フットハットがゆく【151】「トンマしちゃったっと」|MK新聞連載記事

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フットハットがゆく【151】「トンマしちゃったっと」|MK新聞連載記事

MKタクシーの車載広報誌であるMK新聞では、塩見多一郎さんのエッセイ「フットハットがゆく」を2001年11月16日から連載しています。
MK新聞2008年2月16日号の掲載記事です。

トンマしちゃったっと

僕は突然、フッと考え込んでしまう癖がある。
例えば先日、劇場で映画を見終わったあとトイレに行って用を足した。
そして洗面台で手を洗おうと蛇口をひねった瞬間に、考え込みが始まった。
映画の内容に関して何か考え込んでしまったのである。
そのまましばらくしてから、反射的に蛇口をしめて、自動乾燥機に手をつっこもうとした。
そこでハッと気づく。蛇口を開けて水を流しただけで、肝心の手を洗っていない…。
こりゃぁ、とんだトンマくんだ…と自分でニヤニヤしながらもう一度洗面台にもどり蛇口をひねる…
「このネタはフットハットで使えるな…。どういう風に書こう…」と、また考え込みが始まる。
そしてまた手を洗い忘れて蛇口をしめ、立ち去る…。
はたから見れば、何度も洗面台を行ったり来たりし、ニヤニヤしながら蛇口をひねっては水だけ流すという、得体の知れない男である。

自炊の際にもたびたび考え込みタイムは生じる。
先日、卵焼きを作ろうと思って、卵を3つ用意した。
そして卵を入れるためのボールを、三角コーナーのわきに置いた。
三角コーナーというのは調理の際に出るゴミを捨てておくところである。
卵をボールにトンと割り入れ、すぐ真横の三角コーナーに殻を捨て、それをテンポよく3回繰り返す…というイメージだったが、またこの時、何か考え込みが始まった。
ハッと気づくと、僕は三角コーナーに卵を割り入れ、ボールに殻を放り入れるという作業を2回繰り返していた。
卵は、昨日捨てた玉ねぎの皮やコーヒー豆のカスなどといっしょにまみれて、悲惨な姿に…。
結局、その日のおかずは目玉焼き1個となった。

これはあってはいけないことだが、車の運転中にも考え込みをしてしまう時がある。
ある夜、知人を助手席に乗せて運転していた。
会話が途切れてしばらくした瞬間、僕の考え込みは始まった。
そして青信号でピタッと停車し、その信号が赤になった瞬間、アクセルを踏んで発信した。
「おいおい!」と知人はびっくり。
「赤で発車はアカンやろ」
「え、赤やった?」
「その前は青信号で止まったやん…」
「ゴメン…」
幸い、夜中で他に車がなかったため、何事もなく済んだ。
このうっかり運転のからくりはこうである。
僕は考え込みの最中、かなり前方遠くの方を見ていた。
本来自分が見るべき信号の、3つも4つも先の信号を見ていたのである。
それが赤になったから止まり、青になったから発進したのだ。
まぁこれは交通ルールに反しているから絶対やってはいけないのだが、これから僕は2つのことを知った。
ひとつ。
逆に僕が歩行者だったとして、車が必ず赤信号で止まってくれると信用するのはよくない…。
もうひとつ、物事の先を見過ぎて、現行としては奇行に見えたとしても、意外とその人はその人なりに真面目なのである。
よく、「30年後に生まれていたら、キミの時代だったかもしれないね…」といわれたりする、『早過ぎた天才』系の人はそれにあたる。

 

トマス・チャタトン 1752〜1770 イギリスの詩人、17歳で服毒自殺。早過ぎた天才といわれる。

トマス・チャタトン 1752〜1770 イギリスの詩人、17歳で服毒自殺。早過ぎた天才といわれる。

 

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