エッセイ「本だけ眺めて暮らしたい」【386】|MK新聞連載記事

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エッセイ「本だけ眺めて暮らしたい」【386】|MK新聞連載記事

MKタクシーの車載広報誌であるMK新聞では、大西信夫さんによる様々な身近な事柄を取り上げたエッセイ「本だけ眺めて暮らしたい」を前身を含めて1988年5月22日から連載しています。
MK新聞2020年6月1日号の掲載記事です。

 

本だけ眺めて暮らしたい

安倍総理が新型コロナウイルス感染症への対応について四月七日、「緊急事態宣言を発出いたします」と発言した。「発出」という言葉になじみがなかったので、辞書で引いてみた。
「発」も「出」も易しい漢字だし、意味もわかるが、政治家や官僚が一般社会であまり使われない言葉をわざわざ引っ張り出してきて、仰々しい言いまわしをするときは、どこか胡散臭い。
権威や厳粛さをまとわせたい――日頃の御自分の発言が軽い(とみなされている)という自覚の裏返しなのだろう。
それはともかく、精選版日本国語大辞典は「ある物事や状態が生じて外に現われること。また、現わし出すこと」「発疹が出ること」「出発すること。送り出すこと」と記している(以下、辞書の版の明記は省略)。
広辞苑には「あらわれること。あらわすこと。おこすこと」「出発に同じ」とあった。
岩波国語辞典は「起こること。起こすこと」。
明鏡国語辞典や新潮現代国語辞典、新明解国語辞典、新選国語辞典、ベネッセ表現読解国語辞典など多くの辞書には「発出」という語は収録されていなかった。
収録している辞書のいずれの語義も「緊急事態宣言を発出」という用例には、ぴたりとはあてはまらないように思えるのだが、いかがだろうか。
おもしろいのは、府や県で独自の緊急事態を宣言した首長も当然のような顔をして、右へならえで「発出」という語を口にしていたことだ。
いや、そもそも「発出」という語はこんなふうに使用する、れっきとしたお役所言葉で、私を含め一般人が知らなかっただけなのだろうか。
今後、コロナ以外でも会見などで「発出」が使われるようになると、そのうち、どの国語辞典にも収録されるようになり、ふさわしい語釈も追加されることだろう。
ただ、「緊急事態宣言を発出いたします」はなるべく耳にしない世の中であってほしいものだ。
ところで、東京都が自粛要請をした際、古書店は対象、新刊書店は対象外だった。これどう思います? 両者のあいだに平気で線を引ける人は、いったい何と何をわけたつもりなのか。
理由は不要不急か否かか? 営業形態による感染リスクに違いが? 商品が新品か中古品かで新型コロナウイルスの感染対策が異なる?
いずれにせよ、本や書店、読書に対する認識のレベルが低いし、選別の基準にも混乱があるのでは?――との私見をここに発出いたします。

MK新聞について

「MK新聞」は月1回発行で、京都をはじめMKタクシーが走る各地の情報を発信する情報紙です。
MK観光ドライバーによる京都の観光情報、旬の映画や隠れた名店のご紹介、 楽しい読み物から教養になる連載の数々、運輸行政に対するMKの主張などが凝縮されています。
40年以上も発行を続けるMK新聞を、皆さま、どうぞよろしくお願いします。

ホームページからも最新号、バックナンバーを閲覧可能です。

MK新聞への大西信夫さんの連載記事

1988年以来、MK新聞に各種記事を連載中です。

1988年5月22日号~1991年11月22日号 「よしゆきの京都の見方」(45回連載)
1990年1月7日号~1992年2月7日 「空車中のひとりごと」(12回連載)
1995年1月22日号~1999年12月1日号 「何を見ても何かを思う」(64回連載)
1996年4月16日号~現在 「本だけ眺めて暮らしたい」(連載中)

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