自給自足の山里から【191】「人権学習会での“お話”」|MK新聞連載記事

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自給自足の山里から【191】「人権学習会での“お話”」|MK新聞連載記事

MKタクシーの車載広報誌であるMK新聞では、縄文百姓の大森昌也さんらによる「自給自足の山里から」を、1998年12月16日~2016年6月1日まで連載しました。
MK新聞2015年1月1日号の掲載記事です。

大森昌也さんの執筆です。

人権学習会での“お話”

89歳一人暮らし、雪の中死す日本

12月もまだ初めだというのに、「コケッコッー」のトキの声で目覚め、窓の外見ると銀世界である。
鶏たちのエサやり以外、田んぼ・畑・お山さんら仕事にならず、今日は薪ストーブのお守りし、尼崎からやってきた世之介君と、足踏み脱穀器で脱穀し、唐箕(とうみ)にかけたお豆さん(青豆・黒豆)の選別しながら、雪見酒・読書を楽しむ。
息子のげんは、昨夜仕込んだ天然酵母の生地で、早朝から私が作った石窯でパンを焼いている。孫のかや(3歳)は雪とたわむれている。
焼きたてパンを食べにやってきた近所のQさん(60代)は、「もう、日本はダメだ! ここは幼い子らがいるが、但馬(たじま)(兵庫北部)じゃ子どもがどんどん減り、学校も閉鎖され、もう20年もすると、村の半分はなくなる。都会でも子どもが少なくなっている。徳島で、この雪で89歳の一人暮らしの人が死んだ。こんなことが起こる日本はひどい!」と憤懣(まん)やるかたない。
もう20数年前になるが、我があ~す農場に「研修」にやってきたパプアニューギニアのレル・サパさんが、帰国に際して、覚えたての日本語で「日本。田んぼ・畑、年寄り・年寄り。若い人、レストラン・レストラン。日本、ほろびる」と言ったのを、今更ながら思い出す。

人権学習講演会でのお話を依頼される

人前で、マイク持って、“講演”なんて苦手である。それが、朝来(あさご)人権教育推進協議会から依頼され、あさごホールで、11月27日夕方から2時間「26年度 人権学習講演会」で話すことになった。「大学の先生方じゃなくて、近くの百姓の大森さんにお願いしたい」ということである(笑)。顔見知りもいる百人の前で話すことになった。
私の話だけでは面白くないので、私たちを取材したテレビのビデオ「我ら百姓家族⑤・長男の結婚」(フジテレビ 2007年放映)と「朝ズバッ! 0円生活」(TBS 2013年11月放映)を観てもらう。

「我ら百姓家族」(フジテレビ)観る

観る前に、テレビ取材のなりゆきを話す。実は、私が97年に書いた『六人の子どもと山村に生きる』(麦秋社)を読んだフリーの演出家が、「取材したい」とカメラマンと訪れた。
私は取材の条件として、① 私が百姓だということ、② 私がブラク(被差別部落出身)ということ、③ 自給自足の実際を表現すること、を約す。
彼は、企画書をNHKなどに出し、フジテレビが採用。「ザ・ノンフィクション」という番組で、土曜日の昼2時~3時の間、1999年以来、今まで7巻。2年に1度くらい「われら百小家族」と題して放映された。志
さて、そのフジテレビ放映では、テレビならぬ映画館を思わせる大きな画面で迫力があった。
その概要は、百姓は、百の仕事をこなし暮らす者と語られ、子どもたちと、お茶・野菜作り、鶏・山羊・豚を飼い、炭焼きなどをする様子が映し出された。鶏の首を跳ね飛ばす場面も、また親子の軋轢(あつれき)、ケンタの失恋、そして「百姓体験居候」の女性との、学んだ分校で150名参加しての恩師による人面結婚式・出産などが映し出される。
ついで、「朝ズバッ!」では、ケンタの結婚後の様子(子ども3人)・バイオガス・水力発電など自給自足の最近の様子が映し出される。

百姓は無職!?ブラクの者は雑の者!?

いよいよ、私の出番。初め、音がない! スイッチが入ってない!(笑)
私は息子から「お父さんの話はあっちこっち行くから、要点まとめて」と言われるので、3点について話します。
第1に、百姓ということ、第2に、ブラク出身を隠さないこと、第3に、自給自足の実際と限界集落の再生、である。
第1について、百姓という言葉が、ともすると“禁句”とされる中、この番組は評価できる。
私は、先頃、韓国の梨花女子大の学生が、「研修」を終えて帰るとき、JRの駅まで送った。その折、シートベルトをしていなくて、駅前交番で止められた。高校出たばかりの警官に、「職業は?」と聞かれ、「百姓」と言うと、なんと「無職ですね」と言う。私が「百姓だ!」と再び言う。そばに居た年配の景観は、慌てて、「大森さんは、研修生ら受け入れて農業している。農業」と言う。韓国の女子大生・若者のけげんな表情が忘れられない。
どうも、今頃学校では、百姓は生活全般をまかない、自立し、これほどつよいものはなく、素晴らしく誇りあるもの、と教えられていないよう。
で、学者さんもブラクのものは「労働者でも、農民でもない、雑の者」と言う。
でも、労働者でも農民でもない雑の者こそ百姓!! です。部落のものこそ百姓です。
私は、30年前、この但馬の山村のブラクに移住し、お年寄りから百姓を学んだ。
縄文遺跡の出た村で、1万年前の戦争なく平和な時代に思いを寄せ、“縄文百姓”を称するようになったのです。(つづく)

 

あ~す農場

兵庫県朝来市和田山町朝日767

 

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MK新聞への「あ~す農場」の連載記事

1998年12月16日号~2016年6月1日号
大森昌也さん他「自給自足の山里より」(208回連載)

2017年1月1日号~2022年12月1日号
大森梨沙子さん「葉根たより」(72回連載)

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