エッセイ「本だけ眺めて暮らしたい」【251】|MK新聞連載記事

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エッセイ「本だけ眺めて暮らしたい」【251】|MK新聞連載記事

MKタクシーの車載広報誌であるMK新聞では、大西信夫さんによる様々な身近な事柄を取り上げたエッセイ「本だけ眺めてくらしたい」を前身を含めて1988年5月22日から連載しています。
MK新聞2009年7月1日号の掲載記事です。

本だけ眺めてくらしたい

『沈黙を破る』(土井敏邦監督)はNGO「沈黙を破る」の活動を取材したドキュメンタリー映画だ。
「沈黙を破る」は、パレスチナ自治区での軍務の目的や報道と、実態とのギャップに違和感や、自らの行為に罪悪感を感じたイスラエル兵によって結成された。
一般住民への虐待、略奪など加害行為を告白することで、占領の実態に社会が向き合ってくれることを願っているという。

「最高の教育を受けた礼儀正しい人間でも、占領のシステムの中では誰もが残酷な機械になり得る。
個人には責任がないと言っているわけではなく、私自身も罪を犯した。
しかし、人間の尊厳や自由を奪うようなシステムはとめなければならない」と、ある元イスラエル軍将校は語る。

イスラエルは十八歳から男女とも兵役義務がある。
任務遂行のために思考も感情も排して命令に従うよう教育を受けた若者は、武器を手にし、一般住民に対する圧倒的な権力を手にして怪物に変貌していく。
民家を接収したり、農作物をブルドーザーでなぎ倒したり、住民の生活を根底から破壊する行為をそのときは何も考えないようにして実行するが、兵士の中には退役後に苦悩を抱えるものもいるという。
実は、映画の後半は昨年出版された同名の書籍の映像版。
本も土井監督自身が執筆した。岩波書店から刊行されたこの本では、パレスチナ問題と、我が国による「加害の歴史」に接点を見出そうとしている。
一方、映画は「観客を集めなければならない劇場での一般公開は、パレスチナ問題に特に関心がない人でも観てわかりやすく、内容に引き込まれ」るように編集したという。

記録映像は四部作で、他の三作はDVDでの発売のみ。
DVDでは占領の本質的な構造を描き出すため、地味な題材を丹念に積み重ねている。
それが本来の彼のやり方だが、劇場で上映する映画ゆえに、その前半では「軍の侵攻とその被害というセンセーショナルなシーン」を強調する。
命賭けで取材し、レポートさえすればいいのではなく、本、映画、DVDなど目ディアによって表現を変え、講演会で直接訴える。
受け手の心に届けるまでが自分のやるべきこと、いや、社会が変わるまで……そんな意思が感じられる。

http://examiner.co.jp/urayosi/urayosiyukitop.html

 

MK新聞について

「MK新聞」は月1回発行で、京都をはじめMKタクシーが走る各地の情報を発信する情報紙です。
MK観光ドライバーによる京都の観光情報、旬の映画や隠れた名店のご紹介、 楽しい読み物から教養になる連載の数々、運輸行政に対するMKの主張などが凝縮されています。
40年以上も発行を続けるMK新聞を、皆さま、どうぞよろしくお願いします。

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MK新聞への大西信夫さんの連載記事

1988年以来、MK新聞に各種記事を連載中です。

1988年5月22日号~1991年11月22日号 「よしゆきの京都の見方」(45回連載)
1990年1月7日号~1992年2月7日 「空車中のひとりごと」(12回連載)
1995年1月22日号~1999年12月1日号 「何を見ても何かを思う」(64回連載)
1996年4月16日号~現在 「本だけ眺めて暮らしたい」(連載中)

 

本だけ眺めて暮らしたい バックナンバー

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