エッセイ「本だけ眺めて暮らしたい」【408】|MK新聞連載記事
MKタクシーの車載広報誌であるMK新聞では、大西信夫さんによる様々な身近な事柄を取り上げたエッセイ「本だけ眺めてくらしたい」を前身を含めて1988年5月22日から連載しています。
MK新聞2022年4月1日号の掲載記事です。
本だけ眺めてくらしたい
ウクライナをめぐってロシアなどと欧米諸国の軍事的緊張が極度に高まっている。この原稿が掲載される頃にはどうなっていることやら。
ウクライナと言えば思い浮かぶのは、そう、皆さんもよくご存じのダカブラカ(あるいはダハブラハ、DakhaBrakha)ですね。
え? ご存じない? 音楽グループの。
それならYouTube(ユーチューブ)で観てもらったほうが話は早いかな。女性三人と男性一人の四人組。民俗音楽っぽい曲調だが、とてもノリのいい曲もあって、ぶりぶりカッコいい。
いっぱいある動画の中から、まずはNPR Musicというチャンネルが投稿している動画はどうだろう。六年前と一年前に二度出演している。
NPRというのは、アメリカの公共放送ラジオで、Tiny Desk Concert(タイニー・デスク・コンサート)というシリーズをやっている。
これはゲストのミュージシャンにNPRの狭い事務所でライブをやってもらうという企画で、並んだ事務机や書類棚のあいだで歌ったり楽器演奏するというもの。
欧米だけでなく世界中の有名無名、ジャンルを問わないユニークで実力あるミュージシャンが出演するので、日本では知られていないが自分好みの音楽を発見することができる。
たまに、テイラー・スウィフトなど何万人もの会場を満員にして世界ツアーをするビッグネームも登場する。そんなスーパースターが雑然とした事務所の隙間でちんまりライブしている光景はほほえましい。
また、狭い場所なので演奏もシンプルな編成かアコースティック楽器主体になり、聴きなれた曲もいつもとアレンジが異なって楽しめる。
今はコロナ禍なので事務所ではなく、ステイホーム風にミュージシャンの都合に合わせた別の場所でやっているが、「狭い」や簡素は条件のようだ。
今を時めくビリー・アイリッシュが出演したときには、コロナ禍なのにいつものようにNPRの事務所でライブをしているのはどうして? と思っていたら、最後にアッと驚く種明かしがあるという趣向だった。
というわけで、遠い遠い国、ウクライナの音楽グループであるダカブラカは、そんなTiny Desk Concertで知った。
ニュースで話題だけれど、あまりなじみのない国の人たちは、どういう暮らしをしているのだろうか。どんな料理を食べて、どんな音楽を聴いているのだろうか。
それを知ったら、もう少し身近に感じられるだろうし、ネガティブで複雑なニュースも自分のことのように考えられるかもしれない。
そして、このような音楽も文化も、何もかも、紛争や戦争になったらそれどころじゃなくなってしまうんだ、なんて思ったりする。
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MK新聞への大西信夫さんの連載記事
1988年以来、MK新聞に各種記事を連載中です。
1988年5月22日号~1991年11月22日号 「よしゆきの京都の見方」(45回連載)
1990年1月7日号~1992年2月7日 「空車中のひとりごと」(12回連載)
1995年1月22日号~1999年12月1日号 「何を見ても何かを思う」(64回連載)
1996年4月16日号~現在 「本だけ眺めて暮らしたい」(連載中)