エッセイ「本だけ眺めて暮らしたい」【426】|MK新聞連載記事

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エッセイ「本だけ眺めて暮らしたい」【426】|MK新聞連載記事

MKタクシーの車載広報誌であるMK新聞では、大西信夫さんによる様々な身近な事柄を取り上げたエッセイ「本だけ眺めてくらしたい」を前身を含めて1988年5月22日から連載しています。
MK新聞2023年10月1日号の掲載記事です。

本だけ眺めてくらしたい

レコードが近年、人気復活していると複数のメディアが報じている。売り上げが低迷期の十倍になった、CDの売り上げを超えた、いま人気の歌手が新曲をレコードでも発売している、と。

私は境目の世代だ。高校まではレコードで、大学でCDが普及しはじめた。いずれにせよ学校に通う身には高価で、買えるのは特別に好きなものだけだった。

社会人になると年に何回か夜行バスに乗って東京までレコードの買い出しに行くようになった。八〇年代の後半、まだインターネットがなかった時代のことだ。

一般の新譜はCDに移行していたが、稀少な限定盤やマニアックな海賊盤はまだレコードの領域で、地元京都で入手するには限りがあった。欧米のみ発売の最新12インチシングルや中古の名盤も含め、レコード店が密集する西新宿は掘り出し物が期待できた。

夜行バスは今のように快適な専用車ではない。座席は幅が狭く、背もたれは後方に深く倒せないので足腰が痛かった。

東京駅着は早朝。公園のベンチで本を読みながらファストフード店が開くのを待つ。関西ではみかけないチェーン店で朝食を済ませると、公園に戻って、また本を読みながら……古本屋が開店するのを待った。

とりあえず初日は神田の古本屋めぐりだ。手にはガイド本の『古書店地図帖』。終日探索し、収穫を抱えて東京在住の友人宅に転がり込んだ。

二日目がレコード店めぐり。ガイド本は『東京レコードマップ』だ。

西新宿はレコード店が多いとは言え、古書店街のようにずらりと並んでいるわけではなく、この雑居ビルの四階、あのマンションの六階、そして路地裏、また半地下と、わかりにくく、ガイド本は必携だった。

最初に驚いたのは、どの店も万引き対策と、店内の通路がとても狭く客がすれ違えるように、入り口の棚に鞄や手さげ袋を置いて、手ぶらで入店しなければならないというルールだったこと。今はどうか知らない。

ネットが進歩するにつれ東京には行かなくなり、かつてオーディオに凝っていた私もデスクトップPCやiPodで音楽を聴くようになった。

音楽を聴く環境について、余計な手間や費用もそれほどかからず、ヒット曲からレアな音源まで容易に聴くことができ、使い勝手もいい、デジタル×インターネット×SNS時代の今のほうが絶対にいいと私は思うが、何でもクリックするだけで事足りる生活は、いつか振り返っても憶えていることは何もない。

レコードというモノをめぐりバタバタした日々は、それはそれでいい思い出だ。購入したレコードは一枚も手放していないし、中学三年から愛用しているテクニクスのターンテーブルは今も現役である。目で見て手で触れられるそれらには、時が刻まれている。

 

MK新聞について

「MK新聞」は月1回発行で、京都をはじめMKタクシーが走る各地の情報を発信する情報紙です。
MK観光ドライバーによる京都の観光情報、旬の映画や隠れた名店のご紹介、 楽しい読み物から教養になる連載の数々、運輸行政に対するMKの主張などが凝縮されています。
40年以上も発行を続けるMK新聞を、皆さま、どうぞよろしくお願いします。

ホームページからも最新号、バックナンバーを閲覧可能です。

 

MK新聞への大西信夫さんの連載記事

1988年以来、MK新聞に各種記事を連載中です。

1988年5月22日号~1991年11月22日号 「よしゆきの京都の見方」(45回連載)
1990年1月7日号~1992年2月7日 「空車中のひとりごと」(12回連載)
1995年1月22日号~1999年12月1日号 「何を見ても何かを思う」(64回連載)
1996年4月16日号~現在 「本だけ眺めて暮らしたい」(連載中)

 

本だけ眺めて暮らしたい バックナンバー

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