エッセイ「本だけ眺めて暮らしたい」【241】|MK新聞連載記事

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エッセイ「本だけ眺めて暮らしたい」【241】|MK新聞連載記事

MKタクシーの車載広報誌であるMK新聞では、大西信夫さんによる様々な身近な事柄を取り上げたエッセイ「本だけ眺めてくらしたい」を前身を含めて1988年5月22日から連載しています。
MK新聞2009年2月1日号の掲載記事です。

本だけ眺めてくらしたい

昨今のクイズ番組は視聴者参加ではなく、お笑い芸人やバラエティ番組の常連とも言うべきタレントが出場するのが流行りらしい。
毎日のように各局で同じ趣向、同じ顔ぶれの番組が垂れ流されているが、「おバカ」な解答を笑って楽しむ番組は既に飽きられ、無邪気に「ふつうに」正答数を競っている。
中でも、漢字の読みを答える問題が人気のようで、芸能人が「漢字検定」にチャレンジするという企画まであったりする。
そのせいかどうか、世は「漢字ブーム」などと言われ、「漢字本」が結構売れているという。
KY(漢字読めない)首相の相乗効果があったとも。

で、その漢字本。どれもおそろしく似た書名。「類似品にご注意を」だ。
『読めそうで読めない漢字2000――あいまい読み・うっかり読み実例集』(加納喜光著)、『読めないと恥ずかしい漢字1500――日本人なら、これくらいは知らなくちゃ!』、日本語倶楽部編、『つい他人に試したくなる読めそうで読めない漢字 』現代言語セミナー編、『読めそうで読めない漢字の本――あなたに挑戦!正しく読めますか』出口宗和著、『読めない漢字が読める本――分野別漢字読み方便利帖』ことばの森編集室編など。「読めそうで読めない」の前後に何か言葉をつなげば別の書名ということか。

それにしても、読書離れが進む中で、「本は読まないけど難しい漢字の読みだけを暗記する人が増える」というのは奇妙な現象だ。
電子メールは「打つ」と言われるが、漢字を「書く」機会もなく(変換候補から選ぶだけ)、メールの話し言葉では漢語や難読漢字を使うこともない。
そもそも学校で習う漢字は別にして、本を読んでいてわからない文字や単語がでてきたときに辞書で調べて身につくもの。
自分の生活で出会わない漢字を「漢字本」だけ読んで覚えるというのは、雑学本で知識の断片をランダムに記憶しようとする発想(どこかで友人知人に披露して自慢する)と似ている。
クイズ番組の乱立によって、「問題」の需要が高まっていると思われる。
ネタ本や他の番組の問題の使いまわしは言うまでもないことだが、最も安易に問題を作成できるのが漢字の読みを問うものなのだろう。

 

MK新聞について

「MK新聞」は月1回発行で、京都をはじめMKタクシーが走る各地の情報を発信する情報紙です。
MK観光ドライバーによる京都の観光情報、旬の映画や隠れた名店のご紹介、 楽しい読み物から教養になる連載の数々、運輸行政に対するMKの主張などが凝縮されています。
40年以上も発行を続けるMK新聞を、皆さま、どうぞよろしくお願いします。

ホームページからも最新号、バックナンバーを閲覧可能です。

 

MK新聞への大西信夫さんの連載記事

1988年以来、MK新聞に各種記事を連載中です。

1988年5月22日号~1991年11月22日号 「よしゆきの京都の見方」(45回連載)
1990年1月7日号~1992年2月7日 「空車中のひとりごと」(12回連載)
1995年1月22日号~1999年12月1日号 「何を見ても何かを思う」(64回連載)
1996年4月16日号~現在 「本だけ眺めて暮らしたい」(連載中)

 

本だけ眺めて暮らしたい バックナンバー

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