エッセイ「本だけ眺めて暮らしたい」【303】|MK新聞連載記事

よみもの
エッセイ「本だけ眺めて暮らしたい」【303】|MK新聞連載記事

MKタクシーの車載広報誌であるMK新聞では、大西信夫さんによる様々な身近な事柄を取り上げたエッセイ「本だけ眺めてくらしたい」を前身を含めて1988年5月22日から連載しています。
MK新聞2013年7月1日号の掲載記事です。

本だけ眺めてくらしたい

アイパッドを手に入れたら、やろうと思っていたことがあった。
自在に曲がるアーム・スタンドをベッドに設置し、取り付けたアイパッドを手で持たずに仰向けで寝ながら読書をすることだ。
紙の本でも同様の装置は古くからあったが、ちょっとばかり大層で、高価で、本の厚さや、本が乗せられる角度も制限され、ページをめくるのも面倒くさいようだった。
アイパッドなら、それらすべてが逆。手軽にできる。

ネット通販のサイトで検索してみると、いくつものメーカーから多種多様なアイパッド専用アーム・スタンドが発売されていた。
「やっぱり、だれでも考えることは同じだなあ」と妙に嬉しくなりながら、ある製品を選んで購入――あれからほぼ一年になるが、ほとんど役に立っていない。
と言っても、その製品に不備があったというわけではない。
「仰向けに寝て本を手に持たずにラクチン読書」を何度か実際にやってみて初めて気づいたのだが、腕を上げずに寝床に下ろしたままで仰向けに寝た体勢でいると、私は即、眠りに落ちてしまうのだった。

夜だけでなく、休日の昼も。
五ページも読めればいいほうで、たいてい二、三ページも活字を眼で追っているうちに眠ってしまう。
毎回、その繰り返し。だから、まったく読書が進まないのだ。
そう、きっと人間(少なくとも私)の身体というものは、そのようにできているに違いない。
リラックスして仰向けに寝る体勢そのものが、睡眠に入るスイッチになっているのだろう。
もしかしたら、寝床で読書している間は、自らの腕で本の重力を支える(あるいは、首と背中を反らせて、肘でうつ伏せの姿勢を保持する)というような筋肉刺激によって、脳が眠気に抗っているのかもしれない。
子供の頃から、寝床でうつ伏せになって長時間本を読むのが習慣になっている。
が、この姿勢は首に過大な負担がかかるらしい。
コリはもちろん、様々な身体のトラブルの原因にもなるという。
ま、それ以前に、問題は睡眠不足か。年も年だし、もう寝床で長時間、読書するなということだろう。
今夜も真っ暗な寝室で、ブルーライトにぼんやりと顔を照らされ眠る私であった。

 

MK新聞について

「MK新聞」は月1回発行で、京都をはじめMKタクシーが走る各地の情報を発信する情報紙です。
MK観光ドライバーによる京都の観光情報、旬の映画や隠れた名店のご紹介、 楽しい読み物から教養になる連載の数々、運輸行政に対するMKの主張などが凝縮されています。
40年以上も発行を続けるMK新聞を、皆さま、どうぞよろしくお願いします。

ホームページからも最新号、バックナンバーを閲覧可能です。

 

MK新聞への大西信夫さんの連載記事

1988年以来、MK新聞に各種記事を連載中です。

1988年5月22日号~1991年11月22日号 「よしゆきの京都の見方」(45回連載)
1990年1月7日号~1992年2月7日 「空車中のひとりごと」(12回連載)
1995年1月22日号~1999年12月1日号 「何を見ても何かを思う」(64回連載)
1996年4月16日号~現在 「本だけ眺めて暮らしたい」(連載中)

 

本だけ眺めて暮らしたい バックナンバー

この記事が気に入ったらSNSでシェアしよう!

関連記事

まだ知らない京都に出会う、
特別な旅行体験をラインナップ

MKタクシーでは様々な京都旅コンテンツを
ご用意しています。