エッセイ「本だけ眺めて暮らしたい」【199】|MK新聞連載記事

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エッセイ「本だけ眺めて暮らしたい」【199】|MK新聞連載記事

MKタクシーの車載広報誌であるMK新聞では、大西信夫さんによる様々な身近な事柄を取り上げたエッセイ「本だけ眺めてくらしたい」を前身を含めて1988年5月22日から連載しています。
MK新聞2007年5月1日号の掲載記事です。

本だけ眺めてくらしたい

「本物の心理テスト」を謳った本が何冊か出版されている。「本物の」と言うからには、紛い物の存在が想定されているのだろう。というより、世の中に出回っているその多くが本物じゃないというニュアンスを込めるときに、よくそのような言い方をする。
「本当の」というのも同様で、「本当の社会主義じゃない」とか「本当の民主主義じゃない」とか、じゃあ、実際どこにその「本当の」があるんだ、いつになったらその「本当の」になるんだ、とツッコミたくなるような常套句としての使い方もある。
「本当の自由」とか「本当の幸福」とかになるともう、「自由とは何か」「幸福とは何か」といった議論における、自説に対する呼び名と言った方がいい。
ともかく、「本物の心理テスト」。それらの本の趣旨は――雑誌などに掲載されている「タイプ別メタボ対策おもしろ性格テスト」といった記事はあくまでお遊び。心理学者や精神科医が使用している「本物」をやってみたいと思いませんか――というもの。「本物は一般に公開されません。被験者があらかじめテストの内容を知っていたら正しい結果が得られないからです。それを特別に公開する類のない本」というのが、その売りだ。

ただし、編者は「本物の心理テスト」を全面的に肯定しているわけではない。それらの本の中で、質問の答えに対する判定にいくつか疑問を投げかけている。また、そんな疑問のある心理テストが就職試験などで使用されて採否を決定されるのは、受験者の人生に関る困った問題だという見方も示している。
実際、その「本物の心理テスト」とやらを試してみたが、この質問にこう答えたら、どういう判断を下されるかが見え見えの質問が少なくない。この質問にこう答えた人をそう判断するのは、あなたの人生観でしょ、それはあなたの道徳観でしょ、と言いたくなるような質問も多い。中には、まるで信仰心を問うているようなものまである。
そんなテストで明らかになることと言えば、せいぜい「開発者の」心理。良く言って、制作された時代や地域における社会の穏当な人間観だろう。それとも、その平均的な人間像と被験者の相対的な位置関係こそが、その人の「心理」と言われるものか。

 

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MK新聞への大西信夫さんの連載記事

1988年以来、MK新聞に各種記事を連載中です。

1988年5月22日号~1991年11月22日号 「よしゆきの京都の見方」(45回連載)
1990年1月7日号~1992年2月7日 「空車中のひとりごと」(12回連載)
1995年1月22日号~1999年12月1日号 「何を見ても何かを思う」(64回連載)
1996年4月16日号~現在 「本だけ眺めて暮らしたい」(連載中)

 

本だけ眺めて暮らしたい バックナンバー

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