フットハットがゆく!【355】「猟犬の失踪」|MK新聞連載記事
MKタクシーの車載広報誌であるMK新聞では、塩見多一郎さんのエッセイ「フットハットがゆく」を2001年11月16日から連載しています。
MK新聞2023年7月1日号の掲載記事です。
猟犬の失踪
僕は犬を二匹飼っていて、猟犬の卵として育てています。姉弟のレッド(メス10ヶ月)とブルー(オス10ヶ月)です。いつもトラブルを起こすのはブルーです。昨年、3ヶ月の子犬の時に2匹でうちに来て、翌日ネズミ取り用の粘着シートにベッタリとくっついてしまったのはブルー。僕が裏山に仕掛けたシカ用のくくりわなに、間違ってかかってしまったのもブルー。真冬に池の薄氷の上に乗り、氷が破れて池にハマってしまったのもブルー。動物病院に行く時に、車で吐くのもブルー、車にウンチをしてしまうのもブルー。そしてつい先日、山奥で猟犬の訓練中に、帰って来られなくなったのもブルーでした。猟犬(うちはまだ見習いですが…)が山から帰って来られなくなるのには、いくつかパターンがあります。
その1…シカやイノシシなどの獲物を熱心に追いかけ回した結果、主人とはぐれ迷子になる。
その2…山で事故に遭う。山での事故は何パターンかあります。攻撃力のあるイノシシの牙にかけられて死亡する。熱中症など、山道を走りすぎて心臓発作を起こして死亡する。アナグマの穴に入り、出られなくなる。普通の猟犬は狭い穴にもぐり込んでしまうと、バックして出ることができません。(アナグマ専用の猟犬・ダックスフンドは除く。)などです。
ブルーはどのパターンで山から帰って来られなくなったのでしょうか? 近所の人に聞くと、犬は帰巣本能が強いから1週間ほどしたらひょっこり帰ってくることが多い、と聞きました。毎日レッドと一緒にブルーを見失った山奥に探しに出かけ、アナグマの穴を探して調べたり、川や池に落ちて死骸が浮いていないか調べました。心配ごとは二つ、ブルーの生死はもちろん、生きていたとして、野犬化し里に降りて人や家畜に危害を加えることです。
1週間ほど経ちましたが、帰ってくる気配がありませんでしたので、保健所に連絡してみました。すると、ブルーによく似た特徴の犬が動物愛護センターに保護されていることが分かりました。結果的には、ブルーは失踪した場所から山の反対側に下りてしまい、そこで犬に慣れた一般の方に保護され、警察に引き渡され、保健所を通して動物愛護センターに移送された、とのことでした。保護されたのは失踪して三日目の事でしたので、もっと早く保健所に連絡していれば、もっと早くブルーに再会出来たのだと反省いたしました。
保健所の指導により、引き取りに行った次の日には、動物病院にてブルーとレッドの首にマイクロチップを挿入。チップ番号を環境省とAIPO(動物ID普及推進会議)のデータバンクにも登録。これで、万が一また失踪しても、保護されればすぐに身元が判明することになります。犬用のGPSも購入して首輪に装着しました。お金がかかります。科学の力に頼っています。でも本当に大事なのは犬と人間の信頼関係。呼び戻しの訓練、しつけ。ブルーとレッドは猟犬として成長できるのか?僕は猟師として成長できるのか?まだまだ試練は多そうです。
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