アメリカの傀儡政権をアフガン住民は支持していない|MK新聞2002年掲載記事
目次
MKタクシーの車内広報誌であるMK新聞では、フリージャーナリストの加藤勝美氏及びペシャワール会より寄稿いただいた中村哲さんの記事を、2000年以来これまで30回以上にわたって掲載してきました。
MK新聞2002年9月1日号の掲載記事の再録です。
原則として、掲載時点の情報です。
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カルザイ政権を住民は支持していない
パキスタンのペシャワールに本部病院を置き、隣国アフガニスタンにまたがって、医療活動や井戸掘りプロジェクトを続けている中村哲医師(1946年生まれ)が2002年7月7日、京都で活動報告会を行った(ピースウォーク京都主催)。
アフガニスタンの現状が中村哲さんの目にどんなふうに見えているのか、主な話題を紹介したい。
空爆は続いている
回数は減ったが地上戦は拡大している。
ペシャワール会の診療所がある村も、アルカイダの武器庫があるという理由で襲撃された。
しかし、村人が武器を持つのは一般的気風で、襲撃されたのは共同の倉庫だった。
死傷者が出、村人数人が連行されて暴行を受けた。
アルカイダを一掃しようとすれば、国中を襲撃しないといけないことになる。
結婚式場の誤爆のようなことは頻発しており、反米感情が高まっている。
カルザイ政権の行方
首都カーブルでも反米感情が高まり、だれが外国軍を襲撃してもおかしくない。
雑談をしているとわかるが、外国の傀儡政権だという意識が民衆に根づいており、99%までが、いいとは言わない。
歴史的にも傀儡政権がこの国を支配したことはなかった。
外国人に国を荒らされてたまるか、カルザイはそのシンボルだと言わないまでも、心中ではそう思っていると断言していい。
現政権は北部同盟とパシュトゥン勢力との派閥調整に追われている。
副大統領暗殺の原因はよくわからないが、権力闘争が背後にある。
実情は「日本の政治家たちを見ているとだいたい想像できる。日本の金やスキャンダルのかわりに、鉄砲の弾がとんで来ると思えば大変わかりやすい。多国籍治安維持軍6千人が去れば、政権は数日しかもたないだろう。
消されるかもしれないケシの話
タリバン時代にはほとんどゼロに近かったケシ栽培だが、今はわずかに残った農地で盛大に作付けされている。
“解放”されたのはアフガニスタンではなく麻薬であり、みだらな風俗だ。
ペシャワール会は麻薬撲滅などという大げさなスローガンは掲げないが、「麻薬を栽培すれば診療所を引きあげる」と地元の長老会(ジルガ)と十分な話し合いをもった。
ジルガの決定はきちんと守られている。
内実をあからさまにすると私が消されるかもしれないが、現地の政府高官、麻薬消費国(アメリカが最大)の政府高官がかかわっている。
とてもNGOの力では排除できない。
かつて最大の麻薬供給国としてアメリカから制裁を受けていたが、今年のタリバン崩壊直後にその制裁は解除された。
かなり大規模な組織が背後にあり、小麦の四、五十倍の値で取引されている。
アフガン戦争中、住民たちはケシを栽培し、ソ連の士官と取引をして武器弾薬を手に入れていた。
村が豊かになってたらふく食え、平和になって武器を買わなくてもいいようになることが必要だ。
国連が報償金を出して刈り取らせているが、これが逆に栽培を拡大させている。
オサマは死んだか?
これはだれもよくわからない。はっきりしているのはビン・ラーディンが死んでは困る者がいることだ。
ほかでもないアメリカ軍だ。戦争の理由がなくなる。
たとえ死んでいてもそれを隠す可能性はある。
もう一つ、あの社会では、この私でさえお尋ね者になれば完全に逃げてみせる自信がある。
客人として匿うと絶対に売り渡さない。
アメリカの矛盾
部族間抗争が激化している。しかも、カルザイ政権を擁立したアメリカが、政権と対立する勢力に武器、金を大量に援助している。
反タリバンを掲げる軍閥はいい軍閥として援助する。
現政権が苦慮しているのは、アメリカによって太りあがった軍閥をいかに退治するかだが、アメリカ軍がいる限り軍閥はなくならず、アメリカがいなくなると政権も数日で崩壊するという矛盾の中にある。
日本の米軍支援
自衛隊派遣そのものが軍事協力であり、参戦にほかならない。
軍事協力は必ずエスカレートして限界がなくなってくるのは歴史の鉄則。
外交努力をせずに、宇宙戦士ガンダムか何かの読みすぎみたいな筋書きで、国の将来を決定するのは国賊であり、日本国民の命を守るものではない。
この秋が岐路
カルザイ政権による軍閥討伐の結論が出るのがその頃であること。また干ばつのため難民となった人たちが、パキスタン政府の強い圧力で、半ば強制的に、生活できない所に追い返された。
今は世界食糧計画が食料を配って何とかもっているが、越冬できないだろう。
死ぬつもりになれば人間何でもできるから、冬の前に大きな大衆行動がなだれのように起きてくるだろう。
アメリカがどう出るのか。情報をいちばん持っているのはイギリスで、その軍はすでに撤退を始め、その後にトルコ軍が入り、そのトルコに日本政府は金を出そうとしている。
考えれば考えるほど、青筋が寒くなる。
(文貴・加藤勝美)
文献『中村哲さん講演録』(去年の講演)
編集・発行ピースウォーク京都
090-6325-8054
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フリージャーナリスト・加藤勝美氏について
ペシャワール会北摂大阪。
1937年、秋田市生まれ。大阪市立大学経済学部卒
月刊誌『オール関西』編集部、在阪出版社編集長を経て、1982年からフリー
著書に『MKの奇蹟』(ジャテック出版 1985年)、『MK青木定雄のタクシー革命』(東洋経済新報社 1994年)、『ある少年の夢―稲盛和夫創業の原点』(出版文化社 2004年)、『愛知大学を創った男たち』(2011年 愛知大学)など多数。
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1985年11月7日号~1995年9月10日号 「関西おんな智人抄」(204回連載)
1985年10月10日号~1999年1月1日号 「関西の個性」(39回連載)
1997年1月16日号~3月16日号 「ピョンヤン紀行」(5回連載)
1999年3月1日号~2012年12月1日 「風の行方」(81回連載)
2013年6月1日号~現在 「特定の表題なし」(連載中)