ロンドンからパレスチナへ③|MK新聞連載記事

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ロンドンからパレスチナへ③|MK新聞連載記事

MKタクシーの車載広報誌であるMK新聞では、フリージャーナリストの加藤勝美氏よりの寄稿記事を掲載しています。
パレスチナカメラマン・桐生一章氏のロンドンからパレスチナへ③「ナブルスの難民キャンプで」です。
MK新聞2015年2月1日号の掲載記事です。

ナブルスの難民キャンプで

歴史ある街

ビリン村から、次はナブルスに向かうことにした。
ナブルス難民キャンプ出身の人にキャンプに招待してもらったのだ。
ラマッラーからナブルスまで1時間ほど。以前あった検問所は、今は使われていないので移動が楽である。
検問所を通るときは少なくとも半時間はかかる。しかも一旦車を降りて検問所を通り、そこからタクシーを乗り換えなければならなかった。
高圧的なイスラエル兵にパスポートを見せないで済むのは気が楽だ。
しかし、いつこの検問所が再開されるかはわからない。

ナブルスは人口33万人。そのうち難民が3万5000人ほど。
パレスチナ難民は自治区内のほか、ヨルダン、シリア、レバノンに500万人ほどいる。
この難民の帰還権はパレスチナ問題の大きな課題の一つである。
難民は1948年のナクバ(アラビア語で「大厄災」の意)によって現在のイスラエル領から追い出された人たちの子孫である。

ナブルスの街はとても古い歴史を持ち、ナブルス市にある小高い山の上にはサマリア人が住んでいる。
街には市街地と旧市街がある。旧市街は小さな店が軒を並べていて生鮮食品から香辛料、おもちゃ、タバコなど何でも売っている。
アラビア式銭湯ハマムもある。水が出ることでも有名で、旧市街では無料で湧き水を飲むことができる。
難民キャンプはナブルス市とほぼ接近して作られていて、市街地から車で5分とかからない。
キャンプと言っても、60年も経てば家々はコンクリート製になっている。
入り口の道路こそ幅が少しあるが、キャンプの中は細い通路で、まるで迷路のようだ。
難民キャンプに侵攻してくるイスラエル軍は地図を持ってくるという。

国際法違反の分離壁に向かってパレスチナ国旗を揚げる人(ビリン村)

国際法違反の分離壁に向かってパレスチナ国旗を揚げる人(ビリン村)

人にも家にも銃痕

最初に家に招待してもらって、すぐに一人でキャンプ内を見て回ることにした。
すぐ近くのファラーフェル屋に入り腹ごしらえをする。
ファラーフェルはひよこ豆をすりつぶして油で揚げたもの。これを野菜と一緒にパンにはさんで食べる。
アジア人が一人でファラーフェルを食べていると、珍しがって子どもたちが集まってきた。

その店で英語が話せる人に会う。
彼はアメリカに住んでいるが自分の子どものビザのために一時帰国しているという。
その人に通訳してもらい、店で会った別の男性からも話を聞いたところ、弟をイスラエル兵に射殺されたそうだ。銃弾を140発も撃ち込まれたらしい。
もう1人の兄弟も殺されたらしい。通訳してくれた彼の顔にも銃痕があった。
パレスチナではこういう話を聞く機会が多い。
ほとんど100%のパレスチナの人々はこういう痛ましい出来事を経験していると思う。

アメリカ在住の彼にキャンプ内を案内してもらった。
家と家の間の道はすれ違うとき、体が触れてしまうぐらい細い。
家は敷地がないので上にのびていくしかなく、どの家も3階4階建てが当たり前だ。迷
路のような通路で子どもたちが遊んでいる。
少し広くなっているところではボール遊びをしていたりする。

2人で歩いていると、1人の男性に出会った。彼はこのキャンプ内から出られないという。
イスラエルのためにスパイ活動をしていた人物を殺害したためだ。
アメリカ在住の彼がお茶に招待してくれた。家の中を案内してもらう。
ドアに銃痕があった。連射されていた。これはイスラエル兵が家に押し入って、各部屋に人がいるかどうか確認のためにドア越しに発砲した跡だという。
壁にも銃痕が残っていた。
彼はアメリカに帰るのが少し遅れるらしい。まもなく彼の子どもが新たに生まれるため、少し滞在を延ばすんだとうれしそうに言っていた。

キャンプ内にあるパン屋に行ってみる。パレスチナではパンをよく食べる。
両の手のひらほどの大きい白い丸いパンはファラーフェルサンドイッチなどに使われている。
どこでもその日に焼いたパンが売られていて、おいしいパンが手に入る。
自分でパンを焼く人も多い。パン屋の裏手は広い工場になっていて大きな機械を使ってパンを焼いていた。
焼きたてのパンの香ばしいにおいがする。パン屋のお客や主人は突然の訪問にも関わらずパン屋の中を案内してくれた。
パレスチナ難民が、今はイスラエル領となっている自分たちの出身地に帰れる日が来るのだろうか。

 

MK新聞について

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「MK新聞」は月1回発行で、京都をはじめMKタクシーが走る各地の情報を発信する情報紙です。
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フリージャーナリスト・加藤勝美氏について

ペシャワール会北摂大阪。
1937年、秋田市生まれ。大阪市立大学経済学部卒
月刊誌『オール関西』編集部、在阪出版社編集長を経て、1982年からフリー
著書に『MKの奇蹟』(ジャテック出版 1985年)、『MK青木定雄のタクシー革命』(東洋経済新報社 1994年)、『ある少年の夢―稲盛和夫創業の原点』(出版文化社 2004年)、『愛知大学を創った男たち』(2011年 愛知大学)など多数。

MK新聞への連載記事

1985年以来、MK新聞に各種記事を連載中です。

1985年11月7日号~1995年9月10日号 「関西おんな智人抄」(204回連載)
1985年10月10日号~1999年1月1日号 「関西の個性」(39回連載)
1997年1月16日号~3月16日号 「ピョンヤン紀行」(5回連載)
1999年3月1日号~2012年12月1日 「風の行方」(81回連載)
2013年6月1日号~現在 「特定の表題なし」(連載中)

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