フットハットがゆく!【378】「ドットサイトの話」|MK新聞連載記事
MKタクシーの車載広報誌であるMK新聞では、塩見多一郎さんのエッセイ「フットハットがゆく」を2001年11月16日から連載しています。
今回はMK新聞2026年11月1日号の掲載記事です。
ドットサイトの話
僕は狩猟をするハンターです。主にシカやイノシシを狙っています。前回は、散弾銃(ショットガン)の上に乗せた、スコープの話をしましたので、その続きです。
ある日の山の猟、勢子役の猟師と猟犬がシカを追い出し、待ち伏せした鉄砲隊が撃つという巻狩りで、僕は自分の近く、わずか10mほどの距離に全力疾走してきたシカ3頭に、3発撃って、1頭も倒せませんでした(日本の法規では散弾銃は3発までしか装填できない)。スコープというのは、望遠鏡のようにズームアップして見えますので、遠い距離の獲物を撃つには適していますが、近くて速い獲物は逆に撃ちにくい場合があります。もちろん、熟練者は遠かろうが近かろうが当てますが、僕のような経験の浅い者には難しかったのです。
その3頭のシカを追い出した猟犬は、僕の先輩にあたる猟師の犬で、なんとガンにかかっていました。悪性腫瘍で顔が腫れ上がり、獣医には見放されたけれど、まだ元気に走れるから、せめて犬が大好きな猟を最期まで全うさせてやりたい、という飼い主の願いのもと、必死でシカを追い出してくれたのです。それを近距離で外してしまい、申し訳ない気持ちと、恥ずかしさ、悔やみ、複雑な思いが絡まり、かなり落ち込みました。
また別の日の猟で、発砲の衝撃によりスコープが土台ごと吹っ飛んでしまいました。そして修理に出す際、僕はスコープではなくドットサイトを購入して銃に装着しました。オープン式のレンズです。レンズに赤い光の点(ドット)が映し出され、その赤い点を狙ってターゲットを撃つという仕組みの照準器です。スコープよりもかなり小さく、軽いです。映画などで、敵と戦う軍隊が敵陣に突入する際、近距離で撃ち合わなければならない時に銃に付けていることが多いです。レンズに見えているのは、拡大されていない普通の景色で、しかもスコープのような筒を覗き込む形状ではないので、照準以外の周りの景色がよく見える、という特徴があります。つまり、近距離を疾走してくるシカを撃つには、スコープよりもドットサイトの方が有利なのです。
有効な武器を手に入れたとしても、やはり練習は必要です。練習して練習して練習しまくりました。そしてまた、あの猟犬と猟をする日がやってきました。運命というものは不思議なもので、全く同じような状況で、シカが3頭、走ってきました。赤いドットでシカを照準に入れ発砲!! 1頭目、胸元に命中して一発で倒れました。すぐ後ろを走っていた2頭目に次弾を発砲、当たりが浅かったので、3発目も使って倒しました。3弾使ってしまったので、3頭目のシカには発砲できず、走り抜けて行きました。自分の鼓動の音が頭の中に鳴り響いて、他の音が何も聞こえなくなるほど興奮が高まりました。シカも命懸けですが、猟犬も命懸けです。だから僕も命懸けでやらないといけないと、改めて思ったのでした。
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