観音菩薩はどんな仏様?西国霊場など広く信仰されてきた理由と信仰の歴史

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観音菩薩はどんな仏様?西国霊場など広く信仰されてきた理由と信仰の歴史

お寺には、ご本尊をはじめいろんな仏様がいらっしゃいます。中でもほとんどのお寺で祀られているくらい篤く信仰されているのが、観音菩薩です。
多くの仏様の中でも特に「観音菩薩」、「観音さま」の像はバリエーションと数が多く、様々なお寺で様々なお姿をした観音菩薩像を見ることができます。
西国三十三所巡礼や坂東三十三観音巡礼、秩父三十四観音巡礼なども古くから人気の巡礼も観音菩薩の霊場巡りです。
なぜ数多くある仏様の中でも、観音菩薩は広く信仰を集めてきたのか。本記事では、そうした観音菩薩への信仰の歴史や西国巡礼、様々な観音菩薩についてお話していきます。

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観音菩薩について

数ある仏様の中でも人気の高い観音菩薩

地域に根差した観音信仰

お寺を訪れる際、そのお寺のご本尊がどのような仏様かを気にして参拝する方はどの程度いらっしゃるでしょうか。
大日如来や阿弥陀如来、薬師如来、弥勒菩薩や文殊菩薩、不動明王…。様々なお寺を巡り、仏様を拝んでいると、お寺には実に様々な仏様がいらっしゃること、そして同じ仏様でも仏像に表された時期や、題材とした経典、逸話などによってそのお姿が異なることに驚かされます。
中でも人気が高いのが「観音菩薩(観世音菩薩)」です。

「日本最古の巡礼」として知られる西国三十三所霊場をはじめ、これら観音菩薩を祀るお寺を巡るものであるほか、「〇〇観音」として地域に根ざした信仰を有する寺院も日本全国様々な所で目にすることができます。

法隆寺の百済観音 Japanese Government Railways「Japanese sculpture」出典:国立国会図書館デジタルコレクション

法隆寺(奈良県)の百済観音 Japanese Government Railways「Japanese sculpture」出典:国立国会図書館デジタルコレクション

 

「菩薩部」の仏様の観音菩薩

仏様は「如来」や「菩薩」、「明王」、「天」の4つに大別されます。「如来」の中では大日如来や釈迦如来、薬師如来が、「明王」では不動明王がそれぞれ高い人気を誇り、作例も多く見受けます。
「菩薩」の中では観音菩薩の他に弥勒菩薩や文殊菩薩、普賢菩薩像などをお寺で見かける機会がありますが、作例の多さではいずれも観音菩薩には及ばないでしょう。
観音菩薩像の作例の多さは、つまりそれだけ多くの人が観音菩薩を知り、参拝してきたことを物語っています。

霊山観音 2007年12月23日 撮影:MKタクシー

霊山観音(京都府) 2007年12月23日 撮影:MKタクシー

 

観音菩薩とは

正式には「観世音菩薩」「観自在菩薩」

観音菩薩と一口にいっても、実は正式な名前は「観世音菩薩」「観自在菩薩」と2種類があり、どちらもあわせて使われています。
一般的には「観音菩薩」や「観世音菩薩」と呼ばれることが多いものの、般若心経などでは「観自在菩薩」と呼ばれていることにお気づきの方も多いのではないでしょうか。
この違いは観音菩薩のことを記した経典がインドから中国へ伝わった際、訳し方の違いから発生したもので、有名な三蔵法師(玄奘三蔵)は「観自在」と訳すのが正しいと言っています。

観世音と観自在、それぞれの意味の違いを細かに取り上げてみると、観世音は「音を観る」つまり、苦しむ人々の声を聞き、助ける者。という意味と取ることができます。
一方の観自在は、「観察された自在者」となり、人々の苦悩を自在に観る者ととらえることができます。
どちらの呼び方が正しいとしても、観音菩薩が苦しむ人々に寄り添い、助け出してくださる存在であることに違いはありませんが、呼び方によって観音様のおはたらきのとらえ方に差が出てくるというのはおもしろいです。

坂本大観音 2023年11月3日 撮影:MKタクシー

坂本大観音(滋賀県) 2023年11月3日 撮影:MKタクシー

 

「観音経」で説かれる観音菩薩

インドから中国に伝わった観音菩薩に関する経典はいくつかありますが、代表的なものには「観音経」、そして「般若心経」が挙げられます。
今回はこの2つのお経から、観音菩薩とはどんな仏様なのかを見てみましょう。

まずは観音経から。観音経は大乗仏教の代表的な経典「法華経」に含まれる章のひとつです。日蓮宗や法華宗を中心に、真言宗や禅宗などでも唱える機会があるようです。
法華経は東アジア地域で特に大切にされた経典のひとつと言うことができ、日本では奈良時代、聖武天皇の妃である光明皇后が全国に法華経を信奉する「法華滅罪寺(ほっけめつざいのてら)、国分尼寺」を建立し、国家鎮護に努めているほか、天台宗、日蓮宗では経典の中でトップレベルに重要視されて唱えられてきました。

法華経が重要視された理由は、「誰もが平等に成仏できる」と説かれているからです。例えば他の経典では女性は成仏できないと解釈できる表現がされていましたが、法華経の中では竜王の八歳の娘が(女性・年少・龍の体という従来成仏に遠いと考えられた姿でありながら)その姿のままに成仏した描写があり、女性を含むすべての人が成仏できることを説いています。

中宮寺の如意輪観音座像 奈良県「御大礼記念写真帖」出典:国立国会図書館デジタルコレクション

中宮寺(奈良県)の如意輪観音座像 奈良県「御大礼記念写真帖」出典:国立国会図書館デジタルコレクション

法華経に含まれる観音経も、そうした大乗仏教的な視点から観音菩薩の功徳を伝えている経典です。火の中に落とされたとき、海で溺れそうなとき、悪人に襲われて高所から落ちたときなど、あらゆるピンチの時に心から救いを求めることで観音菩薩に助けていただけるとされています。
この「人々をあらゆるピンチから救う」ことと共に観音経に記されているのが、「人々を救う際に観音さまは状況にあわせて姿を変える」というものです。観音菩薩は状況にあわせた三十三の姿を持っていることが伝わっています。

「三十三」は巡礼をしている方にはお馴染みの数字でしょうか。西国、坂東などの三十三箇所の観音菩薩の霊場を巡拝する風習は、三十三のお寺を参って観音菩薩の功徳に与るためにはじまったものです。
京都にある「蓮華王院三十三間堂」が千体の千手観音をお祀りしているという例もありますし、観音菩薩と“三十三”という数字は切っても切れない関係性があります。

土佐秀信画「仏像図彙」出典:国立国会図書館デジタルコレクション

土佐秀信画「仏像図彙」出典:国立国会図書館デジタルコレクション

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「般若心経」で説かれる観音菩薩

次に般若心経の内容をみてみましょう。
般若心経は260文字程度ととても短い経典で、その手軽さからお経の中で特に目にする機会のあるものではないでしょうか。この文章をお読みの方の中には、朝夕のお仏壇前でのお勤めや、お寺に参った際の納経などで日常的に接している方もいらっしゃるかもしれません。
般若心経は宗派を跨いで様々な機会で唱えられてきたことが特徴で、天台宗の開祖である最澄の注釈書が残っていたり、歴代の天皇が国家鎮護のために写経を残したりと、古くから多くの人々がこの経典を唱え、信奉してきました。

法華寺の十一面観音菩薩像 内藤藤一郎「仏像通解」出典:国立国会図書館デジタルコレクション

法華寺(奈良県)の十一面観音菩薩像 内藤藤一郎「仏像通解」出典:国立国会図書館デジタルコレクション

般若心経も観音様と深い関係のある経典で、「観自在菩薩 行深般若波羅蜜多時…」と唱え始めます。
この観自在菩薩とは観音様のことですが、般若心経は観音菩薩が修行の結果体得したものの見方を、仏弟子のシャーリプトラ(経典中では舎利子と呼ばれています)に語りかけるという展開になっています。
シャーリプトラは釈迦の弟子の中でも「知恵第一」と称されたほどの優れた弟子で、般若心経以外にも様々な経典で仏や菩薩達と対話しています。

壷阪寺の天竺渡来大観音 2021年11月28日 撮影:MKタクシー

西国三十三所巡礼札所の壷阪寺(奈良県)の天竺渡来大観音 2021年11月28日 撮影:MKタクシー

ここで注目したいのが「行深般若波羅蜜多時」という文言です。この文言は「観自在菩薩が般若波羅蜜を行じていた時」、「観音菩薩が深い智慧の完成の修行をしたとき」等と現代語訳されますが、この文言からは観音菩薩自らも修行をしていることがわかります。

観音さまが属する「菩薩」とは悟りを得た「如来」へ至るための修行をしている姿を表すとされていますが、観音さまは元々は「正法妙如来」という如来の座にあったとされています。
しかし、如来という高い位置からでは迷える衆生を助けることができないとして、観音さまは如来より人間に近い菩薩の姿をとって現世に降り立つこととし、菩薩の姿で人々に寄り添っている仏様であるという考えが生まれました。
この考えは中国、そして日本で一般にまで広がり、観音菩薩は現世で苦しむ衆生に寄り添う仏様であるといった信仰へ繋がっていくこととなります。

法隆寺東院夢殿の救世観音菩薩像 内藤藤一郎「仏像通解」出典:国立国会図書館デジタルコレクション

法隆寺東院夢殿の救世観音菩薩像 内藤藤一郎「仏像通解」出典:国立国会図書館デジタルコレクション

 

様々な観音菩薩

三十三の姿で現れる観音菩薩

三十三観音

土佐秀信画「仏像図彙」出典:国立国会図書館デジタルコレクション

土佐秀信画「仏像図彙」出典:国立国会図書館デジタルコレクション

ここまで観音菩薩に関する有名な2つのお経から観音菩薩について見てきましたが、ここからは観音菩薩のとる様々な姿についてお話していきます。
「観音経」のお話の際、観音菩薩が三十三の姿を取ることをお話ししましたが、その一覧は下記のようなものです。

 名称
1仏身
2辟支仏(びゃくしぶつ)身
3声聞(しょうもん)身
4梵王身
5帝釈(たいしゃく)身
6自在天身
7大自在天身
8天大将軍身
9毘沙門身
10小王身
11長者身
12居士(こじ)身
13宰官身
14婆羅門身
15比丘(びく)身
16比丘尼身
17優婆塞(うばそく)身
18優婆夷(うばい)身
19長者婦女身
20居士婦女身
21宰官婦女身
22婆羅門婦女身
23童男身
24童女身
25天身
26竜身
27夜叉(やしゃ)身
28乾闥婆(けんだつば)身
29阿修羅身
30迦楼羅(かるら)身
31緊那羅(きんなら)身
32摩睺羅伽(まごらが)身
33執金剛身

図のように、観音菩薩は様々な姿で衆生を救うことが経典からもわかりますが、あらゆる人のあらゆる願いを叶えるという信仰から、その姿はさらに多様なものへとなっていきます。
またこの三十三身に基づき、三十三種類の「三十三観音」も生み出されました。

 名称読み方
1楊柳ようりゅう
2龍頭りゅうず
3持経じきょう
4円光えんこう
5遊戯ゆげ
6白衣びゃくえ
7蓮臥れんが
8滝見たきみ
9施薬せやく
10魚籃ぎょらん
11徳王とくおう
12水月すいげつ
13一葉いちよう
14青頚しょうけい
15威徳いとく
16延命えんめい
17衆宝しゅうほう
18岩戸いわと
19能静のうじょう
20阿耨あのく
21阿摩提あまだい
22葉衣ようえ
23瑠璃るり
24多羅尊たらそん
25蛤蜊こうり
26六時ろくじ
27普悲ふひ
28馬郎婦めろうふ
29合掌がっしょう
30一如いちにょ
31不二ふに
32持蓮じれん
33灑水しゃすい
大安寺の楊柳観音菩薩立像 奈良帝室博物館「奈良帝室博物館彫刻図録」出典:国立国会図書館デジタルコレクション

大安寺(奈良県)の楊柳観音菩薩立像 奈良帝室博物館「奈良帝室博物館彫刻図録」出典:国立国会図書館デジタルコレクション

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六観音

観音菩薩の多くの姿の中でも特に日本のお寺でよく見かけるものを「六観音」といいますが、この中にはオーソドックスなお姿の「聖観音」のほか、千の腕であまねく衆生を救う「千手観音」、一つ一つの顔の力によって衆生の苦しみを抜き去る「十一面観音」などがあります。これらの像は多くの目や多くの腕を持ち、多くの人々を見て、救うことがその姿にも表されています。

六観音のほか、中国や日本で広まった「三十三観音」の中には、日本画の題材としても多く親しまれる「白衣観音」や、中国南部から日本まで漁民に広く信仰された「馬郎婦観音」などもあり、観音様のお姿の変化を集中的に取り上げるといくら紙幅があっても足りなくなってしまいます。

土佐秀信画「仏像図彙」出典:国立国会図書館デジタルコレクション

土佐秀信画「仏像図彙」出典:国立国会図書館デジタルコレクション

この記事では観音菩薩の様々なお姿の中でも、特に見かける機会の多い「六観音」について取り上げて解説していきます。

宗派によって六観音のメンバーは少し異なるため、七種類の観音菩薩をご紹介します。

 

如意輪観音(にょいりんかんのん)

観心寺の如意観世音像 内藤藤一郎「仏像通解」出典:国立国会図書館デジタルコレクション

観心寺(大阪府)の如意観世音像 内藤藤一郎「仏像通解」出典:国立国会図書館デジタルコレクション

六観音のはじめは、六観音の中でも六道のうち「天道」で迷う人々に救いをもたらすとされた如意輪観音(にょいりんかんのん)です。
通常6本の腕を持つ姿で表され、その多くが座像または半跏(片足を他の片足の上に乗せた姿)像で、立像はほぼ見かけません。

右手を頬にあて、考える姿を取る(思惟)作例が多く、六本の腕を持つ像の場合は右手のひとつにあらゆる願いを叶える「如意宝珠」を、左手のひとつに煩悩を破壊する「法輪」を持つことが名前の由来となっています。
この姿はどうすれば衆生を救えるのかを考えている姿とされ、その持物(じぶつ)から福徳や智慧を与える仏様として信仰されてきました。

岡寺の伝如意輪観世音像 内藤藤一郎「仏像通解」出典:国立国会図書館デジタルコレクション

西国三十三所巡礼札所の岡寺(奈良県)の伝如意輪観世音像 内藤藤一郎「仏像通解」出典:国立国会図書館デジタルコレクション

如意輪観音をお祀りする寺院としては滋賀県の石山寺や園城寺が西国札所本尊仏としているほか、大阪府河内長野市の観心寺、兵庫県西宮市の神呪寺、奈良県宇陀市の室生寺の如意輪観音は「日本三如意輪観音」として名高いものです。

 

准胝観音(じゅんでいかんのん)

新薬師寺の准胝観音菩薩立像 奈良帝室博物館「奈良帝室博物館彫刻図録」出典:国立国会図書館デジタルコレクション

新薬師寺(奈良県)の准胝観音菩薩立像 奈良帝室博物館「奈良帝室博物館彫刻図録」出典:国立国会図書館デジタルコレクション

准胝観音は、真言宗で六観音に含まれ、「人道」の衆生、つまり現世に生きる私たちを救うとされている観音菩薩です。
経典内で腕の数は様々ですが、日本では3つの目と18本の腕を持つ姿で表される作例が多く見られます。

観音菩薩の様々な姿は、一説にはヒンドゥー教やその他の神々が仏教に吸収されたものであるともいわれますが、准胝観音はヒンドゥー教の女神である「チャンディー」が源流ともいわれます。
その姿は女性のもので、准胝観音を六観音に数えない天台宗や、インド・チベットでは准胝観音を観音菩薩ではなく仏母として信仰しています。
その像様と、仏の母としての信仰から、無病息災や延命のほかに子授けや安産のご利益があるとして信仰された歴史を持っています。

国訳秘密儀軌編纂局編「新纂仏像図鑑」出典:国立国会図書館デジタルコレクション

国訳秘密儀軌編纂局編「新纂仏像図鑑」出典:国立国会図書館デジタルコレクション

准胝観音をお祀りする寺院では京都府京都市、醍醐寺上醍醐の准胝堂が西国札所の本尊としてお祀りしているほか、和歌山県高野山町の准胝堂などが有名です。
作例は密教系だけでなく、禅宗系の寺院にも見られるのが大きな特徴ですが、六観音の他の観音菩薩と比べると古い時代の作例は多くありません。

 

不空羂索観音(ふくうけんじゃくかんのん)

東大寺法華堂の不空羂索観音像 内藤藤一郎「仏像通解」出典:国立国会図書館デジタルコレクション

東大寺法華堂の不空羂索観音像 内藤藤一郎「仏像通解」出典:国立国会図書館デジタルコレクション

不空羂索観音は、天台宗において六観音とされ、「人道」の衆生を救うとされた観音菩薩です。
准胝観音と不空羂索観音、そして六観音のうち他の五観音をあわせて、「七観音」と呼ばれる場合もあります。

経典内で腕の数は定まらないものの、3つの目と8本の腕を持ち、名前の由来である羂索(けんじゃく)を手にし、鹿の皮で作られた袈裟を身に着ける姿で多く表されます。
羂索は古代インドにおいて狩猟や戦闘で使用された捕縛用の縄のことで、この縄によって迷える衆生を掬い上げるとされています。
この観音菩薩は健康長寿や病気治癒といった現世利益のほか、死後に極楽へ往生できる観音菩薩として信仰されてきました。
この観音菩薩が鹿の毛皮を身にまとう理由は、子鹿を思う母鹿のように衆生を思うことを表すとされるほか、古代インドの山岳信仰につながりがあるともいわれます。

興福寺南円堂の不空羂索観音座像 奈良県「御大礼記念写真帖」出典:国立国会図書館デジタルコレクション

西国三十三所巡礼札所の興福寺南円堂の不空羂索観音座像 奈良県「御大礼記念写真帖」出典:国立国会図書館デジタルコレクション

日本ではこの鹿の皮を身に着けている点が、鹿を神の使いとする春日大社と関連するものと考えられ、特に春日大社を氏神とする藤原氏から強く信仰された歴史を持っています。
そのため、作例は奈良に集中しているのが特徴で、奈良県奈良市の興福寺南円堂がご本尊としているほか、同じく奈良市の東大寺三月堂にお祀りされている不空羂索観音は国宝に指定、宝玉を散らした冠と鮮やかな光背を持つ美しい仏様として知られています。

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十一面観音(じゅういちめんかんのん)

聖林寺の十一面観音菩薩像 内藤藤一郎「仏像通解」出典:国立国会図書館デジタルコレクション

聖林寺(奈良県)の十一面観音菩薩像 内藤藤一郎「仏像通解」出典:国立国会図書館デジタルコレクション

十一面観音は六観音のうち特に「修羅道」の人々を救うとされた観音菩薩です。
像の特徴はその名の通り、頭の上に十一の顔を持っていることで、それぞれの顔を全方向に向けて衆生を見守っています。

十一の顔には特徴があり、頭頂部に1面ある“仏面”は究極の悟りを表す表情をしているほか、正面三面の“菩薩面”は穏やかな表情で衆生に慈悲を与え、左側三面の“忿怒面(ふんぬめん)”は眉を吊り上げた表情で衆生を戒め仏道へ向かわせ、右側三面の“狗牙上出面(くげじょうしゅつめん)”は牙を出した表情で衆生を励まし仏道を勧め、背面にある“大笑面(だいしょうめん)”は悪にまみれた衆生の悪行を笑い滅している。といわれています。
腕の数は2本で表されている場合が多く、右手には数珠、左手には水瓶を持った姿で表されているのを多く見かけます。
古く様々な災いを退けるとして、特に病気の治癒や死後の極楽往生の力を持つ観音菩薩として信仰されてきました。その結果、六観音の中でも千手観音像と並んで豊かな作例が見られます。

新薬師寺の十一面観音菩薩像 内藤藤一郎「仏像通解」出典:国立国会図書館デジタルコレクション

新薬師寺(奈良県)の十一面観音菩薩像 内藤藤一郎「仏像通解」出典:国立国会図書館デジタルコレクション

お祀りしている有名なお寺としては、西国三十三所の札所でもある長谷寺のものが群を抜いて有名かと思います。
こちらのお寺の十一面観音菩薩は右手に錫杖、左手に水瓶を持ち、盤石の上に立つお姿は、地上に降り立ち衆生を救う姿を表したもので、平安時代から老若男女や身分の貴賤に関わらない多くの方の参詣を受けてきました。
関西地方に国宝の作例が多く残っており、MKトラベルでは2024年に国宝十一面観音を巡礼するプランを作成中です。続報をご期待ください!

渡岸寺(向源寺)の十一面観音立像 滋賀県「滋賀県写真帖」出典:国立国会図書館デジタルコレクション

渡岸寺〈向源寺〉(滋賀県)の十一面観音立像 滋賀県「滋賀県写真帖」出典:国立国会図書館デジタルコレクション

 

馬頭観音(ばとうかんのん)

観世音寺の馬頭観音菩薩像 内藤藤一郎「仏像通解」出典:国立国会図書館デジタルコレクション

観世音寺(福岡県)の馬頭観音菩薩像 内藤藤一郎「仏像通解」出典:国立国会図書館デジタルコレクション

馬頭観音は六観音のうち、特に「畜生道」に迷う人々を救うとされています。
像の特徴は、名前の通り頭上に馬をあしらった冠を被っている点と、観音菩薩には珍しい忿怒の表情をされている点です。その表情から、「馬頭明王」と呼ばれることもあります。
怒りの激しさによって諸悪を粉砕するとされるほか、馬が草を食べるように煩悩を食べつくし、災難を取り除く観音菩薩とされています。
持物も観音菩薩には珍しく、斧や剣など猛々しいものを持っていることが特徴で、いくつかある腕のうち正面の2本で「馬口印」という馬の口を表す印を結んでいる様子が多く見られます。

浄瑠璃寺の馬頭観音立像 東京美術学校編「南都七大寺大鏡」出典:国立国会図書館デジタルコレクション

浄瑠璃寺(京都府)の馬頭観音立像 東京美術学校編「南都七大寺大鏡」出典:国立国会図書館デジタルコレクション

三蔵法師(玄奘三蔵)がインドに訪れたあとに弟子に口述筆記させた「大唐西域記」の中には海難事故にあった人が観音菩薩に祈ると、白馬に変じた観音菩薩に助けられたという話があり、そのことから海難事故を防ぐ功徳があるとされたほか、陸上交通の要であった馬との関連から、旅行や交通安全、そして動物救済の力を持つとされて信仰されました。
全国各地の峠道などに石仏として、そして海を見下ろすお寺などに海上交通安全の祈願などからお祀りされている様子が見られるほか、西国札所では京都府舞鶴市の松尾寺がお祀りしています。

他の馬頭観音をお祀りしているお寺では、福井県高浜町の中山寺や馬居寺(まごでら)の作例が有名であるほか、兵庫県神戸市の妙光院では、テンポイントやライスシャワー、サイレンススズカといった名馬たちや多くの動物を供養している、日本最大の馬頭観音が見られます。

 

千手観音(せんじゅかんのん)

唐招提寺金堂の千手観音像 内藤藤一郎「仏像通解」出典:国立国会図書館デジタルコレクション

唐招提寺金堂の千手観音像 内藤藤一郎「仏像通解」出典:国立国会図書館デジタルコレクション

千手観音は六観音のうち、特に「餓鬼道」の人々を救うとされている観音菩薩です。
作例によっては省略されることがあるものの千本の腕を持っていることが特徴で、経典の中ではその千本の腕の手のひら一つ一つに目を持つとされることから、「千手千眼観音菩薩」などとも呼ばれます。
また、その千本の手ですべての衆生を見つめ、すべての衆生を救うという信仰から、広大無限な功徳を持つとされ、特に密教においては観音の中のトップとして信仰、「蓮華王菩薩」との呼び名も見られます。
千本の腕にはそれぞれ宝剣や水瓶、錫杖など様々な持物を持っており、これらの持物も千手観音の多種多様な霊験を示しています。

海龍王寺の十一面観音立像 東京美術学校編「南都七大寺大鏡」出典:国立国会図書館デジタルコレクション

海龍王寺(奈良県)の十一面観音立像 東京美術学校編「南都七大寺大鏡」出典:国立国会図書館デジタルコレクション

作例も多く、先に紹介した京都市の三十三間堂は本尊の他に1001体の千手観音が並んでいることで有名であるほか、奈良県奈良市の唐招提寺や、和歌山県日高川町道成寺のものなど国宝指定を受けている像も多く残っています。

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聖観音(しょうかんのん)

薬師寺東院堂の聖観音菩薩像 内藤藤一郎「仏像通解」出典:国立国会図書館デジタルコレクション

薬師寺東院堂の聖観音菩薩像 内藤藤一郎「仏像通解」出典:国立国会図書館デジタルコレクション

聖観音は六観音のうち、特に「地獄道」の人々を救うとされている観音菩薩す。
観音菩薩の像のなかでも1面で1対の腕を持つオーソドックスな姿で表され、すべての観音菩薩のお姿は、この聖観音菩薩が衆生を救う際に姿を変えたものとされています。
腕には水瓶や蓮華などを持って表されることが多いほか、出家前の釈迦をモデルとしているため、首飾りなどを身に着けたきらびやかな姿が特徴です。

作例は多くありますが、阿弥陀如来の脇侍仏として勢至菩薩と共に阿弥陀三尊として祀られている場合があり、基本的にはそれ以外の単独で祀られているものを「聖観音」と称します。ご利益としては現世利益のほか、極楽往生の仏様としても信仰されてきました。

聖観音をお祀りするお寺としては、京都府亀岡市の穴太寺が西国三十三所の札所寺院として知られているほか、奈良市の薬師寺東院にお祀りされているものが美仏として知られています。
個人的におススメなのは不退寺のもので、在原業平が作ったとの話がお寺へ伝わっています。

 

観音菩薩の札所巡礼

関西の「西国三十三所」

ここまで観音菩薩について様々お話してまいりました。
私もまだまだ不勉強な人間ではあるため、どこまで皆さまに観音菩薩の魅力が伝わっているかわかりませんが、この記事をお読み頂いた皆さまが少しでも観音菩薩や観音菩薩をお祀りするお寺へ興味を持つきっかけとなれていたら嬉しいです。
観音菩薩をお祀りするお寺は全国津々浦々にあるため、ご興味を持たれたら「家の近くに祀られているのはどんな観音さまだっただろう」と見に行ってみるのも良いかと思います。
全国的に千手観音や十一面観音の作例が多く見られますが…、もしかすると珍しい観音菩薩を目にすることができるかもしれません。

観音菩薩をお祀りするお寺で有名なのは、やはり関西の「西国三十三所」、関東の「坂東三十三観音」、「秩父三十四観音霊場」といった観音巡礼の寺々が挙げられます。
これらは巡礼でいくつもの観音菩薩をお参りするので、様々な観音菩薩の功徳を感じながら、そのお姿の違いも楽しむことができます。
当社MKトラベルでは西国三十三所のツアーを毎月2回催行しています。
1年ですべての札所をまわることができるので、ご興味を持たれた方はこの機に始めてみられるのはいかがでしょうか。

札所番号寺院名寺院名のふりがなご本尊住所
第一番青岸渡寺せいがんとじ如意輪観音和歌山県東牟婁郡那智勝浦町那智山8
第二番金剛宝寺(紀三井寺)こんごうほうじ(きみいでら)十一面観音和歌山県和歌山市紀三井寺1201
第三番粉河寺こかわでら千手観音和歌山県紀の川市粉河2787
第四番施福寺(槇尾寺)せふくじ(まきおでら)千手観音大阪府和泉市槇尾山町136
第五番葛井寺ふじいでら千手観音大阪府藤井寺市藤井寺1-16-21
第六番南法華寺(壺阪寺)みなみほっけじ(つぼさかでら)千手観音奈良県高市郡高取町壺阪3
第七番龍蓋寺(岡寺)りゅうがいじ(おかでら)如意輪観音奈良県高市郡明日香村岡806
第八番長谷寺はせでら十一面観音奈良県桜井市初瀬731-1
第九番興福寺(南円堂)こうふくじ(なんえんどう)不空羂索観音奈良県奈良市登大路町48
第十番三室戸寺みむろとじ千手観音京都府宇治市菟道滋賀谷21
第十一番醍醐寺(准胝堂)だいごじ(じゅんていどう)准胝観音京都市伏見区醍醐醍醐山1
第十二番正法寺(岩間寺)しょうほうじ(いわまでら)千手観音滋賀県大津市石山内畑町82
第十三番石山寺いしやまでら如意輪観音滋賀県大津市石山寺1-1-1
第十四番園城寺(三井寺)おんじょうじ(みいでら)如意輪観音滋賀県大津市園城寺町246
第十五番今熊野観音寺いまくまのかんのんじ十一面観音京都市東山区泉涌寺山内町32
第十六番清水寺きよみずでら千手観音京都市東山区清水1丁目294
第十七番六波羅蜜寺ろくはらみつじ十一面観音京都市東山区五条大和大路上ル東入2丁目轆轤町81-1
第十八番頂法寺(六角堂)ちょうほうじ(ろっかくどう)如意輪観音京都市中京区六角東洞院西入堂之前町248
第十九番行願寺(革堂)ぎょうがんじ(こうどう)千手観音京都市中京区寺町通竹屋町上ル行願寺門前町17
第二十番善峯寺よしみねでら千手観音京都市西京区大原野小塩町1372
第二十一番穴太寺あなおじ聖観音京都府亀岡市曽我部町穴太東ノ辻46
第二十二番総持寺そうじじ千手観音大阪府茨木市総持寺1-6-1
第二十三番勝尾寺かつおうじ千手観音大阪府箕面市粟生間谷2914-1
第二十四番中山寺なかやまでら十一面観音兵庫県宝塚市中山寺2-11-1
第二十五番播州清水寺ばんしゅうきよみずでら千手観音兵庫県加東市平木1194
第二十六番一乗寺いちじょうじ聖観音兵庫県加西市坂本町821-17
第二十七番圓教寺えんきょうじ如意輪観音兵庫県姫路市書写2968
第二十八番成相寺なりあいじ聖観音京都府宮津市成相寺339
第二十九番松尾寺まつのおでら馬頭観音京都府舞鶴市松尾532
第三十番宝厳寺ほうごんじ千手観音滋賀県長浜市早崎町1664-1
第三十一番長命寺ちょうめいじ千手観音、十一面観音、聖観音滋賀県近江八幡市長命寺町157
第三十二番観音正寺かんのんしょうじ千手観音滋賀県近江八幡市安土町石寺2
第三十三番華厳寺けごんじ十一面観音岐阜県揖斐郡揖斐川町谷汲徳積23
番外法起院ほうきいん奈良県桜井市初瀬776
番外元慶寺がんけいじ京都府京都市山科区北花山河原町13
番外花山院かざんいん兵庫県三田市尼寺352

関東の「坂東三十三観音」、「秩父三十四観音霊場」

坂東三十三観音

「西国秩父坂東三十三所御詠歌番外大字」出典:国立国会図書館デジタルコレクション

「西国秩父坂東三十三所御詠歌番外大字」出典:国立国会図書館デジタルコレクション

 

坂東三十三観音は、坂東(関東)の1都6県のまたがる札所の観音霊場です。
西国三十三所観音霊場と同じく花山法皇によって始まったと伝えられていますが、実際には鎌倉時代のはじめに西国三十三所観音霊場にならって始ったと考えられています。
第1番札所は鎌倉の杉本寺で、第33番札所は館山の那古寺です。

 

秩父三十四観音

「観音霊験記 秩父巡礼」出典:国立国会図書館デジタルコレクション

「観音霊験記 秩父巡礼」出典:国立国会図書館デジタルコレクション

秩父三十四観音は、埼玉県西部の秩父地方の観音霊場です。
坂東三十三観音に次いで始まりました。西国と坂東がいずれも三十三観音にならって札所数が三十三ですが、秩父は三十四です。
これは、西国三十三観音、坂東三十三観音と秩父三十四観音をあわせるとちょうど百観音となるからです。
西国、坂東、秩父の百観音巡礼も古くから人気でした。観音霊場ではありませんが、四国八十八箇所をあわせた百八十八箇所巡礼も人気があります。

 

観音霊場の西国三十三所巡礼はMKトラベルがおすすめ

観音巡礼の中でも最も人気に西国三十三所は、関西2府4県と岐阜県にまたがります。
MKトラベルでは、京都発着で西国三十三所を巡る日帰りツアーを催行しています。
西国三十三所のツアーはたくさんありますが、MKトラベルのツアーは以下の特徴があります。

  1. お詣りに特化してお寺での滞在時間を確保
  2. 御朱印はご自身で
  3. お好みのペースで自由参拝
  4. 専任の公認先達がツアーに同行
  5. MKグループならではの”おもてなし

京都から西国三十三所巡礼を行う方は、ぜひMKトラベルの日帰りツアーをご利用ください。
西国三十三所以外にも、熊野三山、善光寺、国宝十一面観音巡りなどいろんなテーマの巡礼ツアーを催行します。

MKトラベルのツアー一覧はこちら

執筆者紹介

岩本 真輝(いわもと まさき)
1993年兵庫県西宮市生まれ。奈良大学文学部地理学科卒業後、営業職を中心に勤務。
2022年に旅行会社へ転職し、以降はツアー企画職やツアーライター/歴史ライターなどに従事しています。
https://iwamoto-masaki.com/

岩本真輝執筆記事

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