自給自足の山里から【118】「大自然のように……」|MK新聞連載記事

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自給自足の山里から【118】「大自然のように……」|MK新聞連載記事

MKタクシーの車載広報誌であるMK新聞では、縄文百姓の大森昌也さんらによる「自給自足の山里から」を、1998年12月16日~2016年6月1日まで連載しました。
MK新聞2008年10月16日号の掲載記事です。

大森昌也さんの執筆です。

大自然のように……

小さな手で

山村の秋は、黄金(こがね)色の稲たちで輝く。稲の株を小さな手で握って、腰つきよく刈っているのは4歳のつくし君(次男げんの子)。
昨年東ティモールを訪れたちえ(長女。今は南米大陸を旅している22歳)が“あ~す農場を紹介”したら、「是非、勉強に行きたい」と来訪中の東ティモールの二人の百姓のジョアンとアフォンソもびっくりの微笑みが印象的。
今年の稲刈りは、東ティモールの二人に、長期(1年から半年)の居候の三人と、短期の68歳・38歳母娘、26歳フリーター、60代の野宿者など、あっ、スポーツカーのような車でやってきたトヨタに勤める若者らも、そして、“くまたろう農園”のケンタ(長男)・よしみ、“あさって農園工房”のげん・りさ子、ユキト農園(三男独身)、今、あ~す農場を仕切るあい・れい(19歳双子)と私で行う。4歳から68歳まで老若幼の男女十六人くらいで賑(にぎ)やか。

小さな稲の城の見える風景

村の四軒(家族)が、一町歩(ヘクタール)余の田んぼを共同作業で稲刈りする。ギザギザの鎌で刈って、八株(二分して)をわらで束ね、田に一日蛸(たこ)干し(株を上にして穂先を広げると、蛸が歩いているよう)。それをひとつひとつ、高さ五m、横幅十五m、十段の棚にかけていく。かけ終わると、まるで、小さな稲のお城に見える。稲城(いなき)という。四十~五十年前には、山間の村では普通に見られた秋の風景だった。
今、稲城の風景は、この山村では私らだけになり、寂しい。但馬(たじま)(兵庫北部)でも、否(いや)、日本でもめずらしい風景になった。また、私たちのような家族・村人ら総出の稲刈り風景は、お年寄りひとりが機械(コンバイン…稲刈り脱穀行う)に乗り、田を走る風景へ。稲城なく、田一面に短く切り刻んだわらに、黒いカラスが一羽二羽。

自由でなく自然に依って

今日今頃の稲刈りは、みんなでワイワイ楽しむことはなく、孤独な作業。ケンタは、「機械は、一年間の苦労・楽しみの全てを奪う」と言う。
「体験居候」の娘(36歳)が、自分勝手に作業するので、注意し、叱ると、母(64歳)がとんできて「大森さんがイライラするからやめなさい!」なんて言う。娘は黙って働く。「もう、ええかげんにしなさい!」とつい声大きくなる。「あんなに勝手にやったら稲刈りはちっとも楽しくないのになぁ」とあいは嘆く。来訪者の多くは身勝手に動き、「私の自由よ」なんて言う。あいの言うように、機械に依らないで、身体(からだ)と心(こころ)に依る手作業は、互いの自然の流れに依るので、そこに楽しさがある。自由・勝手のなかにはない。

キャリア職員、稲刈り初体験す

雨で稲刈りひと休み。すり減ったタイヤ交換をするので自動車修理場に行く。ところが機械が故障。若者はオタオタ。60代のOさんは、奥から器具取り出し、手作業で素早く交換する。「機械なくても、四十~五十年前の器具で十分」と、笑顔が輝く。
晴れた翌日、隣の丹波市で農村派遣研修中の農林水産省のキャリア職員の荻原(24)さんがひょっこり。一日、鎌で稲刈り束ねる作業する。初体験。「農業就労人口1%の時代、こんなに多くの若者が農作業していてびっくり。貴重な体験です。今度ゆっくり来ます」と。
さて、若いキャリアが、巨大組織にあって、今後どうなってゆくやら(彼女は、二十年後には初の女性次官の声も)。「実際に暮らして百姓やらんと分からん。よしみ(連れ合いで、あの松岡大臣の出た大学農学部出身)も同じや」とケンタ。

「減農薬はしません」という農協(JA)

農林水産省といえば、農協(JA)である。先頃、但馬農協の総代会(最高決議機関)があり、総代の一人として参加。議案の予算項目で、農薬のところが昨年に比べ少し増えていたので、「ここ豊岡市は、こうのとり米で減・無農薬に取り組んでいる。せめて減らす予算に」と意見を出す。
「気持ちはありますが、減農薬はしません」と断言する次期組合長。会場から「農協は、原点に帰ろう」の声も。ああ!
「農協に言っても無駄」「農薬減らせって言ったのだって、何か期待しているの」「官僚化し現場の声なんか聞かん」等々の声が寄せられる。さてはて、巨大組織農協(JA)はどこへ?

「大自然のように……」笑み

秋の夕暮れは寂しい。私と同じ年令(とし)の死が続く。大阪浪速部落でヤクザに対し共に闘った藤原さん。かつて働いていた国鉄労働組合の活動家の石田さん。学生寮で生活を共にし、中小企業を上場企業にした池君ら。ガンなどの病気で死す。我が青春の思いを死すことなく生かしたいもの。
そんな中、この八月、「崩落前夜のこの社会を立て直すのは、百姓と縄文である」と縄文百姓を自称する私を励ましてくれた甲田光雄さんが、84歳で亡くなった。
また、「百姓の福岡です。あなた本(注)読みました。あなた方はお子たちは、生きている」と電話くださった福岡正信さんが95歳で。
甲田さんは、亡くなる前日、「大自然のように……」と笑みを浮かべて天寿を全う。対して、資本主義の発展を共にした池君は、死へのベッドにあって、よく暴れ家族を困らせたという。

(注)「六人の子どもと山村に生きる」麦秋社(大森昌也著)/「自給自足の山里から」北斗出版(大森昌也著)――ともに書店にはありません。まだ在庫あります。左記に直接注文くださればお送りします。

 

あ~す農場

〒669-5238

兵庫県朝来市和田山町朝日767

 

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MK新聞への「あ~す農場」の連載記事

1998年12月16日号~2016年6月1日号
大森昌也さん他「自給自足の山里より」(208回連載)

2017年1月1日号~2022年12月1日号
大森梨沙子さん「葉根たより」(72回連載)

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