エッセイ「本だけ眺めて暮らしたい」【277】|MK新聞連載記事
MKタクシーの車載広報誌であるMK新聞では、大西信夫さんによる様々な身近な事柄を取り上げたエッセイ「本だけ眺めてくらしたい」を前身を含めて1988年5月22日から連載しています。
MK新聞2011年5月1日号の掲載記事です。
本だけ眺めてくらしたい
「クーリエ・ジャポン」を毎号購読している。
東日本大震災後に出たのは3月25日発売の五月号で、もちろん巻頭特集(17ページ)を組んでいた。
ただ、他のほとんどの雑誌とは違い、被災の写真を一枚も掲載していなかったことに、また編集部のそのセンスに、私は感心した。
講談社発行のクーリエは、海外で発行されている雑誌の中から記事を選んで翻訳、A4判の大きくカラフルな誌面でイラストや写真を豊富に使って紹介している月刊誌。
この震災特集では、ドイツはベルリンの日本大使館前に捧げられた花束の山や、火を灯したロウソクを手にしたインドの子どもたち、アフガニスタンの人々が「貧しくても日本への支援の思いがある」とのメッセージを横断幕に掲げているところ、その他スイス、インド、ロシア、バングラディシュなどの同様の写真で統一されていた。
このところ、現実とは思えないような悲惨な震災の写真や、恐怖を煽ったり怒りを焚きつけるようなドギツイ見出しが踊る記事をこれでもかと競うように載せた週刊誌(同じ講談社でも「週刊現代」はこちら)が書店に並んでいる。
「がんばろう」「私たちにできること」などと口にしながら、一方で永久保存版と言いたげな被災地の写真満載の大判グラフ雑誌の臨時増刊をなぜ人は買い求めるのだろうか(その正当な理由は本心か?)。
テレビの「世界の衝撃映像」などと題した番組で、生死に関わる事故の場面を見たい人たちの心理とどれだけ違うというのだろうか。
ところで、古書店では関東大震災の被害を伝える各社のグラフ雑誌を今でもときどき見かける。その時代も相当に売れたのだろう。
講談社は、震災のわずか一か月後に『大正大震災大火災』という300ページの単行本を発行し(当時は大日本雄辯會講談社)、ベストセラーにしている。
表紙全体が火の海の帝都(横山大観画!)という禍々しいものだ。
ちなみに、その本の目次は今度の震災と驚くほど似ている。
特に、日本人は震災にあっても規律を守り、整然たる秩序を保っている、犯罪一つない、自分も被災しているのに助けあっているなどと、複数の外国大使のコメントのが紹介されているのが興味深い。
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MK新聞への大西信夫さんの連載記事
1988年以来、MK新聞に各種記事を連載中です。
1988年5月22日号~1991年11月22日号 「よしゆきの京都の見方」(45回連載)
1990年1月7日号~1992年2月7日 「空車中のひとりごと」(12回連載)
1995年1月22日号~1999年12月1日号 「何を見ても何かを思う」(64回連載)
1996年4月16日号~現在 「本だけ眺めて暮らしたい」(連載中)