エッセイ「本だけ眺めて暮らしたい」【415】|MK新聞連載記事
MKタクシーの車載広報誌であるMK新聞では、大西信夫さんによる様々な身近な事柄を取り上げたエッセイ「本だけ眺めてくらしたい」を前身を含めて1988年5月22日から連載しています。
MK新聞2022年11月1日号の掲載記事です。
本だけ眺めてくらしたい
前回、自家用車として乗っていたシトロエン2CVの写真集について触れた。それは言わば、写っている対象が目的の本だ。
写真家やその表現ではなく。
写真集と言えば、その一方に、写真家の作品集としての写真集があり、私も好きな写真家が何人もいる。
例えば、次の写真家はその一部。
ARTHUR ELGORT
PAMELA HANSON
SANTE D’ORAZIO
JEANLOUP SIEFF
JEAN-FRANCOIS JONBELLE
大学生のころ、しゃれた写真雑誌が相次いで創刊された。
『PHOTO JAPON』(1983年創刊)そして『ZOOM』(一九八五年創刊)。
いずれも、海外で発行していた雑誌の日本版で、残念ながらともに数年で休刊した。
『PHOTO JAPON』は創刊号から休刊まで購読した。
学生の身では予算に限りがあり、『ZOOM』は気に入った写真家が載っている号だけを買っていた。
のちに社会人になって、古書店で見つけたら手に入れたりした。
ここで言う「写真雑誌」は写真家の作品を紹介するアート志向の雑誌で、他に、撮影テクニックの指南や読者の応募写真を選評するもの、それに加えてカメラの機能や製品情報なども扱う総合的な「カメラ雑誌」などもあって、読者層はきっちりと分かれていた。
カメラはフィルムからデジタルになり、スマホが登場し、インスタグラムなどSNSが隆盛の今の時代。
写真はプリントされなくなり、立派なカメラや撮影技術も必要なくなった。
紙媒体の雑誌は売れなくなっている。
もっとも、これら写真雑誌の休刊はそれよりずっと前のことであり、近年の写真やカメラを取り巻く環境の変化とは特に関係がない。
だが、1926年に創刊し2020年に休刊した『アサヒカメラ』や、1950年創刊で2021年休刊の『日本カメラ』といったカメラ雑誌の衰退は、やはり関係なしとは言えないだろう。
この2誌に『カメラ毎日』(1985年休刊)を加えて三大カメラ雑誌と言われていたが、三大カメラ雑誌が象徴したかつての時代より、むしろ今のほうが、より多くの人々がより身近なものとして写真を大いに楽しんで撮り、写真を習慣的に日々数多く観ている状況は、皮肉というべきか、必然と言うべきか。
ただ、その一方で、好きな写真家がいて、その写真集を何冊か持っているという人は、読書が好きとか、美術館によく行くとか、画集を持っているという人ほどには多くないように感じる。
それは、かつても今も。
誰でも好きな小説家や音楽家、画家がいるように、好きな写真家を見つけて、お気に入りの写真集を眺めるゆとりの時間が持てたら(スマホではなく)、それだけ日常が豊かになるはず。
もしあなたが、写真を撮ったり観たりするのが好きならば。
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MK新聞への大西信夫さんの連載記事
1988年以来、MK新聞に各種記事を連載中です。
1988年5月22日号~1991年11月22日号 「よしゆきの京都の見方」(45回連載)
1990年1月7日号~1992年2月7日 「空車中のひとりごと」(12回連載)
1995年1月22日号~1999年12月1日号 「何を見ても何かを思う」(64回連載)
1996年4月16日号~現在 「本だけ眺めて暮らしたい」(連載中)