十月から春まで咲き続ける秋咲きの桜、十月桜(ジュウガツザクラ)とは
桜といえば春の花ですが、秋から開花する桜もいくつかあります。
そのなかで最も有名なのが、十月桜(ジュウガツザクラ)。その名のとおり、十月から咲きはじめ、春まで開花し続けます。
京都で十月桜を見られるスポットもあわせて紹介します。
十月桜(ジュウガツザクラ)について
江戸時代から伝わる「十月桜」
十月桜は、十月から開花しはじめる桜の園芸品種です。桜の園芸品種は300種とも600種ともいわれますが、秋から冬に開花する桜の品種も多数あります。
冬にはいったん花の数がかなり少なくなりますが、春を迎えるとソメイヨシノ(染井吉野)とほぼ同時期に十月桜も再度見頃を迎えます。
桜の品種には、近年誕生した品種も多数ありますが、十月桜はかなり古い桜です。
「十月桜」という名称は、江戸時代から記録が残っており、古くから愛されてきた桜です。
19世紀前半に幕府の命により屋代弘賢が中心となって編纂された「古今要覧稿」では、次のように記されています。
秋の末より冬の初めまで花を放つ。
三月も時を失わず開く。
元来山桜の一種にして、十月ひらくは狂花なりという。
按ずるにこれ狂花にあらず。
狂花は諸木ともにひらけどもかならず年毎にひらくものにあらず。
是一種の桜なり。
秋に狂い咲きする木はいろいろあるが、毎年花が咲く点が特徴であると記されています。
ただし、掲載されている十月桜の絵図は、明らかに今の十月桜とは異なります。
花弁は5枚の一重であり、十月ごろに開花する桜の総称として十月桜と呼んでいたものと思われます。
十月桜は、マメザクラ(豆桜)とエドヒガン(江戸彼岸)の種間雑種です。
開花期以外はコヒガン(小彼岸)と酷似しており、コヒガンの秋咲き性のものを十月桜として分類するという説が有力です。
十月桜と近縁の小彼岸(コヒガン)
十月桜とほぼ同じなのが、コヒガンです。
その名前のとおり、エドヒガンの血を引くやや小ぶりな桜です。
樹高は5メートルほどまでにしかなりません。
高遠小彼岸とも高遠桜ともいわれ、長野県伊那市の高遠城の1,500本の大群落が有名です。
「天下第一の桜」と称され、4月中旬頃に見頃を迎えます。
南アルプスや中央アルプスの残雪で真っ白な山並みと古城をバックに咲き誇る姿は、天下第一にふさわしい景色です。
もともとは城下の桜馬場にあった桜ですが、明治期に高遠城が廃城となり、公園として整備される際に、城址公園に植樹されました。
移植した桜を百数十年かけて増殖することで、今の「天下第一の桜」が誕生しました。
現在全国で植えられている小彼岸の多くは、高遠城にルーツを持つとされていますが、高遠のコヒガンの方がやや大きく育つことから、別品種であるともいわれます。
伊豆半島などの一部には自生している個体も見られるため、もともとは伊豆半島などが発祥地であったとも考えられています。
他の桜と比べるとやや開花が早いのが特徴で、京都では枝垂桜よりやや早い3月中旬から開花しはじめ、3月下旬に見頃を迎えます。
十月桜と異なり、秋や冬にはわずかにしか開花しませんが、ちらほらとは開花しています。
京都ではコヒガンをあまり見かけませんが、梅小路公園で数本開花しているのを見ることができます。
園内で最も東の芝生広場の東側に並んでいます。
十月桜のいろいろ
十月桜とされる個体は、全て同一遺伝子のクローンではありません。
同じく十月桜と呼ばれていても、複数の遺伝子パターンがあることが、近年明らかにされました。
秋から開花する、八重咲きである、など似た特徴がある複数の個体をまとめて「十月桜」と呼んでいる、ということです。
そのためか、同じ十月桜であっても、秋の開花期の方が花が多い個体と、春の開花期の方が花が多い個体があります。
花の姿はどの十月桜もそっくりですが、枝ぶりにはやや違いがあるように見えます。
ソメイヨシノなどと似たような、いかにも桜らしい枝ぶりの十月桜もあれば、根元付近から枝をいくつも出している御室桜にちょっと近いような十月桜もあります。
明らかに特徴が異なるものの、十月から開花する桜を品種名ではなく、固有名詞として十月桜と呼んでいる事例もあります。
固有名詞で呼ばれる十月桜
京都で秋に開花する桜として知られる妙蓮寺の「御会式桜(おえしきざくら)」も品種としては十月桜です。
御会式桜と呼ばれている十月桜の詳細については、こちらを参照願います。
紅葉シーズンに開花する桜として有名な、大原の実光院に咲く「不断桜(ふだんざくら)」も、品種としては十月桜ではないかと思われます。
別に品種としての不断桜もあることから、ちょっとややこしいです。
柳馬場御池(やなぎのばんばおいけ)の「御池桜」は、冬から開花する桜です。
案内板には、「この桜は『不断桜』という種類の桜です」と記載されていますが、これも十月桜でしょう。
おそらく実光院の不断桜と同一の品種であるという意味なのでしょう。
すでに江戸時代編纂の「古今要覧稿」で今の十月桜とは異なる桜が十月桜として掲載されていたように、十月桜という札が付いていても、品種としての十月桜とは限りません。
逆に冬桜や四季桜と呼ばれていても、品種としては十月桜であることも珍しくありません。
何と呼ばれているかだけでは、品種名が判断できないところが、桜の奥深いところです。
「桜博士」として知られ、日本の植物学の基礎を築いたと評される三好学が1921年に刊行した「桜花図譜」には、今の十月桜と同一の桜が掲載されています。
少なくともこのころには、品種としての十月桜が確立していたことが明らかです。
十月桜の両親であるエドヒガン(江戸彼岸)とマメザクラ(豆桜)
十月桜は、自生種であるエドヒガンとマメザクラの種間雑種とされます。十月桜の両親であるエドヒガンとマメザクラを簡単に紹介します。
エドヒガン(江戸彼岸)
十月桜の片親の、本州から九州にかけて、幅広く分布する桜です。
江戸ではお彼岸の頃に開花することから、単に「彼岸桜(ヒガンザクラ)」とも言われます。
ヒカンザクラ(緋寒桜)と混同しがちなこともあり、近年ではエドヒガンと呼ばれることが多いです。
ただし、前述のとおり、江戸に限らず広く自生しています。
エドヒガンは、葉が出る前に花が咲くため観賞価値が高く、古くから大切にされてきました。
寿命が長く、全国にある桜の大木や古木はたいていがエドヒガンです。
シダレザクラ(枝垂桜)は枝垂性のエドヒガンです。
十月桜だけでなく、多くの桜の園芸品種の片親にとなっています。
代表はソメイヨシノです。
十月桜と同じく秋咲きの四季桜(シキザクラ)の片親でもあります。
マメザクラ(豆桜)
十月桜の片親の、富士、箱根を中心に本州中部に分布する桜です。
花の大きさも樹高も、桜のなかでは小さめなのが、名前の由来です。
本州西部では、萼筒(がくとう)が、非常に長い変種であるキンキマメザクラ(近畿豆桜)が分布します。
十月桜の親もマメザクラではなく、キンキマメザクラではないかという説もあります。
十月桜と同じく秋咲きの冬桜(フユザクラ)の片親となっていますが、マメザクラを片親とする桜の園芸品種はそれほど多くはありません。それなりに有名なのはウミネコ(海猫)くらいです。
十月桜が秋に開花する秘密
桜の祖先は、もともとヒマラヤに分布していたという説が有力です。
今もヒマラヤに分布するヒマラヤザクラは秋に開花することから、桜の祖先はもともと秋に開花していた可能性が高いです。
しかし、冷涼乾燥な冬のある地域に分布を広げるにあたり、冬季には生育活動を止めて冬を越し、春に開花するという進化を遂げたのではないかと考えられています。
桜の中には、時折先祖がえりして秋に開花する変異枝が現れることがあります。
そういった枝を選抜し、世代を重ねて品種改良を行い、十月桜など秋から開花する桜の園芸品種が誕生しました。
詳細はこちらの記事を参照願います。
十月桜以外の秋から冬に開花する桜の園芸品種
秋から開花する桜としては、十月桜が最も有名で、最もよく見かけます。
しかし、他にも冬桜(フユザクラ)、四季桜(シキザクラ)、子福桜(コブクザクラ)、不断桜(フダンザクラ)、アーコレードなどの秋咲きの桜があります。
これらの特徴と見分け方については、こちらを参照願います。
京都で見られる十月桜(ジュウガツザクラ)スポット7選
十月桜は、京都でもいろいろなところで見ることができます。
以下は、京都で十月桜を見られるスポットの一部です。
決して珍しい桜ではありません。十月桜は良く見かけます。
秋や冬から開花する桜にはいくつかの品種がありますが、見かける桜のうち半分くらいは十月桜です。
① 平野神社(ひらのじんじゃ)〈北区〉
様々な桜の品種が集まる平野神社ですが、十月桜もあります。
楼門内の社務所付近や、境内南東角の平野通沿い、末社の猿田彦社前、西口などで計十本程度の十月桜を見られます。
春の最後を飾る突羽根(ツクバネ)が5月のGW頃に散ってから、4ヶ月ほど平野神社では桜のない時期が続きます。
9月半ばになると、十月桜がちらほら開花しています。
十月桜が開花しはじめて以降、春まで8ヶ月間にわたって、平野神社では桜が開花し続けます。
10月の下旬くらいから11月あたりにかけて、十月桜は秋の開花期を迎えます。
春とは異なり、訪れる人も稀な平野神社の紅葉シーズンですが、十月桜が開花しています。
といっても、秋の十月桜は点々と開花する程度で観賞価値は低めです。
冬季は多くの花を落しながらも細々と開花し続け、春に十月桜は二度目の見頃を迎えます。
平野神社の十月桜は、明らかに春の方が花が多く開花します。
拝観情報
朝廷から特別な奉幣を受ける、京都近郊を中心とした二十二社のひとつとして古くから重んじられてきた神社です。
春には境内には「平野妹背(ヒラノイモセ)」「手弱女(タオヤメ)」「突羽根(ツクバネ)」など著名な桜の原木をはじめ、約50種400本の桜が植えられており、3月からGWまで長期間にわたって順次開花が続きます。
拝観時間 | 日中随時 |
拝観料 | 境内自由 |
住所 | 京都市北区平野宮本町1 |
アクセス | 市バス「衣笠校前」バス停から徒歩で3分 |
公式ホームページ:平野神社 HIRANO-JINJA Official web site
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② 京都御苑(きょうとぎょえん)〈上京区〉
苑内の南西部にある出水の小川の東側に、最近新たに植えられた十月桜です。
まだ小さな十月桜が7本並んでいます。
これからの成長が楽しみな十月桜です。
入苑情報
京都御苑は、京都市街のほぼ中央にある緑のオアシスです。
かつては皇族や公家の屋敷が建ち並んでおり、幕末には歴史的事件の現場となりました。
春の桜、秋の紅葉をはじめ、四季を通じて花が美しいスポットです。
見学情報
入苑時間 | 日中随時 |
入苑料 | 境内自由 |
住所 | 京都市上京区京都御苑 |
アクセス | 地下鉄「丸太町」よりすぐ 地下鉄「今出川」よりすぐ |
京都御苑の公式ホームページ:京都御苑 | 一般財団法人国民公園協会
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③ 二条公園(にじょうこうえん)〈上京区〉
2本の十月桜が、同じく秋から咲く子福桜(コブクザクラ)と並んで開花しています。
年によって変わるのかもしれませんが、秋から春までそれほど花付きに変動がありません。
春にしては花が少なく、冬にしては花が多い十月桜です。
入園情報
二条城のすぐ北側にある公園です。
2005年に大規模な改修が行われ、周辺の人口増加もあり子供たちの姿が絶えない市民憩いの場です。
源頼政が鵺(ぬえ)退治のあと、血のついた矢じりを洗った池があったとされ、鵺池として復元されています。
入園時間 | 日中随時 |
入園料 | 境内自由 |
住所 | 京都市上京区主税町910-40 |
アクセス | JR「二条」より徒歩で10分 |
④ 京都府立植物園(きょうとふりつしょくぶつえん)〈左京区〉
半木神社(なからぎ じんじゃ)の鳥居の南側に、秋咲きや早咲きの桜を集めたコーナーがあります。
十月桜をはじめ、四季桜(シキザクラ)、冬桜(フユザクラ)、アーコレード、エレガントみゆき、河津桜(カワヅザクラ)などが一堂に会します。
ただし、秋咲きの桜コーナーの十月桜はまだ小さく、30mほど南東にぽつんとある十月桜の方が花付きは良いです。
秋にも盛大に見頃を迎える四季桜や冬桜と比べると見劣りしますが、十月桜も紅葉を背景に開花します。
入園情報
1924年に開園した日本を代表する京都の植物園です。京都府民の休日のお出かけ定番スポットです。
広い敷地をぶらぶら歩けば、植物が約12,000種。
桜や梅、つばき、花しょうぶ、あじさいなど昔から親しまれてきた植物のほか、バラ園など左右対称の造形美が楽しめる洋風庭園など変化に富んでいます。
熱帯の植物が見られる温室もあります(別途入館料が必要です)。
休園日 | 12月28日~1月4日 |
入園時間 | 9:00~17:00(受付終了は16:00) |
拝観料 | 一般 :200円 高校生 :150円 中学生以下:無料 |
TEL | 075-701-0141 |
住所 | 京都市左京区下鴨半木町 |
アクセス | 地下鉄「北山」よりすぐ |
公式ホームページ:京都府立植物園 Kyoto Botanical Gardens/京都府ホームページ
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⑤ 宇治市植物公園(うじししょくぶつこうえん)〈宇治市〉
宇治市の南部の丘陵地帯に広がる宇治市植物公園では、園内南部の春のゾーンで数本の十月桜が開花します。
宇治市植物公園には、他にも冬桜や子福桜なども秋や冬に開花しますが、最も本数が多いのは十月桜です。
春には他の桜に負けないくらいの花を付けますが、秋の開花期には花を点々とつけるくらいでさびしめです。
入園情報
1996年に開園したまだ歴史の浅い植物園です。
10haの園内には1,450種類もの植物が植えられています。
園内は春・夏・秋のゾーンに分かれ、四季を通じて多彩なイベント・展覧会が催されます。
休園日 | 月曜日(祝日の場合は翌日) |
入園時間 | 9:00~17:00(受付終了は16:00) |
拝観料 | 大人:600円 小人:300円 幼児:無料 |
TEL | 0774-39-9387 |
住所 | 京都府宇治市広野町八軒屋谷25-1 |
アクセス | JR「宇治」よりバス 近鉄「大久保」よりバス |
公式ホームページ:宇治市植物公園(公式ホームページ)
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⑥ 恵心院(えしんいん)〈宇治市〉
四季を通じて花であふれるお寺ですが、どういうわけか紅葉する木々はほとんど見当たりません。
ちょっとさびしい秋の恵心院境内で開花する、十月桜です。
拝観情報
境内は四季を通じて手入れが行き届き「花の寺」とも言われます。
空海によって開かれたともいわれ、11世紀初めに恵心僧都(えしんそうず)・源信によって再興されました。源信は、宇治川に入水した源氏物語宇治十帖のヒロイン浮舟を助け、新しい道を歩ませることになった「横川(よかわ)の僧都」のモデルとも言われています。
拝観時間 | 6:00~17:00 |
拝観料 | 境内自由 |
TEL | 0774-21-3942 |
住所 | 宇治市宇治山田67 |
アクセス | 京阪「宇治」より徒歩で7分 |
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⑦ 新宮神社(しんぐうじんじゃ)<左京区>
松ヶ崎の氏神である神社です。
神社の裏手には、冬も見事な桜が開花しています。
品種名は書いてありませんが、明らかに十月桜です。
真冬にこれほどたくさんの花を咲かせる十月桜はあまり見たことがありません。
偶然見つけた見事な十月桜です。
拝観情報
五山の送り火の「妙法」が点火されるちょうど中間の麓にある神社です。
創建年代ははっきりしませんが、松ヶ崎村が日蓮宗へと改修したときに、妙泉寺の鎮守社となりました。
妙泉寺は、1918年に本涌寺と合併し、涌泉寺(ゆうせんじ)となりました。
拝観時間 | 日中随時 |
拝観料 | 境内自由 |
住所 | 京都市左京区松ケ崎林山34 |
アクセス | 地下鉄「松ヶ崎」から3分 |
おわりに
京都の秋と言えば紅葉ですが、実は十月桜を代表とする秋咲きの桜も開花しています。
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