フットハットがゆく!【359】「その後の出来事」|MK新聞連載記事

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フットハットがゆく!【359】「その後の出来事」|MK新聞連載記事

MKタクシーの車載広報誌であるMK新聞では、塩見多一郎さんのエッセイ「フットハットがゆく」を2001年11月16日から連載しています。
MK新聞2023年11月1日号の掲載記事です。

その後の出来事

村の人に聞いても、今年の夏は異常だといいます。暑い!蒸し暑い!雨が降らない!盆を過ぎても気温が下がらない!9月になっても暑さがそのまま!そして僕のファミリーも、異常事態に突入しています。

今年は10箱に増えたミツバチの巣箱。村の人からも果実や野菜の実の付きが良くなったと感謝されていました。採蜜量も過去最高、7月までは隆盛を誇っていましたが、田んぼに農薬が撒かれた8月上旬から、この異常な暑さとあいまり、どんどんと減退。逃去、滅亡、減退群の合同など、今は5箱まで減ってしまいました。もともと8月というのは、暑さでハチも働かなくなる上、花が減って蜜源が少なくなるので、群が弱るのは普通なことです、しかし、滅亡したり、逃去せねばならぬほど追い込まれるのは異常です。

僕たちが飼っているミツバチは、農薬の被害を最小限に抑えるために、村の一番上流の溜め池のところに巣箱を置いています。しかし、ミツバチが花の蜜を集める時の行動範囲は巣箱から半径2キロといわれています。巣箱に直接農薬の被害がなくても、採蜜のために飛んでいる働きバチには影響が出るわけです。最近の農薬は進化していて、暴露した虫はすぐには死なずしばらく動き回り、その間に接触した他の虫も暴露します。つまり、巣箱の中にいたミツバチも、外から帰った働きバチによって暴露することもあるのです。虫を殺したい農家の人には便利な農薬でも、虫を守りたい養蜂家にとっては悪魔のような農薬です。アインシュタインがかつて試算した、養蜂家の間で有名な言葉があります。「もしミツバチが絶滅したら、その4年後に人類も絶滅する。」

前回のエッセイで、うちのヤギ2頭が死んだ話を書きました。10日後にその娘が子どもを2頭産みました。でもまだ8ヶ月児で体も出来上がっておらず、人間でいえば12、3歳。生まれた子たちは自力で立ち上がれず、母乳が飲めなかったので、母ヤギの乳を搾って哺乳瓶に入れて飲ませました。が、必死の看病の甲斐もなく、24時間で2頭とも死亡。出産で体力がうばわれ、子どもも奪われ、気落ちしたうえ連日のうだるような暑さ。熱射病対策も必死に行いましたが、2週間後に母親も死亡。

残ったのは雄ヤギ一頭。そのヤギも元気が無くなっており心配です。ヤギを繁殖させて、「アルプスの少女ハイジ」のようにヤギミルクのチーズを作ることが夢だった僕にとって、ついにメスヤギが一頭もいなくなったことで絶望的な気持ちになりました。動物をたくさん飼っていることで、一頭一頭に対する愛情や観察が、分散されてしまっていたことは確かです。異常な暑さのせいにばかりはしていられません。が、そろそろちゃんとこの異常気象の原因を考えなければならない時期かもしれません。でないとアインシュタインの試算を実感する日もそう遠くないかもしれません。ちなみに、うちで飼っているニワトリ10羽あまり、毎日5〜6個の卵を生んでくれるのが常でしたが、この暑さのせいで卵を産まなくなりました。

 

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