同類になってしまった方が何も考えず気楽に過ごせるじゃないか。いや、そんなふうには思いたくない――ゾンビ映画を観ながら、ふとそんなことを考えたりする。
『猿の惑星』の猿は、アメリカ人にとって日本人がモデルだったという見方がある。それならゾンビ映画は、世界中で人口が増加しつつある、ある異教徒に対するキリスト教徒の強迫観念だと言えるかもしれない。
ゾンビから自分だけが助かろうとして人間同士が殺しあったり、金持ちは安全地帯に住んで貧乏人はゾンビ危険地区に住まざるを得なかったり、ゾンビを絶滅させようとする派閥とゾンビを飼いならして共存しようとする派閥が対立して紛争になったり――そう、ゾンビは人間の本性をあぶり出す鏡なのだ。

 

MK新聞について

「MK新聞」は月1回発行で、京都をはじめMKタクシーが走る各地の情報を発信する情報紙です。
MK観光ドライバーによる京都の観光情報、旬の映画や隠れた名店のご紹介、 楽しい読み物から教養になる連載の数々、運輸行政に対するMKの主張などが凝縮されています。
40年以上も発行を続けるMK新聞を、皆さま、どうぞよろしくお願いします。

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MK新聞への大西信夫さんの連載記事

1988年以来、MK新聞に各種記事を連載中です。

1988年5月22日号~1991年11月22日号 「よしゆきの京都の見方」(45回連載)
1990年1月7日号~1992年2月7日 「空車中のひとりごと」(12回連載)
1995年1月22日号~1999年12月1日号 「何を見ても何かを思う」(64回連載)
1996年4月16日号~現在 「本だけ眺めて暮らしたい」(連載中)

 

本だけ眺めて暮らしたい バックナンバー

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