フットハットがゆく!【368】「猟犬の話」|MK新聞連載記事

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フットハットがゆく!【368】「猟犬の話」|MK新聞連載記事

MKタクシーの車載広報誌であるMK新聞では、塩見多一郎さんのエッセイ「フットハットがゆく」を2001年11月16日から連載しています。
MK新聞2025年3月1日号の掲載記事です。

猟犬の話

今年の1月、育てた愛犬と一緒に、ついにイノシシを仕留めました!

その日は巻狩り、僕と猟犬のレッドが勢子で、待ちに7人の猟師が入りました。僕が山に入って尾根に着いた頃、レッドが中腹で何かを見つけ低く鳴き出しました。鳴く方に山を下がっていくと、そこに深い灰色の大きなイノシシが突っ立っていました。とても大きい100kg級のやつで、山の中で見るとモンスターのように見えました。猟犬に吠え立てられると、シカならすぐ全速力で逃げますが、イノシシは猟犬よりも強いので、立ち止まって応戦しようとします。勇敢というか無鉄砲な猟犬は、ここでイノシシに向かって行き咬みつこうとして、結果的に鋭い牙で突き飛ばされ、大怪我をしたり死んだりします。猟師もイノシシと犬の距離が近いと、猟銃を撃てません。しかし、レッドのように臆病な犬は、イノシシから30mも距離をあけて、けたたましく吠え続けるだけです。距離があるので、イノシシもあえて犬に突進しようとはせず、防御の姿勢をとりながら突っ立っているのです。この状態を「止める」と言います。猟師としてはこれが一番いい状況です。イノシシが本気で逃走態勢に入ってしまうと、山の中を時速50キロ以上で走ります。これは獲物というより疾風のように見えて、銃で当てるにはかなりの高等技術が要ります。しかしレッドが起こしたイノシシは、その30m先で止まっています。新米の僕にも撃ちごろです。ズドン! と猟銃をぶっ放しました。イノシシは踵を返して一目散に逃げました。しまった! 外した! 僕の脳裏は絶望と後悔でいっぱいになりました。せっかく愛犬のレッドが起こし止めた、超大型のイノシシを、僕が撃ち損ねてしまった! しかし、ここで落ち込んでいる場合ではないのです。勝負は山を降りるまで分かりません。すぐ銃に弾を込め直し、逃げたイノシシの後を追いました。

そのイノシシは待ちの方には走らず、しばらくして勢子の僕がいる尾根にまた戻って来て、レッドが再び発見しました。僕は2発追撃し、イノシシももんどり打って転びましたが、起き上がって逃げて行きました。いよいよ己の腕の未熟さを呪いたくなった頃、3度、レッドがイノシシを発見しました。最後に撃った場所から300m以上離れた場所で、イノシシが倒れていました。結果的に、僕が撃った3発の銃弾は全て当たっていて、急所を外れていたため、しばらく逃走した後、ついに力尽きたのです。最後にレッドが見つけてくれなければ、そのイノシシが山の中で死んでも、僕も猟隊もなんの獲物もないまま、トボトボと山を降りるところでした。レッドを抱きしめて、頭を掻きむしるようにして激しく褒めました。というか僕のミスを3度も救ってくれて、感謝! 感謝! しかありませんでした。

獲ったイノシシはその日のうちに猟隊8名で解体、等分したお肉をそれぞれ持ち帰りました。山の御命に感謝。自分が育てた愛犬とともに、自分の鉄砲で仕留めたイノシシの味は、格別のものでした。

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