エッセイ「本だけ眺めて暮らしたい」【363】|MK新聞連載記事

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エッセイ「本だけ眺めて暮らしたい」【363】|MK新聞連載記事

MKタクシーの車載広報誌であるMK新聞では、大西信夫さんによる様々な身近な事柄を取り上げたエッセイ「本だけ眺めて暮らしたい」を前身を含めて1988年5月22日から連載しています。
MK新聞2018年7月1日号の掲載記事です。

 

 

本だけ眺めて暮らしたい

トランプ大統領は、不公正な取引慣行によってアメリカが貿易赤字(収支不均衡!?)に陥っていると主張している。鉄鋼などに大幅な輸入関税を課し、さらに自動車にもと鼻息が荒い。
でも、そもそも“貿易赤字”とは何だろう。
報道や論評など世の中では、基本的に貿易赤字は解消すべき望ましくない状態という前提で使われている用語だ。
しかし、貿易赤字というのは、単に輸出と輸入の合計額の差を示しているに過ぎず、家計で収入より支出が多いこととは意味が違う。
経常収支や為替相場などとの連関を含めた議論ならともかく、貿易収支はプラスであろうがマイナスであろうが、それ自体が良い悪いということはなく、「赤字」という言葉のイメージが誤解の元だとの指摘もある。

また一方で、そんな雑な認識を持っている連中は経済がまるでわかっていないズブの素人だという雑な再反論がある。
ただ、その素人の一人である私が思うに、トランプ大統領はそもそも、勝負に負けたら「不公平な試合だ」と叫ぶような負けず嫌いのタイプだし(就任以来の彼の言動を見ていれば誰もが同意すると思う)、その種の人間が「だから大幅な輸入関税を課す」と息巻いているのだから、アメリカは自ら望んで外国からさんざんモノを輸入して大きなメリットを享受しておきながら、その上、また逆に、貿易赤字に対する皆の誤った認識を利用してアメリカを巧みに被害者にすり替え、欲しいモノを売ってくれた外国を逆恨みで責めたてて、アメリカ国民の支持を集めようとしている本能的な(政治経済学的見地に基づく政策ではなく不公平感という庶民感情をあおる)やり口なんだろうなと想像してしまう。
現にアメリカは輸出額より輸入額が上まわっている国なのだから(ただし、モノ。サービスではない)、輸入品に押されている国内産業従事者の支持を集めることができれば、数の論理で再選が期待できるのだろう。

「貿易赤字」は、言葉の実用面において、アメリカ大統領の手元にあり手軽に振りかざせる金棒に違いない。
「アメリカ・ファースト」も、そう。
トランプ大統領が発する一見自明の語句を彼と同じ概念を示すものとして無批判に復唱する報道メディア。これらの言葉をズブの素人である政治家、トランプ大統領の武器たらしめているのは何か。考えたほうがいい。

MK新聞について

「MK新聞」は月1回発行で、京都をはじめMKタクシーが走る各地の情報を発信する情報紙です。
MK観光ドライバーによる京都の観光情報、旬の映画や隠れた名店のご紹介、 楽しい読み物から教養になる連載の数々、運輸行政に対するMKの主張などが凝縮されています。
40年以上も発行を続けるMK新聞を、皆さま、どうぞよろしくお願いします。

ホームページからも最新号、バックナンバーを閲覧可能です。

MK新聞への大西信夫さんの連載記事

1988年以来、MK新聞に各種記事を連載中です。

1988年5月22日号~1991年11月22日号 「よしゆきの京都の見方」(45回連載)
1990年1月7日号~1992年2月7日 「空車中のひとりごと」(12回連載)
1995年1月22日号~1999年12月1日号 「何を見ても何かを思う」(64回連載)
1996年4月16日号~現在 「本だけ眺めて暮らしたい」(連載中)

 

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