エッセイ「本だけ眺めて暮らしたい」【227】|MK新聞連載記事

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エッセイ「本だけ眺めて暮らしたい」【227】|MK新聞連載記事

MKタクシーの車載広報誌であるMK新聞では、大西信夫さんによる様々な身近な事柄を取り上げたエッセイ「本だけ眺めてくらしたい」を前身を含めて1988年5月22日から連載しています。
MK新聞2008年7月1日号の掲載記事です。

本だけ眺めてくらしたい

BOSE社のノイズ・キャンセリング・ヘッドフォンを買った。
内部に取り付けられた小型のマイクが周囲の雑音をキャッチして、その逆位相の音波を発することによって雑音を相殺、低減させるという仕組みだ。
アメリカ空軍でも利用されている技術だという。旅客機のファーストクラスなどで乗客に快適な音楽を楽しんでもらうために採用されている……などとも宣伝されている。
私は片道一時間ほどの通勤電車で愛用している。音楽再生機とつなぐコードがヘッドフォン本体からはずせるようになっていて、周囲の騒音を緩和させるためだけに使うことができる。これが驚くほど読書に集中できるのだ。そしてそれは想像以上だった。

というのは、雑音を減らすと言っても無音になるというわけではないからだ。そういうつもりで試した人は、効果ないじゃないかと思うかもしれない。
人のしゃべり声も含めて基本的に周囲の音は聞こえる。乗り物のエンジン音やモーター音、エアコンの音など、あるいは雑踏のさまざまな騒音が一体となった持続的な低音域に効果があるようだ。つまり、慣れてしまうと麻痺して意識しなくなってしまうようなタイプの雑音、でも長時間その環境にさらされると無意識のうちにストレスが溜まるような、そんな不快な音を軽減してくれる。
だから、実際に装着したときは、周囲の音がまだ聞こえているので、それほど効果を感じないのだが、車内で一時間ほどこのヘッドフォンをして本を読み、電車を降りる際に耳からはずすと、その差に驚くことがある。周囲はこんなにうるさかったのか!と。

購入する前、実は少し迷った。騒音が全く聞こえなくなるわけではないし、はじめのうちは嬉しくて使うだろうが、通勤鞄でそこそこのスペースをとるから、きっとそのうちお荷物になって、持ち歩かなくなるだろうと思ったからだ。
ところが、これが手放せない。このヘッドフォンで耳をふさぐ、装着するという行為それ自体も、読書に集中するための心理的な儀式になっているのかもしれない。おかげで、読み進む本のページ量が増えた。
何について、わずかな違いを重要視するか、それが人それぞれの価値観というものなのだろう。

 

MK新聞について

「MK新聞」は月1回発行で、京都をはじめMKタクシーが走る各地の情報を発信する情報紙です。
MK観光ドライバーによる京都の観光情報、旬の映画や隠れた名店のご紹介、 楽しい読み物から教養になる連載の数々、運輸行政に対するMKの主張などが凝縮されています。
40年以上も発行を続けるMK新聞を、皆さま、どうぞよろしくお願いします。

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MK新聞への大西信夫さんの連載記事

1988年以来、MK新聞に各種記事を連載中です。

1988年5月22日号~1991年11月22日号 「よしゆきの京都の見方」(45回連載)
1990年1月7日号~1992年2月7日 「空車中のひとりごと」(12回連載)
1995年1月22日号~1999年12月1日号 「何を見ても何かを思う」(64回連載)
1996年4月16日号~現在 「本だけ眺めて暮らしたい」(連載中)

 

本だけ眺めて暮らしたい バックナンバー

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