エッセイ「本だけ眺めて暮らしたい」【223】|MK新聞連載記事

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エッセイ「本だけ眺めて暮らしたい」【223】|MK新聞連載記事

MKタクシーの車載広報誌であるMK新聞では、大西信夫さんによる様々な身近な事柄を取り上げたエッセイ「本だけ眺めてくらしたい」を前身を含めて1988年5月22日から連載しています。
MK新聞2008年5月1日号の掲載記事です。

本だけ眺めてくらしたい

古本にはたまに、線引きや書き込みされたものがある。
良心的な古本屋なら値札の脇にその胸を記している。
価格も安く、店先の均一台に放り出されていることも少なくない。

読めばいい本、読み終わったら処分するような本は、安く買える方がありがたい。
だから、ペンで線引きされていても、あまり気にせずに買う。
また逆に、特に愛蔵したいと探し求めているのだがめったに見かけない珍しい本は、多少の線引き程度なら、将来美本が見つかれば買い直すことにして、とりあえず買ったおこうということになる。

いずれにしろ、鉛筆で軽く引かれた線なら消しゴムで消せるし、おもしろいことに、線引きされていたも多くは、本のはじめの方しか線は引かれていない。
読み始めてすぐに線を引くのがじゃまくさくなったのか、三日坊主で読むのをやめてしまったかだろう。

著者自身が書き込みをしている古本を買ったこともある。
保育社のカラーブックス『珍本古書』(高橋啓介著)は、本分を二重線で消し、その横に修正した文章を書きこんで、丁寧に訂正印まで押されていた。

また、ワークブック形式で読者が質問に答えて書き込んでいくタイプの本を古本で買うと、前の持ち主の答えをのぞき見しているようで、おもしろい。
ブックオフの百円コーナーで買ったディスカバー21発行『ダイエット練習帳』の「あなたが達成したい目標は?」という質問に、その人は「体重43~46kg、体脂肪17%~19%、由美かおる!!」と答えていた。

このような本をブックオフに売却して、誰かに読まれたら恥ずかしいと思わないのだろうか。
どこの誰が書いたかわからないから平気、ということか。

ところで、『ジョゼと虎と魚たち』の主人公ジョゼは、ゴミ捨て場で本を拾ってきて読む習慣があるのだが、その中に高校の問題集だったかがあって、おバカな答えが書きこまれているのを(のちの)恋人と二人で実ながら大笑いをする場面があった。

恋人は後日、その本を捨てた青年と偶然に出会って「君か!」とひとり大喜びするのだが、『ダイエット練習帳』に書き込まれた青インクの筆跡を見ながら、この映画のことをふと思い出した。

 

MK新聞について

「MK新聞」は月1回発行で、京都をはじめMKタクシーが走る各地の情報を発信する情報紙です。
MK観光ドライバーによる京都の観光情報、旬の映画や隠れた名店のご紹介、 楽しい読み物から教養になる連載の数々、運輸行政に対するMKの主張などが凝縮されています。
40年以上も発行を続けるMK新聞を、皆さま、どうぞよろしくお願いします。

ホームページからも最新号、バックナンバーを閲覧可能です。

 

MK新聞への大西信夫さんの連載記事

1988年以来、MK新聞に各種記事を連載中です。

1988年5月22日号~1991年11月22日号 「よしゆきの京都の見方」(45回連載)
1990年1月7日号~1992年2月7日 「空車中のひとりごと」(12回連載)
1995年1月22日号~1999年12月1日号 「何を見ても何かを思う」(64回連載)
1996年4月16日号~現在 「本だけ眺めて暮らしたい」(連載中)

 

本だけ眺めて暮らしたい バックナンバー

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