エッセイ「本だけ眺めて暮らしたい」【405】|MK新聞連載記事

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エッセイ「本だけ眺めて暮らしたい」【405】|MK新聞連載記事

MKタクシーの車載広報誌であるMK新聞では、大西信夫さんによる様々な身近な事柄を取り上げたエッセイ「本だけ眺めてくらしたい」を前身を含めて1988年5月22日から連載しています。
MK新聞2022年1月1日号の掲載記事です。

 

本だけ眺めてくらしたい

「ギョエテとは俺のことかとゲーテ言い」との川柳は斎藤緑雨が詠んだとか詠まなかったとか。
ギョーテとかゲイテとか、他にも三十近くの異なる表記があるそうな。
私が少年のころに映画館で観た『天国から来たチャンピオン』(一九七八年)の監督兼主演は、当時日本ではウォーレン・ビーティーと呼ばれていたが、知らない間にベイテイさんに変わっていた。本人が映画配給会社に表記を変更するように要望したという。

それはともかく、私は自家製の電子書籍を専用のデータベース・ソフトで管理しているが、書名や著者名の表記にそういった「ゆれ」があると、ちょっとした手間が必要で、じゃまくさい。
例えば、『ハックルベリー・フィンの冒険』などで知られる、私も大好きな作家マーク・トウェイン。トゥエイン、トウェーン、トウエンなど、出版社や訳者によって異なる様々な表記がある。
毎度横道にそれるが、『ハックルベリー・フィンの冒険』は子ども向けの読み物という印象が一般的にあるけれど(子ども向けに書き直された本も多い)、大人だからこそわかる、深く考えさせられる、あるいはニヤリとさせられる名作だ。
各社の文庫に収められているので読んだことがない方にはおすすめ。

で、そのトウェイン。蔵書データベースで、例えば「マーク・トウェイン」と検索しても、著者名に「トウェーン」や「トウエン」とあるデータをコンピューターは見つけてくれない。融通が利かないのだ。
だから、表記が異なるすべてのデータのタグや備考欄に、別の表記をすべて入力しておかなければならない。
そして、例えば「トーウェン」というそれまでにない新たな表記の本をデータベースに加える際には、既存のすべての異なる表記の本のデータにそれぞれ「トーウェン」を入力しなければならないということになる。

また、翻訳本の書名なんかもそう。
こちらも大好きな作家ウィリアム・フォークナーの『エミリーの薔薇』や『エミリーに薔薇を』など。「薔薇」は「バラ」という表記のものも。原題は「A Rose for Emily」。
全く異なる邦題の例もある。ショーペンハウアーの『幸福について』(新潮社ほか)と『孤独と人生』(白水社)は同じ本だ。著者名も年配の方ならショーペンハウエルのほうが馴染みがあるかもしれない。

ついでに。映画『マトリックス』(一九九九)監督のラリーとアンディ・ウォシャウスキー兄弟は二人とも性別適合手術を受けたので、今ではラナとリリー・ウォシャウスキー姉妹と呼ばれているのはご存じか。

 

 

MK新聞について

「MK新聞」は月1回発行で、京都をはじめMKタクシーが走る各地の情報を発信する情報紙です。
MK観光ドライバーによる京都の観光情報、旬の映画や隠れた名店のご紹介、 楽しい読み物から教養になる連載の数々、運輸行政に対するMKの主張などが凝縮されています。
40年以上も発行を続けるMK新聞を、皆さま、どうぞよろしくお願いします。

ホームページからも最新号、バックナンバーを閲覧可能です。

 

MK新聞への大西信夫さんの連載記事

1988年以来、MK新聞に各種記事を連載中です。

1988年5月22日号~1991年11月22日号 「よしゆきの京都の見方」(45回連載)
1990年1月7日号~1992年2月7日 「空車中のひとりごと」(12回連載)
1995年1月22日号~1999年12月1日号 「何を見ても何かを思う」(64回連載)
1996年4月16日号~現在 「本だけ眺めて暮らしたい」(連載中)

 

本だけ眺めて暮らしたい バックナンバー

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