エッセイ「本だけ眺めて暮らしたい」【234】|MK新聞連載記事
MKタクシーの車載広報誌であるMK新聞では、大西信夫さんによる様々な身近な事柄を取り上げたエッセイ「本だけ眺めてくらしたい」を前身を含めて1988年5月22日から連載しています。
MK新聞2008年10月16日号の掲載記事です。
本だけ眺めてくらしたい
繁華街のメインストリートに面した一流デパートのショーウインドー。
そこを華やかに彩るマネキンは、最新のファッションを身にまとうのが仕事だから、彼女たちとそのディスプレイを見ていると、今の流行や時代の気分がわかる。
が、それだけに、アパレル業界をはじめとする景気の影響も受けやすく、マネキンは、社会の経済的な動向もまた映し出す。
それは、着ている衣装や飾りつけだけではない。
不況下にはリストラ、つまり人員削減はもちろん、全身のマネキンではなく、首や手足のないトルソのようなタイプに入れ替えられたりするのだ。
マネキンの制作者に話を聞いたことがあるが、ベテランの販売社員が減り、パートやアルバイトが増えているので、マネキンは見た目の良し悪しよりも、服の着せ替えがしやすいなど、新入店員でも扱いやすいタイプが望まれるようになっているという。
ところで、海外では近年「やせ過ぎモデル」が問題になっている。
拒食症で女性モデルが亡くなった事故をきっかけとして、「やせ過ぎモデル」が社会の「行き過ぎたダイエット」を助長しているとか、少女に「やせている=美しい」という偏った観念を与える可能性があるといった指摘が相次ぎ、賛否両論の議論が巻き起こっているのだ。
スペインやイタリアでは、BMI値が一八未満などの基準を設けて「やせ過ぎモデル」のファッションショー出演を禁止。
この流れはマネキンの世界にも波及した。グローバルなアパレルチェーンのブランド「ZARA(ザラ)」は、店頭用マネキンのサイズは三八号(日本の九号)以上と独自のガイドラインを定めているという。
数は少ないがマネキンに関する本もある。
写真集の『mannequins』(林雅之、パロル舎)。原型作家が制作現場を綴った『マネキン美しい人体の物語』(欠田誠、晶文社)など。
何と言っても決定版は、日本マネキンディスプレイ商工組合が出版した『マネキンのすべて』。
十年ほど前に組合員に配布されたものだが、最近、百部限定で一般販売された。
内容はマネキンの歴史、代表する原型作家と作品、製造工程の解説など。写真も豊富。
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MK新聞への大西信夫さんの連載記事
1988年以来、MK新聞に各種記事を連載中です。
1988年5月22日号~1991年11月22日号 「よしゆきの京都の見方」(45回連載)
1990年1月7日号~1992年2月7日 「空車中のひとりごと」(12回連載)
1995年1月22日号~1999年12月1日号 「何を見ても何かを思う」(64回連載)
1996年4月16日号~現在 「本だけ眺めて暮らしたい」(連載中)