エッセイ「本だけ眺めて暮らしたい」【414】|MK新聞連載記事

よみもの
エッセイ「本だけ眺めて暮らしたい」【414】|MK新聞連載記事

MKタクシーの車載広報誌であるMK新聞では、大西信夫さんによる様々な身近な事柄を取り上げたエッセイ「本だけ眺めてくらしたい」を前身を含めて1988年5月22日から連載しています。
MK新聞2022年10月1日号の掲載記事です。

本だけ眺めてくらしたい

免許は更新し続けているが、約二十年前に自家用車を手放してから一度も運転はしていない。

マイカーを所有していたのは二十年ほどで、その後半、約十年乗っていたのがシトロエン2CVだった。

宮崎駿監督の映画『ルパン三世 カリオストロの城』(1979年)の冒頭。
白いウエディングドレス姿の女性がピンク色の2CVのハンドルを握り猛スピードで駆け抜けていく。
追いかけるエンジ色のハンバー・スーパー・スナイプには、機関銃を抱えた悪党数人が乗っている。
それを目撃したルパン三世と次元大介が、火を噴くターボエンジンに魔改造した黄色のフィアット500で参戦。
スピード感あふれるカー・チェイスを繰り広げるというアニメ史上屈指の名場面があった。

公開当時高校生だった私は、その可憐なボディラインをスクリーンで観て、いつかあのクルマに乗りたいと思った。

あるいは、その二年後に公開された『007/ユア・アイズ・オンリー』(1981年)で黄色の2CVがボンド・カーばりに大活躍。
山の斜面を転がり落ちてボコボコになったり、敵のクルマをジャンプで飛び越えたりした末に追っ手二台をやっつける少しコミカルな逃走シーンを憶えている映画好きの方もいらっしゃるのでは?

そもそも、フランスのかつての国民的大衆車であった2CV。
古いフランス映画をどれでも観れば、パリの街を走る2CVや道端に停まっている2CVをありふれた日常風景として、いつでも目にすることができる。

ともかく、縁あって十年を共にした私の2CVはもうない。

ただ、本棚には今も何冊かの2CVの写真集が並んでいる。

ミニカーもまだいくつか持っているし、作らずに箱に入ったままのプラモデルもある。

1948年(昭和23年!)の発売から生産終了までの四十二年間、大きなモデルチェンジをしなかった2CVは、高度経済成長後の日本車とくらべると、簡素過ぎるつくりと最少限の機能で、走行性能は劣るし、衝突安全性にも不安がある。
エアコンを装備する前提では設計されていないので、夏は暑いし冬は寒い。
空冷エンジンだから、日本の夏の炎天下の渋滞ではオーバーヒートしてエンストする……。

それでも2CVに乗っている人は、軽快で開放的でクセの強い乗り心地が楽しくて、好きで乗っているのだから、その人の本棚には2CVの写真集があるに違いないし、それは「2CVあるある」ではなかろうか。

フランス語版はもちろん、英語版、ドイツ語版など、世界中に需要と供給があった2CVの写真集や関連本は、アマゾンやネットオークションのおかげで、日本に住む私にも容易に手に入れることができた。

各国の2CV写真集。手前の開いている本はB4判よりひとまわり大きいサイズ

各国の2CV写真集。手前の開いている本はB4判よりひとまわり大きいサイズ

 

MK新聞について

「MK新聞」は月1回発行で、京都をはじめMKタクシーが走る各地の情報を発信する情報紙です。
MK観光ドライバーによる京都の観光情報、旬の映画や隠れた名店のご紹介、 楽しい読み物から教養になる連載の数々、運輸行政に対するMKの主張などが凝縮されています。
40年以上も発行を続けるMK新聞を、皆さま、どうぞよろしくお願いします。

ホームページからも最新号、バックナンバーを閲覧可能です。

 

MK新聞への大西信夫さんの連載記事

1988年以来、MK新聞に各種記事を連載中です。

1988年5月22日号~1991年11月22日号 「よしゆきの京都の見方」(45回連載)
1990年1月7日号~1992年2月7日 「空車中のひとりごと」(12回連載)
1995年1月22日号~1999年12月1日号 「何を見ても何かを思う」(64回連載)
1996年4月16日号~現在 「本だけ眺めて暮らしたい」(連載中)

 

本だけ眺めて暮らしたい バックナンバー

この記事が気に入ったらSNSでシェアしよう!

関連記事

まだ知らない京都に出会う、
特別な旅行体験をラインナップ

MKタクシーでは様々な京都旅コンテンツを
ご用意しています。