自給自足の山里から【153】「なじみたくない都会と学校」|MK新聞連載記事

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自給自足の山里から【153】「なじみたくない都会と学校」|MK新聞連載記事

MKタクシーの車載広報誌であるMK新聞では、縄文百姓の大森昌也さんらによる「自給自足の山里から」を、1998年12月16日~2016年6月1日まで連載しました。
MK新聞2011年11月1日号の掲載記事です。

大森昌也・れいさんの執筆です。

なじみたくない都会と学校

にぎやかに老壮若幼の稲刈り

秋まっ盛り。黄金色に輝く山間の不耕起の田んぼ。ギザギザの刃の鎌で稲を刈り、わらで束ね、稲城に架けていく。10日ほど干して脱穀し、新米を味わう。黄金のカボチャら採り、鍬使って畝に玉ネギらの種まきし、キャベツらの苗を植える。山に入り、ノコとオノで切り倒し、ナタでさばき、ヨキ(斧)で割って薪づくり。脱原発のささやかな水力発電の水源の修理など。手足使っての仕事、労働である。
山村に移住してのこんな自給自足の暮らしを、6人の子と若者たちとやってきて28年になる。今、元々の住民は全て百姓やめ、百姓やるのはケンタ・よしみ、げん・りさ子、私と娘たち、そして、8月に放射能から2歳の女の子とヒナンしてきた若夫婦。
今年の稲刈りも、この4家族(7人の幼い子に10人の大人)に、東京・大阪などからのべ十数名の老壮若者たちで、笑い声が絶えずにぎやかである。

しかし、但馬でも登山家・植村直己が経験したこんな風景は消え、コンバインらの機械が幅を利かせ、乗り使うのは65歳以上で、ケガし、死す。
少なくとも縄文時代の頃は、道具は、手足に使いやすい、自然とお互いが作用し合っていくものとして、人間の欲望が自然・自分自身をつぶさないものであった。
コンクリートビル・高速道路・ネオンの都会で、自然から遮断された人工的・ペット化した暮らしで、幼い子も私も心身ボロボロ。放射能ならぬ都会からヒナンして、労働者から縄文百姓を志し、山村の再生に努力す。しかし、廃村の流れは強い。
今にして思う。資本主義は、常に農山村自然を破壊し、人々を大地から切り離す。そして根源からそれなくして成り立たない。

史上最悪の原発事故。人々は、目に見えない悪魔から逃げまどい、子たちは大量の放射能を浴びせられ、故郷で暮らせない。
この人災の元凶の資本家たちは、情報をかくし、ごまかし、全く責任を取らない。平然と原発再開を言う。まあ、資本として当然の成せるもの。この連中と人類は自滅するのか。問われているのは資本の下の労働・労働者である。

チャップリンの『モダン・タイムス』を45年!

娘のれい(22歳)は、中南米・エルサルバドルの村に1年余暮らし、スペイン語はしゃべれるが、読み書きは未だ。なんとか身につけたいと、働きながら大阪の定時制高校に入り、勉強している。
れいから「三線のおっちゃんが倒れて入院した」と連絡入る。彼は、サンヨーデンキで45年間ラインの仕事―あのチャップリンの『モダン・タイムス』の有名な場面、流れる作業台でペンチをひたすらまわす―をやってきた。その労働の後遺症が出たのである。

60年安保の頃、このラインに抗議し、ゲリラ的にボイコットし、『アパッチ族』なんていわれた若者たちのひとりだった。やがて、労務対策として、転向した元日本共産党幹部の三田村四郎が乗り込み、弾圧。私は「がんばれ!」と支援のビラを早朝工場前で配る。突然、空手部の連中に襲われ、金玉がボール大にはれるケガ。やがて、組合は資本の御用化する。「あの頃が、時代の転換点だったなぁ」と言う。その後も工場閉鎖に抗議し、ハンストなど行う。
退院してひょっこりやってくる。丁度、山形から、熊取名人とともに、縄文百姓の志を共にする「あらえびす」の人たちがやってきていて、三線に合わせて縄文の舞がひろうされ、我が子・孫らから拍手を浴びる。
彼は、奄美大島出身で、久しぶりに鎌を手にした作業。「ああ! 人間として、こんな労働やらんにや」。奄美に帰って百姓やろうか」と言う。

一番なじみたくなかった都会と学校
―エルサルバドルのLosaへ―
れいが雑誌に書いたという文が届く。

山に囲まれた環境に生まれ、まともに学校にもいかず、生活のほとんどを百姓仕事に過ごしていた。そんな18歳の秋、キューバへ行った。メキシコへ行き、ガテマラ、エルサルバドルへとたどり着いた。キューバ人が言った。「人生は踊ることだよ」。エルサルバドルのおばあちゃん「人生は食べることだよ」。そんな大切な言葉を思い出している私は今21歳。大阪という都会でアルバイトをしながら定時制高校に通っている。
一番なじみたくない環境が、都会と学校だった。息苦しそうにみえた。でも、自分がそこでどうなるか、試してみたくなった。昼間はバイト、夜は学校の繰り返しの生活。価値観の合わないひとたちと、消費するだけの生活。すべてに矛盾を感じながら生きている。
ある日、もう息をすることをやめたくなった誰かが、私の乗った電車に飛び込んだ。1時間近く遅れた電車に、イライラするスーツ姿の人たち。車内放送では、お客様の取りのぞき作業に時間がかかっていると言う。飛び込んだのは18歳の女の子だった。
ここはそういう社会だとふっ切れますか? この社会で生活しているとそれが当たり前になりすぎて、恐いよ。

久しぶりにエルサルバドルに電話をかけた。待っていたのは最悪なニュース。Losaが1カ月前に殺された。彼女にもらった手紙。キタナイ字で書いてた「Te quiero mi japonesita(私の大好きな日本の女の子)」。Losaはいつも冗談を言って回りを笑わせてた。市場では最強の売り子だった。一緒にサルサ踊ったね。「あいつはギャング団と付き合っているから、一緒にいたらダメよ」。途中から消えたLosa。噂ではギャング団の彼氏と結婚したと聞いた。まだ16歳だった。忘れたくない―。ここにいると、忘れてしまいそうなんだよ。本気で悩んで、必死に日本人やって、平和ボケしてる。私は今ここで、何やってんだろ。

「何がよくて小説みたいな国へ行くの?」。さあぁ・・・答えは答えられない。ただ、そこにある世界の方が、私にとって裏切りがない。
「殺されるかもしれないよ」。うん、そうだよ。Losaもみんなも、その中で人として生活してるんだ。ここだって同じ。自分の心が、いつ殺されるかわかんない。
だから同じ。だからこの都会でもう少しがんばって笑ってみる。Losaが笑っていたように。

 

あ~す農場

〒669-5238

兵庫県朝来市和田山町朝日767

 

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MK新聞への「あ~す農場」の連載記事

1998年12月16日号~2016年6月1日号
大森昌也さん他「自給自足の山里より」(208回連載)

2017年1月1日号~2022年12月1日号
大森梨沙子さん「葉根たより」(72回連載)

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