ペシャワール会・中村哲さん、灌漑工事事業でアフガニスタン大統領から叙勲|MK新聞2018年掲載記事

よみもの
ペシャワール会・中村哲さん、灌漑工事事業でアフガニスタン大統領から叙勲|MK新聞2018年掲載記事

MKタクシーの車内広報誌であるMK新聞では、フリージャーナリストの加藤勝美氏及びペシャワール会より寄稿いただいた中村哲さんの記事を、2000年以来これまで30回以上にわたって掲載してきました。
MK新聞2018年5月1日号の掲載記事の再録です。
原則として、掲載時点の情報です。

中村哲医師の関連記事はこちら

ペシャワール会・中村哲さん、灌漑工事事業でアフガニスタン大統領から叙勲

アフガニスタンのガニ大統領から中村哲さんに会いたいという意向が伝えられ、今年2018年2月7日、官邸で会見が実現した。
中村哲さんは旱魃被害の実態を訴えるつもりだったが、大統領は逆に「私は問題の鍵を探していた。君の仕事がその鍵だ。会いたかったのだ」と言う。
筆者(加藤)はMK新聞2017年12月1日号に中村哲著『アフガン・緑の大地計画 伝統に学ぶ灌漑工法と甦る農業』(石風社、2017年6月)の紹介記事を掲載したが、同書はアフガンに適した灌漑工法を解説する技術書で、その英語版が国連食糧農業機関(FAO)からガニ大統領に届けられた。
そして、アフガンの土地管理局長からPMS副院長で医師のジア・ウル・ラフマンさんに、中村哲さんの経歴書を送るように連絡があった(PMS=ピース・ジャパン・メディカル・サービス=平和医療団・日本)。

鈴鹿日本大使、パイカル土地管理局長、ドゥラニ農業大臣の列席のもと行われた授与式(ペシャワール会会報135号から)

鈴鹿日本大使、パイカル土地管理局長、ドゥラニ農業大臣の列席のもと行われた授与式(ペシャワール会会報135号から)

ガニ大統領はこの本を6時間かけて一気に読み、閣僚たちを「全力でこれを学べ」と叱咤したという。
2月4日には農業省で説明会が開かれ、同省の灌漑専門技術者、PMSのジア医師とディダール技師が出席して、内容を検討し、同書は「単純に見えて深い内容」と評価された。
中村哲さんは、ペシャワール会会報2018年4月1日発行の135号に書いている。
「大統領は小生(1946年生まれ)と同年配、パシュトゥン遊牧部族出身、見識のある方でした。今回の叙勲はPMSにとって特別嬉しいもので、全職員大いに励まされました。」
「長年の灌漑の仕事が地元で評価され、私たちの声が為政の中枢にも届いたからです。悠久のアフガニスタンは戦いでは滅びませんが、温暖化による旱魃で滅び得ます。水の仕事は自然が相手で、効果を得るまで長い時間がかかります。一世代で解決できることではありません。幸い内外の多くの良心に支えられ、アフガニスタン東部の一角に確かな実例が築かれようとしています。この確かな希望を身をもって守り育て将来に備えることです。」

またジア医師は言う。「これまで他の支援団体が何度も試みてはうまく行かなかった取水設備が、PMSの灌漑方式を取り入れることによって適切に機能し続け、十分な水量が得られるようになり、現地住民や政府にとって大きな意義をもたらしました」。

英語版『Afganistan Green Ground Project』が日の目を見るまで多くの苦労があった。PMS支援室の浦田菖平さんによると、日本語から翻訳されたものの編集が始まったのは昨年2017年6月で、9月末に刊行されたが、支援室の全員が挿入写真選びや単語の大文字小文字など校正に神経を使った。
この本は周辺四州のPMS職員、地域の農業指導者、水番、東部行政関係者と請負の技術者のトレーニング用教科書となる。
中心となる会計作業は現地が行い、アフガンの政府関係、基金団体への会計報告書作成や資材管理の集計など多岐にわたる。
(2018年4月5日記)

カブール近郊の村で長老たちと話し合い

カブール近郊の村で長老たちと話し合い

 

アフガンの水資源開発に携わったJICA国際協力専門員・永田謙二さんからの手紙

ペシャワール会中村哲さん叙勲のきっかけとなった著書『アフガン・緑の大地計画』(石風社)には永田謙二さんの論文「アフガニスタンにおける水資源・灌漑攻策」が約40ページにわたって収録されていた。同書の紹介記事(MK新聞2017年12月1日号)の中で、執筆者の加藤は永田さんへの手紙も併記していた。
このたび、永田さんから加藤宛に返信が届き、ご本人の了解を得て、その全文を採録した。

「銃声と砲声、自爆テロのなかで」永田謙二

加藤勝美様
陽光うららかな季節になってきました。いかがお過ごしでしょうか。12月にお手紙を頂いておきながら、どのように御返事を書こうか迷っているうちに、冬が過ぎ、もう、春となってしまいました。本当に申し訳ありません。
私の研究論文について新聞記事を書いていただき、またその内容をご評価いただき、本当にありがとうございます。
私とアフガニスタンとの「出会い」は、アフガニスタン国家開発戦略に対して、JICA有志の一員として、その水資源分野へのコメントを書いた2006年が初めてでした。その後、2009年頃からカブール新都市の水資源開発計画に携わるようになり、何度かアフガニスタンに出張し、政府職員と協議を行うと共に、新都市予定地や水資源開発現場を訪れました。それから約1年半後の2011年8月にアフガニスタン水・エネルギー省に長期専門家として赴任して2年半を過ごし、2014年2月に帰国しました。

カブール近郊農村の現地調査:近所の子供たちと共に

カブール近郊農村の現地調査:近所の子供たちと共に

この間、何度か「事件」に遭遇しました。
最も大きな事件は、2010年1月、カブールの政府施設などへのタリバンによる大規模複合攻撃でした。
遠くで銃声と砲声が聞こえだしたかと思うと、近くで爆弾の大音響が轟き、滞在していた建物の地下室に避難しました。
地下室には、十数人の子供やお母さんが避難してきており、数時間、銃声と砲声を聞きながら待っていました。
不思議と恐怖感はなく、自分がこのような現実に直面しているという感覚に乏しく、政府の人たちと地下室の中で、水資源管理の現状や現場の話を聴いて時間を過ごしていたことを覚えています。

また、政府機関での勤務中、敷地に入るゲート付近で自爆テロがあり、爆音と共に執務室のガラスが大きな音を立てて震え、思わず廊下に飛び出したことがありました。
アフガニスタンの職員たちは、ゆっくりと中廊下には出てきているものの、「またか」と困ったような顔をしていただけだったのが印象的でした。
このような「事件」は、厳冬の季節になると冬休みになるのですが、季節が緩むとタリバンは「春の大攻勢」を宣言し、「事件」は概ね2ヵ月に一回は起こり、それが常態化している状況でした。
今現在の治安状況はさらに悪化しているようです。

私の研究論文の根本主題は、「アフガニスタンが平和になるために、復興と再建をどのように実施していくべきか」ですが、これは、上記のような事件を何度も現地で体験しながら、「国際社会が大きな資金と人材をつぎ込んで、10年以上もアフガニスタンを支援し続けているのに、なぜ治安は回復しないのか」という素朴な疑問から始まりました。
そして、2年半のアフガニスタン滞在中に、水資源政策の中枢で水・エネルギー省の副大臣や局長達と議論し、世界銀行やアジア開発銀行などのドナーと共に協調しながら、アフガニスタンの水資源政策について考えてきました。そのような時、中村先生が主導するマルワリード灌漑事業が大きな成功を収めていることを知りました。灌漑用水を農地に届けるだけではなく、それによって地域社会が豊かになり治安が安定して、地域の人々が家族と共に生きていけるようになった。その地域社会を重視する土木事業と計画・実施プロセスと成果に注目しました。アフガニスタンの農村では、戦乱と渇水の二重苦で、家族を養うことができず、しかたなく、軍閥の下で戦闘に参加して給料をもらっている人も多かったと聞いています。自分と家族が「安心して尊厳を持って生きていける」ようになれば、アフガニスタンの多くの人々は、戦争などしたくないのです。
私の論文の結論は、「アフガニスタンという国を支える地域社会の人々のニーズに、国が真に向き合って政策を進めれば、必ず、アフガニスタンの復興は実現する」ということです。ペシャワール会が支援するPMSによる水資源・灌漑事業は、まさしく地域社会のニーズに応える事業であり、今後、このような事業をアフガニスタン全土に広げていければ、必ずアフガニスタンの再建はなると思います。その先頭に立っているペシャワール会とPMSに、私自身が僅かでもお役に立てているとすれば、本当に光栄なことだと思っています。そして、長い時間が必要であるとは思いますが、PMS方式による水資源・灌漑事業のアフガニスタン全土への普及を、是非、後押ししたいと考えています。
今後とも、JICAとPMSとの共同事業に、ご理解・ご協力を賜りますよう、よろしくお願い致します。また、お会いできるのを楽しみにしています。
2018年4月2日
永田謙二

追伸
3月30日に、久しぶりに博多に行き、中村先生や村上会長、福元さんや藤田さんなど、ペシャワール会の方々とお会いしました。中村先生の元気なお姿を見、親しくお話させていただいて、楽しいひと時でした。

マザリシャリフ近郊で:ガードマン達と共に

マザリシャリフ近郊で:ガードマン達と共に

 

永田 謙二

独立行政法人国際協力機構 国際協力専門員(水資源・防災)
1956年 大阪府松原市まれ
1980年 東京農工大学大学院修士課程修了、八千代エンジニヤリング株式会社入社
2005年 国際協力専門員(水資源・防災)として国際協力機構(JICA)に入講
2011年から3年間、アフガニスタン国水・エネルギー省にJICA専門家として赴任
2017年 東京大学大学院博士課程修了(博士:国際協力学)
主な邦語論文に「半乾燥地域における洪水への対処-チュニジア国メジェルダ川の事例」土木学会誌2010年8月号特集『極端気象に備える』、「アフガニスタンにおける水資源セクターの復興支援政策」水文・水資源学会誌30 巻4 号(2017年)

水・エネルギー省での副大臣を交えた会議風景

水・エネルギー省での副大臣を交えた会議風景

 

中村哲医師・ペシャワール会の関連記事

2000年代の掲載記事

2010~2017年の掲載記事

2018年の掲載記事

2019年の掲載記事

2020年の掲載記事

2021年の掲載記事

2022年の掲載記事

 

 

MK新聞について

MK新聞とは

「MK新聞」は月1回発行で、京都をはじめMKタクシーが走る各地の情報を発信する情報紙です。
MK観光ドライバーによる京都の観光情報、旬の映画や隠れた名店のご紹介、 楽しい読み物から教養になる連載の数々、運輸行政に対するMKの主張などが凝縮されています。
40年以上も発行を続けるMK新聞を、皆さま、どうぞよろしくお願いします。

ホームページからも最新号、バックナンバーを閲覧可能です。

 

フリージャーナリスト・加藤勝美氏について

ペシャワール会北摂大阪。
1937年、秋田市生まれ。大阪市立大学経済学部卒
月刊誌『オール関西』編集部、在阪出版社編集長を経て、1982年からフリー
著書に『MKの奇蹟』(ジャテック出版 1985年)、『MK青木定雄のタクシー革命』(東洋経済新報社 1994年)、『ある少年の夢―稲盛和夫創業の原点』(出版文化社 2004年)、『愛知大学を創った男たち』(2011年 愛知大学)など多数。

MK新聞への連載記事

1985年以来、MK新聞に各種記事を連載中です。

1985年11月7日号~1995年9月10日号 「関西おんな智人抄」(204回連載)
1985年10月10日号~1999年1月1日号 「関西の個性」(39回連載)
1997年1月16日号~3月16日号 「ピョンヤン紀行」(5回連載)
1999年3月1日号~2012年12月1日 「風の行方」(81回連載)
2013年6月1日号~現在 「特定の表題なし」(連載中)

この記事が気に入ったらSNSでシェアしよう!

関連記事

まだ知らない京都に出会う、
特別な旅行体験をラインナップ

MKタクシーでは様々な京都旅コンテンツを
ご用意しています。