フットハットがゆく!【352】「山のお命」|MK新聞連載記事
MKタクシーの車載広報誌であるMK新聞では、塩見多一郎さんのエッセイ「フットハットがゆく」を2001年11月16日から連載しています。
MK新聞2023年4月1日号の掲載記事です。
山のお命
今期も無事、猟期が終わりました。
ハンターとして2年目の僕。
今期は14回、猟友会の集団猟に参加しましたが、なんと13回目まで自分で撃った獲物はゼロ。
そして迎えた今期の狩猟最終日、なんと僕は2頭のシカを撃ってしとめることが出来ました。
今回は、その時の様子を書いてみたいと思います。
その日の隊は10名ほどで、2名が猟犬を連れて山の獲物を追い立てるいわゆる勢子。
残りの8名が、猟銃を構えて待ち伏せをします。
待ちの位置間隔は、同士撃ちにならないように、かなり離れています。
僕は山の頂上近くに配置されました。
絶好の獣道がありましたので、そこで待ち構えました。
犬に追われた獣は、闇雲に逃げるのではなく、必ず獣道を通って逃げてくるのです。
獣道に現れるシカやイノシシは、主に三つのパターンで登場します。
猟犬に直接追われて、全速力で走ってくるパターン。
山に猟犬や人間が入ったことを察知して、軽く走りながら移動してくるパターン。
猟犬や人間に気づいておらず、ただ日頃のように歩いて来るパターン。
今回の僕の獲物は、歩いて来るパターンでした。
歩いて来るなら撃つのは簡単だろう?と思われますが、そこには一つ落とし穴があります。
獲物がゆっくり静かに移動して来るので、待ち受けている人間がそれに気づかないことがあるのです。
シカやイノシシは、少し歩いては止まって辺りを警戒し、少し歩いてはまた止まって辺りを警戒する、という歩き方をします。
冬は枯れ枝や枯れ草がたくさん落ちていますので、歩くとガサガサ、ポキポキと音がします。
その音が連続して聞こえると、明らかに獲物だとばれるので、いちいち立ち止まって辺りを警戒するのです。
そして違和感を感じたら、ぴたっと止まったまま、なかなか動きません。
昨年のハンター1年目の僕は、そういうことも知りませんでした。
真冬の寒さをまぎらわすために、待ち場でラジオ体操をしたりしていました。
ゆっくり近づいてきたシカやイノシシは、先に僕を発見し、静かに逃げていきます。
獲物に出会えずアンラッキーだったなぁ、と思う日が何度もありましたが、実はすぐ近くまで来ていたかもしれません。
それらの経験を経て、今は茂みや木のかげを利用して、戦争映画に出てくる狙撃兵のようにじっと動かず待っています。
そして今回。茂みでガサガサ歩く音がしてピタッと止まりました。
その時点では相手の姿が見えませんでした。僕は銃を構えたまま、木のように動きませんでした。体感では1〜2分に感じましたが、実は30秒くらいだったかもしれません。
完璧に気配を消すことに成功した僕の方に向かって、大きなメスジカが茂みから姿を現しました。
20メートルほどの位置まで引きつけ、ズドン!と発砲。シカはその場に倒れこんで、すぐに動かなくなりました。
今期最終日に、初の猟果をあげた嬉しさがこみ上げる反面、やはり生き物の命を奪った罪悪感がぐるぐると頭をめぐり、その場に座り込んでしばらく動けなくなりました。続く…
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