エッセイ「本だけ眺めて暮らしたい」【397】|MK新聞連載記事

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エッセイ「本だけ眺めて暮らしたい」【397】|MK新聞連載記事

MKタクシーの車載広報誌であるMK新聞では、大西信夫さんによる様々な身近な事柄を取り上げたエッセイ「本だけ眺めてくらしたい」を前身を含めて1988年5月22日から連載しています。
MK新聞2021年5月1日号の掲載記事です。

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本だけ眺めてくらしたい

建築家の安藤忠雄を取材したテレビ番組を観ていたら、興味深い場面があった。
世界をまたにかけ多忙だった安藤も、建設計画の相次ぐ延期や中止など、コロナの影響を大いに受けているという。
仕事が減ることで生じた時間を念頭に、日頃から本を読むように言われていますねと取材者が水を向けたのに対して、彼はこう答えた。
「なかなかこういうときは読めない。だいたいそういうもんでしょ。落ち着かへんわね」と。
なるほど……言われてみると、確かにそうだなぁと納得した。
今、メディアでよく耳にするのは「コロナ禍で本を読むようになった」という声だ。
実際、取次大手の日本出版販売によると緊急事態宣言下の2020年5月は書店の店頭売上が前年同月比11.2%増だったという。紙の本と電子書籍を合わせた昨年一年間の推定販売額も前年を上まわった(出版科学研究所まとめ)。
もっとも、「本を読むことの大切さ」で想像するような本ではなく、『鬼滅の刃』のヒットと電子コミックの急増が主な要因のようだが……。
ともかく、「コロナ禍で本を読むようになった」という声は、メディアでよく聞く。しかし、彼はそういったセリフには流されず、自らの心情にちゃんと目を向け、素直にあらわした。

番組は、次世代への忠告が主題。昨年、大阪市内に開館した児童図書館に安藤(設計、建設を寄贈)が込めた思いに焦点をあて、彼が自らの人生を振り返りながら読書の大切さを説いている。
そういう文脈の中で、先の質問があった。
もしかしたら、取材者はメディアでよく耳にするような返答を想定していたのかもしれない。テレビを観ている皆さんも、こんなときこそ本を読んで読書の大切さを再確認してみては? と。
安藤は“分刻みの殺人的スケジュール”で仕事をこなしている(かつて私も取材で余白の全くない予定表を見せてもらったことがある)。
彼はそんな生活の中で寸暇を惜しんで本を読んできた。思わぬ時間が降ってわいたから読書をしていたのではない。
それに、商売人として、また、多くの従業員を抱える親方として、現在の状況が、いつものように本を手にする気になれないのは、まっとうな感覚ではないだろうか。
おうち時間に久しぶりに本を読みました! なんていう人は、コロナ禍が収束したら、あっさり読まなくなるのだろう。

MK新聞について

「MK新聞」は月1回発行で、京都をはじめMKタクシーが走る各地の情報を発信する情報紙です。
MK観光ドライバーによる京都の観光情報、旬の映画や隠れた名店のご紹介、 楽しい読み物から教養になる連載の数々、運輸行政に対するMKの主張などが凝縮されています。
40年以上も発行を続けるMK新聞を、皆さま、どうぞよろしくお願いします。

ホームページからも最新号、バックナンバーを閲覧可能です。

MK新聞への大西信夫さんの連載記事

1988年以来、MK新聞に各種記事を連載中です。

1988年5月22日号~1991年11月22日号 「よしゆきの京都の見方」(45回連載)
1990年1月7日号~1992年2月7日 「空車中のひとりごと」(12回連載)
1995年1月22日号~1999年12月1日号 「何を見ても何かを思う」(64回連載)
1996年4月16日号~現在 「本だけ眺めて暮らしたい」(連載中)

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