エッセイ「本だけ眺めて暮らしたい」【202】|MK新聞連載記事

よみもの
エッセイ「本だけ眺めて暮らしたい」【202】|MK新聞連載記事

MKタクシーの車載広報誌であるMK新聞では、大西信夫さんによる様々な身近な事柄を取り上げたエッセイ「本だけ眺めてくらしたい」を前身を含めて1988年5月22日から連載しています。
MK新聞2007年6月16日号の掲載記事です。

本だけ眺めてくらしたい

二、三年前に自転車を買った。昔なら、近所の自転車屋さんに出かけ、店にある品物の中から気に入ったものを選ぶというのが、あたりまえの買い方だった。が、今はインターネットがある。デザインや性能は無数の選択肢があるし、送料込みで一番安いものを日本じゅうのどこからでも取り寄せることができる。
検索サイトで「日本一安い自転車」と入れたら、4,980円の自転車が表示された。販売業者を見ると、なんと!歩いて十分の距離。電話をして今から直接行くからと言って買ってきた。送料も不要。こんな偶然がよくあったものだ。

ところで、久しぶりに本棚を買った。しかも二本。何年ぶりだろう。十年以上になるだろうか。いずれにせよ、新しい本棚を買うのは極めて危険な行為であることには間違いない。
既存の本棚から本が溢れ出て、家じゅうのあちこちに積み上げるようになっても、机の上や廊下や畳の上に積み上げている限りは、あくまで「仮置き」という意識があって、「そのうち古いものは処分して片付けよう」と内心、常に思い続けている。これ以上、本の山を高くしてはいけない、増やしてはいけないと、本の山という現物がプレッシャーをかけ続ける。
ところが、それらの本を一旦、本棚に収めてしまうと、本の山という「気になる異物」がなくなり、そこが本来の居場所、既得権のようになってしまう。処分しなければいけないという「気掛かり」が、一日のうちに頭にもたげてくる回数が少しは減ることになる。そういう意味では、本棚を買わずに身の周りに積み上げておくのは、本の増殖スピードをわずかでも抑制する一つの方法ではある。
そうは言っても、もし置けるスペースがあるなら、本棚を買って収めた方が精神衛生上はよろしい。同じ空間に効率よくより多くの本が置けるし、本の山はやはり生活の邪魔になる。
幸い、本棚も自転車と同様、ずいぶんと安価なタイプがネット通販で変えるようになった。幅七五、高さ一八〇、奥行二九センチの木製本棚が送料込みで六千円。とりあえず本棚に片付け、少しずつ本を減らし、本棚が空っぽになれば本棚自体も処分すればいい。六千円はその間の保管料だと思えば決して高くない……そう、自分で自分を納得させる私であった。

 

MK新聞について

「MK新聞」は月1回発行で、京都をはじめMKタクシーが走る各地の情報を発信する情報紙です。
MK観光ドライバーによる京都の観光情報、旬の映画や隠れた名店のご紹介、 楽しい読み物から教養になる連載の数々、運輸行政に対するMKの主張などが凝縮されています。
40年以上も発行を続けるMK新聞を、皆さま、どうぞよろしくお願いします。

ホームページからも最新号、バックナンバーを閲覧可能です。

 

MK新聞への大西信夫さんの連載記事

1988年以来、MK新聞に各種記事を連載中です。

1988年5月22日号~1991年11月22日号 「よしゆきの京都の見方」(45回連載)
1990年1月7日号~1992年2月7日 「空車中のひとりごと」(12回連載)
1995年1月22日号~1999年12月1日号 「何を見ても何かを思う」(64回連載)
1996年4月16日号~現在 「本だけ眺めて暮らしたい」(連載中)

 

本だけ眺めて暮らしたい バックナンバー

この記事が気に入ったらSNSでシェアしよう!

関連記事

まだ知らない京都に出会う、
特別な旅行体験をラインナップ

MKタクシーでは様々な京都旅コンテンツを
ご用意しています。