エッセイ「本だけ眺めて暮らしたい」【403】|MK新聞連載記事

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エッセイ「本だけ眺めて暮らしたい」【403】|MK新聞連載記事

MKタクシーの車載広報誌であるMK新聞では、大西信夫さんによる様々な身近な事柄を取り上げたエッセイ「本だけ眺めてくらしたい」を前身を含めて1988年5月22日から連載しています。
MK新聞2021年11月1日号の掲載記事です。

本だけ眺めてくらしたい

例えば、岩波文庫版の『ルバイヤート』。
手近にあった三冊のうち(探せばもっと出てくると思う)、「第一刷」の現物は奥付が「昭和二十三年十二月三十日」の発行となっている。
ところが、「昭和四五年」に発行された「第一六刷」の奥付には、第一刷の発行日が「昭和二四年一月一五日」と記されている。
そして、「1997年」に発行された「第53刷」の奥付も、やはり「1949年1月15日第1刷発行」となっている。
第一刷の奥付に記された発行日が誤りで、のちに修正されたのか、第一刷の奥付に記された発行日が正しくて、のちに誤った発行日が引き継がれていったのか、わからない。
あるいは“大人の事情”か何かの都合で、第一刷の発行日をあとからこそっと変更したのだろうか――。
本が好きな人に向けた話題のツカミとしては、まあまあじゃないかと思うのだが、返ってくる反応が「そもそもなんで三冊も同じ本持ってんねん」だったりすると、こちらとしては「そっち?」と受けながらも、想定通りの展開だったりする。

 

写真は私が持っている『ルバイヤート』の一部。
翻訳の異なる古いものや新しいもの、洋書など。
「自慢じゃないが」は、これから自慢話が始まるシグナルだと、この欄で以前書いたが、これは本当に自慢じゃない。
というのは、世の中には熱心な『ルバイヤート』読者が少なからずいらっしゃって、それこそ古今東西の『ルバイヤート』や、骨董的価値のあるもの、豪華なもの、稀少なものを集めたり、研究したり、本当に自慢したりされているからだ。
私はただ、書店や古本市でたまたま手ごろな価格の『ルバイヤート』を見つけたら手に入れ、翻訳や編集や造本の違い、手触りなどをのんびり愉しんでいるだけで、積極的に探したり、高額な予算をつぎ込んだりしているわけではない。
それでも、若いころからこの歳になるまでの長いあいだには、これくらいは手元に集まってきたということだ。
かといって、古本屋にはこれまで、日常しょっちゅう出入りしてきたが、『ルバイヤート』に出会う機会は、そうはない。
だから、安価だと、なんというか……かわいそうというのか、拾い上げてやりたくなって、同じ本でもつい購入してしまう。したがって、岩波文庫以外にも、いくつか複数持っている本がある。
ちなみに、岩波文庫は時期によって、表紙や本文の用紙が異なるので、ページの手触りや色あい、本の厚さなどが違うし、改版では活字も変更されているので、新字と旧字や漢字とひらがなの表記の違いなどもある。

 

ところで、『ルバイヤート』はどんな本かと言うと(いまごろ、ですが)、岩波文庫の紹介文によると「十一世紀ペルシアの詩人ハイヤームは、生への懐疑を出発点として、人生の蹉跌や苦悶、望みや憧れを短い四行詩(ルバイヤート)で歌った」とある。
堅い漢語が並ぶが(笑)、百五、六十ページそこそこの薄い詩集。
歳をとってからのほうが、読むとしみるかもしれないが、生きづらさを抱えた若者にもどこか刺さるところはあるのかもしれない。
この詩が書かれた時代や社会の限界はあるかもしれないが、自分なりに肯定的に読みかえたり、比喩的にイメージを広げて解釈するといいのかもしれない。
後向きと前向き、永遠と刹那のあいだをゆれる両面性が、魅力か。
現代詩のような難解さはまったくなく、ひとつの詩が四行と、短くてわかりやすい。
微妙に異なる表現で同じイメージを繰り返し、つみ重ねていくような感じ。
好みはあるかもしれないけれど、時代と地域を超えて広く読み継がれ、一部? にはかなり熱心な愛読者のいる本が、どのようなものか。文庫で手に入りやすいし、薄くて気軽に読めるので、試しに一度手に取ってみては?

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MK新聞への大西信夫さんの連載記事

1988年以来、MK新聞に各種記事を連載中です。

1988年5月22日号~1991年11月22日号 「よしゆきの京都の見方」(45回連載)
1990年1月7日号~1992年2月7日 「空車中のひとりごと」(12回連載)
1995年1月22日号~1999年12月1日号 「何を見ても何かを思う」(64回連載)
1996年4月16日号~現在 「本だけ眺めて暮らしたい」(連載中)

本だけ眺めて暮らしたい バックナンバー

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