自給自足の山里から【171】|MK新聞連載記事

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自給自足の山里から【171】|MK新聞連載記事

MKタクシーの車載広報誌であるMK新聞では、縄文百姓の大森昌也さんらによる「自給自足の山里から」を、1998年12月16日~2016年6月1日まで連載しました。
MK新聞2013年5月1日号の掲載記事です。

大森昌也さんの執筆です。

山が笑うが、変

いつもは遅い山村の春が、今年は早い。山に残り雪のように白いこぶし、白・ピンクの山桜、黄色の山ブキ、紫のつつじなどの花が次々と先を競うかのように咲く。
お年寄りは「山が笑う」とおっしゃるが、「今年は早い、変だ」とも付け加えられる。
果樹園の梅も白い花誇り、田んぼのそばの桜の花ビラが、年中水を張った田を白・ピンクに染める。その下を動く黒い軍団のオタマジャクシたち。来訪の人たちは、一瞬立ち尽くし、「こんな風景見たことない」と感嘆する。
春の食卓は、野草料理を普及されている若杉さん(76)ではないが、つくし、あさつき、三つ葉、よもぎ、わらび、うるいなどが所狭しと並ぶ。

春、百姓体験居候ら来訪者つづく―より強くやさしい人になりたい―

京都精華大「農的くらし」のゼミ(本野一郎教員)の学生たちが、恒例の卒業研修にやってくる。「研修」中の隣町の徹君(30)と、あ~す農場の住民となり自立農目指す利君(30)が、接待、指導する。
鶏糞を畑に入れ、鶏さんの首をはね、捌(さば)いて、カマドで炊いた玄米でのチキンカレーを食べ、薪割りして五右衛門風呂に火をつけ、沸(わ)かし、入浴などこなす。
学生たちは「命をいただいていることをしっかり実感しました」「ここに来て、より強くやさしい人になりたいと思いました」「ここで得たことを自分の描く作品に活かしたい」「タイの山岳民族の家の雰囲気に似ていて、懐かしかった」「ここでの経験は、これからの自分にとってとても貴重なものです」などの感想。
本野さんは「“農的くらし”のメッカがいつまでも健在でありますように」と祈りのメッセージ。
今から世界を旅する若者たち、高校生、定年田舎暮らしの人たち、「あ~すがお手本」と山村の再生をやろうとする人、竹田城に行きついでの来訪の人たちらにぎやかである。

鍬1本で田づくり! おたまじゃくし王国

徹君は、落ち葉、ヌカなどの足踏み温床をつくり、在来の種(トマト、ナス、ピーマン、キュウリ、キャベツ、カボチャなど)まいて、苗づくり。不耕起畑に、ジャガイモ植、ニンジンをまく野菜づくり。また、竹でトイをつくり、川から水引いて、私が隣町の山村のブラクの古老から学んだ、鍬1本の田づくりに挑戦する。土を掘り起こし、ねって畦(あぜ)塗りし、水を貯めていく。やがて、おたまじゃくしが上の田から移動し、王国をつくる。生きとし生ける微生物らによって、豊かな田になり、おいしいお米になる縄文百姓の幸せを味わう。
これから1年、いろいろ百姓を「研修」して自立百姓志す。
利君は、15歳で全寮制の農業高校に入り、以来15年、主に農・農業関係に身を置く。「回り道しながらも、今、福岡正信氏の一切無用論や中島正氏の自然農に回帰した気持ち」になる。そして、あ~す農場へ。自然養豚を基に、自立した百姓を志し、今、こつこつ切り倒した杉林を片付けしている。

読者の方が、中国人親子と来訪

京都の読者の南さんが、中国人(大学非常勤講師)王さん親子とともに、ようやく来れた来訪くださる。感謝!
中国は今、世界の工場で、大気汚染、黄砂の砂漠と河川の汚泥、海洋の汚染が進み、かつてのイギリス、日本と比べ、段違いに大きく、地球を巻き込む混乱をもたらしており、また、西部地区にも開発進み、山村の離村、廃村化の危機にあるという。
王さんは「私は、日本で環境問題を勉強してきた中国人。経済成長のツケと、日本の里を大事にする人たちの自給自足のライフスタイルを、同時に中国に伝えたい」とおっしゃり、中国のテレビで“あ~す農場”を紹介したいと申される。

子をつれて西へ西へと逃げてゆく 愚かな母と言うなら言え(俵万智)

住み家ばかりでなく、川海森林草原田畑などが、数えきれない年数で放射能に汚染された福島から、子どもつれて避難している人たちに、ささやかながら、山野菜、お米、卵など届けている。
28年以上経ってきたチェルノブイリで、今も様々な病気を発症し苦しむ親子たち。福島で子どもに甲状腺被曝(ばく)は45%という。
そんな中、子どもたちの被曝を避けたいと神経をすり減らす若い母親たちを、「過剰防衛の厄介者」とヒボウし、また、福島から離れた1万人以上の人たちに「県民が団結してがんばらにゃいけない時、あいつら逃げて」とのそしり(・・・)を投げかける。
小中高校で、リスク(きけん)を過小に評価し、まるで事故がなかったことにする教育が平然と行われている。
作家の大江健三郎さんは、「日本人得意のセリフ“なかったことにする”が、まかりとおらんとしている」とおっしゃる。
原発に因する差別がまかりとおらんとする。そもそも原発は、ウラン採掘で現地住民を、立地に際し住民を、被曝を強いる労働での差別で成り立つ体制である。福島の母親らをヒボウ(・・・)し、そしり(・・・)する差別も必然といえる。
この受けた傷は、自分が生きている間に癒されることはないという現実にひるんでの差別は、自分たちの生きてきた村が消えゆく現実を前にしての部落差別にダブる。
差別を糺(ただ)す文明への転換が求められている。山国日本の源の山村の再生への若者たち、子どもを被曝させない心意気の母親たちらによる小さな村(共同体)に希望がある。

 

あ~す農場

兵庫県朝来市和田山町朝日767

 

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40年以上も発行を続けるMK新聞を、皆さま、どうぞよろしくお願いします。

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MK新聞への「あ~す農場」の連載記事

1998年12月16日号~2016年6月1日号
大森昌也さん他「自給自足の山里より」(208回連載)

2017年1月1日号~2022年12月1日号
大森梨沙子さん「葉根たより」(72回連載)

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