グローバル・ビジネス・レポート【144】奇縁:新潟県長岡市と金沢文庫|MK新聞連載記事
MKタクシーの車載広報誌であるMK新聞では、「グローバル・ビジネス・レポート」を2012年2月1日から連載しています。
MK新聞2026年9月1日号の掲載記事です。筆者プロフィールは新聞掲載時点のものです。
奇縁:新潟県長岡市と金沢文庫
前回の記事は、私たち家族が新潟県長岡市からなぜ横浜市の金沢文庫に引っ越したのかについて書いた。今回の記事は、最初に金沢文庫について書き、次に長岡市と金沢文庫との奇縁について書こうと思う。
前回の記事にも書いたとおり、金沢文庫というと歴史の授業で、鎌倉時代に北条実時が金沢文庫を今の横浜市に造ったと出てくる。自分がこのことを学んだ時、鎌倉からかなり離れたところに造ったものだと思ったのを覚えている。私だけでなく、私の周りの人に聞いても同じような認識だったので、このように思っている人は、ある程度、いるのではないかと思う。
しかし、金沢文庫に引っ越してからこの認識が間違いであることに気がついた。金沢文庫と鎌倉はそう遠くない。金沢文庫から六国峠という峠一つ越えると、そこは鎌倉なのである。金沢文庫駅の近くには、六国峠ハイキングコースの看板もあり、金沢文庫から鎌倉の鶴岡八幡宮までは約15km、4~5時間ぐらい歩けば着くコースになっている。昔の人は、健脚だったのでもっと早く鎌倉まで行けただろう。なお、六国峠は、この峠から相模・武蔵・伊豆・上総・下総・安房の六国が見渡せることから六国峠と呼ばれるようになったという。
金沢文庫を作った北条実時は、御成敗式目を定めた第3代執権の北条泰時の甥にあたる。実時は、第8代執権の北条時宗の時まで幕府を支えた。その一方で、実時は、儒学者に漢籍訓読を学び、和歌なども親しむ文化人でもあり、漢籍や書なども広く集めた。元寇の戦いの後、実時は政治から引退し、金沢郷(現在の横浜市金沢区)に移り、それまで集めていた蔵書をもとに金沢文庫を創設した。金沢文庫の近くには、一族が住む館と菩提寺の称名寺を造った。隠居にあたり、鎌倉とは適度な距離を取り、静かな環境で学問に取り組みたいということだったのだろう。
その後、金沢文庫、称名寺は、明治、大正の時代まで続くが、1923年の関東大震災により倒壊してしまった。しばらく荒廃した状態が続いていたが、実業家の大橋新太郎の寄進と助力により、1930年にそれぞれ再建された。称名寺には、大橋氏が金沢文庫、称名寺の再建に尽力したことが書かれた石碑があり、その中に大橋氏が新潟県長岡市の出身であることが書かれている。
大橋新太郎とその父・大橋佐平は、江戸時代に長岡藩の商人の家に生まれた。明治時代に2人は長岡から東京に進出して、博文館という出版社を創業し、戦前、日本最大の出版社までに育てた。大橋新太郎は、金沢文庫、称名寺の再建に尽力し、再建後も助力を惜しまなかった。現在、金沢文庫は歴史博物館として、季節毎に興味深い特別展を毎回、企画、開催している。称名寺は金沢区の住人の憩いの場所となっている。地元の幼稚園、小学校の遠足は、称名寺に行き、そこで子供たちは楽しい一時を過ごす。
前回の記事は、serendipityによって、当初、横須賀市に住む予定が、偶然、金沢文庫に住むことになった話を書いた。serendipityは、何かを探している時に、探しているものとは別の価値があるものを偶然見つけることを意味する。その金沢文庫は、私たち家族が住んでいた新潟県長岡市と不思議な縁でつながっていた。奇縁は、仏教用語であり、思いもかけない不思議な巡り合わせや珍しい縁のことを指す。長岡市と金沢文庫のつながりは、まさに奇縁といえるものである。今回は、称名寺にちなみ、この言葉で記事を締めくくりたい。
■筆者プロフィール
静岡県出身。京都大学大学院経済学研究科博士課程修了。 博士(経済学)。東京大学、京都大学、長岡技術科学大学などを経て、現在、防衛大学校 人文社会科学群 公共政策学科 教授。
称名寺 出所:神奈川県公式観光サイト観光かながわNow 【https://www.kanagawa-kankou.or.jp/spot/461】
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