フットハットがゆく【332】「田舎ウォーズ」|MK新聞連載記事

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フットハットがゆく【332】「田舎ウォーズ」|MK新聞連載記事

MKタクシーの車載広報誌であるMK新聞では、塩見多一郎さんのエッセイ「フットハットがゆく」を2001年11月16日から連載しています。
MK新聞2021年8月1日号の掲載記事です。

 

 

田舎ウォーズ

養蜂を始めて、気になるのは蜜源です。
うちの周りにはあまり花がありません。半径2~3キロの行動範囲を持つミツバチは、いろんなところに飛んで花を探すのですが、少しでも足しになるように、自家菜園の畑を拡張してヒマワリを植えることにしました。
ヒマワリの蜜や花粉はミツバチの好物です。

 

ということで土を耕し、肥料をやって、タネをまいて、水をやって…。
ヒマワリのタネまき方法ですが、土に小さな穴を開けてそこにタネを2、3粒ずつまく、と書いてありました。
そして出た芽のうち強いものを残して間引きするそうです。
間引きするなら最初から一粒ずつまいた方が勿体無くなくていいのに…とも思うのですが、タネはタネ同士、競い合った方が発芽率も成長率も上がるそうです。
ライバルがいた方が伸びる、という勝負の鉄則が、こんな小さなタネたちの間にも生きているのです。
たとえ間引きをしなくても、勝負に負けた方は、先に伸びた葉に日光を遮られ、花を咲かせることもなく枯れゆく運命。
そうやって強いものだけが次のタネを残せるという厳しい世界。

 

そんなヒマワリたちがたくましく芽を出して成長していく姿を、目を細めて見守っておりましたが、ある晩、野生のシカに全部食われてしまいました。
シカやイノシシが畑を荒らすのは田舎では日常茶飯事。
彼らの侵入を防ぐために、防護柵を設置しなければならず、目を細めている場合ではなかったのです。
田舎では、鉄柵やビニール製のシカネットを設置するのが普通です。

 

しかし僕はこのシカネットが大嫌いです。
なぜなら自分がこの田舎の家を買った時、過去に放置され無用となったシカネットが笹の雑草群に複雑に絡まって、除去するのにノイローゼになりそうなほど苦労したのです。
自分が死んだ後も自然の中のゴミとして後世の者を困らすような物を、僕は設置したくなかったのです。

 

その代わりに取った方法が、裏山から竹を切り出して竹柵を作ることです。これは手間がかかります。
そして完成した後、2~3年で朽ちてしまいます。簡単に設置できて何十年も持つシカネットを使いたくなる気持ちもわかります。
職業として広大な土地で農作物を作る人はそれでしようがないでしょう。
僕は一個人の小さな自家菜園ですから、竹柵にこだわりました。朽ちるということは自然に還るということです。
山のゴミとして人間の一生より長く消えずに残るのとはわけが違います。

 

そうやって時間をかけて竹柵を作っているうちに、先にヒマワリの芽が出て、柵が完成する前にシカにやられた…というわけです。
タネをまく前に柵を作っておけよ! と自分でも思うのですが、たまたま時期が重なってしまった仕事を優先した結果…と言い訳してもいいわけない。

 

蜜源確保に手間取る間に、巣箱にはスズメバチが襲来し、働き盛りのミツバチをさらっていきます。
かわいい我がファミリーを守るために巣箱の前で虫取り網を振り回す毎日。スズメバチとの戦闘でまた竹柵作りが遅れる…。くそ~ッ負けへんぞ~! つづく

 

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