エッセイ「本だけ眺めて暮らしたい」【248】|MK新聞連載記事

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エッセイ「本だけ眺めて暮らしたい」【248】|MK新聞連載記事

MKタクシーの車載広報誌であるMK新聞では、大西信夫さんによる様々な身近な事柄を取り上げたエッセイ「本だけ眺めてくらしたい」を前身を含めて1988年5月22日から連載しています。
MK新聞2009年5月16日号の掲載記事です。

本だけ眺めてくらしたい

「好きな作家」が一人、新たに加わると、すごくうれしくなる。
現役なら、新作が「待ち遠しい」という気持ちになれるし、出版されたらされたで、すぐに買って読める楽しみがある。
ベテランなら過去に多くの作品があり、また物故作家にしても少なからぬ著書があるわけで、読みたい本のリストは一挙に長くなる。
ただ、人生も半分を過ぎたと思える年齢をとうに過ぎて、それまでノーマークだった作家を急に好きになってしまうと、古本屋で絶版本を探しながら少しずつ読んでいく喜びがある一方で、「でも、確実にそれだけ蔵書がまた増えるよ」と嘆くことになる。

『トム・ソーヤーの冒険』『ハックルベリィ・フィンの冒険』で知られるマーク・トウェインを最近になって読み始めた。
いわゆる児童文学には興味がないので、食わず嫌いだった。
もちろん一般の小説も書いただろうが、「児童文学の名作」を書くような人だから、他の作品も要するにその範囲内なんだろうと、勝手に思い込んでいた。

イメージが変わったきっかけは、古本の百円均一で買った『マーク・トゥエイン150の言葉』。いくつか引用してみる。
「元気になるいちばんの方法は、他の誰かを元気づけてあげることだよ」
「誕生を喜び、葬儀で悲しむのはなぜか?それは当人でないからだ」
「まず事実を手に入れることです。そうすればそれをいくらでも好きなようにねじまげられますから」

まる一冊、彼の言葉を集めた本を読んで「こんなに屈折した人だったのか」と驚き、うれしくなった。
そして、こんな人が書いた「児童文学の名作」なら一度読んでみたい、と。
トムやハックの物語を読んでみると、やはり風刺や皮肉があちらこちらに。
人種問題や、信仰に関する記述など、子どもには分からないような部分も少なくない。
おそらく、子どもたちやお母さんの多くは、児童用に書き直されたもの(つまり、それらは必ずしも児童文学ではない)を読んでいるのかもしれない。
トウェイン自身、波乱万丈の人生を送り、変人で、晩年は悲観主義的だったようだが、トムやハック以外の多大な作品も、読み始めるとなかなかおもしろい。

 

MK新聞について

「MK新聞」は月1回発行で、京都をはじめMKタクシーが走る各地の情報を発信する情報紙です。
MK観光ドライバーによる京都の観光情報、旬の映画や隠れた名店のご紹介、 楽しい読み物から教養になる連載の数々、運輸行政に対するMKの主張などが凝縮されています。
40年以上も発行を続けるMK新聞を、皆さま、どうぞよろしくお願いします。

ホームページからも最新号、バックナンバーを閲覧可能です。

 

MK新聞への大西信夫さんの連載記事

1988年以来、MK新聞に各種記事を連載中です。

1988年5月22日号~1991年11月22日号 「よしゆきの京都の見方」(45回連載)
1990年1月7日号~1992年2月7日 「空車中のひとりごと」(12回連載)
1995年1月22日号~1999年12月1日号 「何を見ても何かを思う」(64回連載)
1996年4月16日号~現在 「本だけ眺めて暮らしたい」(連載中)

 

本だけ眺めて暮らしたい バックナンバー

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