エッセイ「本だけ眺めて暮らしたい」【263】|MK新聞連載記事

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エッセイ「本だけ眺めて暮らしたい」【263】|MK新聞連載記事

MKタクシーの車載広報誌であるMK新聞では、大西信夫さんによる様々な身近な事柄を取り上げたエッセイ「本だけ眺めてくらしたい」を前身を含めて1988年5月22日から連載しています。
MK新聞2010年3月1日号の掲載記事です。

本だけ眺めてくらしたい

ワンコイン(初乗り二キロ五百円)タクシーの運賃継続申請を認めず、近畿運輸局がタクシー会社に事実上、値上げを求めているという報道があった。
「行き過ぎた規制緩和の反動」が政治や経済で見られる昨今だが、特にタクシー業界は自由化の是非をめぐって常にマスコミが騒いできた感がある。
運賃に続き、新規参入などの規制が緩和されたのは二〇〇二年。その後、テレビや新聞は盛んにタクシー運転手の「残酷物語」を書き立てた。「自由化の弊害」「過当競争による労働者の悲鳴」等々。
しかしそれは、革新系の労働組合が流布する(作為的か無知か不明な)短絡的なストーリーを、マスコミにちらばるシンパの新聞記者やフリーライターが引き写した記事、あるいはそれに影響されて右(左?)へ倣えした横並び報道ばかりだった。要は「小泉改革」や「新自由主義経済」に失敗のレッテルを貼るための政治的なダシに、タクシーは利用されたわけだ。

そもそもタクシー(全国)の輸送人員は、大阪万博をピークに三十年以上の長期にわたって右肩下がり(一部例外期間あり)。
タクシーが「供給過剰」だと言うのなら、一九七〇年に四十三億人だった輸送人員が二〇〇五年に二十二億人になるまで、三十五年で需要を半分に減らしてきたのだから、当然のことだろう。
業界は運賃値上げを繰り返すことで、輸送人員の減少をカバーした。が、需要減少と値上げの悪循環に陥り、バブル経済の崩壊後(一九九〇年代初め)にはついに、輸送人員だけでなく運送収入も右肩下がりの減少傾向に転じる。

つまり、今日の衰退を招いたほとんどの問題点は規制緩和以前、はるか昔から形成、逆に言えば対策を先延ばしにしてきたものである。こんなことは、運輸省やインターネットで調べれば、基礎データは公表されているのだから簡単にわかることだ。
「この業界には自助能力がないから、是非はともかく規制で保護するしかない」という議論ならまだしも、規制緩和の前後にのみ恣意的に焦点を合わせて世論操作をしようとする人たちに加担する報道は、問題の本質から目をそらせる障害でしかない。

 

MK新聞について

「MK新聞」は月1回発行で、京都をはじめMKタクシーが走る各地の情報を発信する情報紙です。
MK観光ドライバーによる京都の観光情報、旬の映画や隠れた名店のご紹介、 楽しい読み物から教養になる連載の数々、運輸行政に対するMKの主張などが凝縮されています。
40年以上も発行を続けるMK新聞を、皆さま、どうぞよろしくお願いします。

ホームページからも最新号、バックナンバーを閲覧可能です。

 

MK新聞への大西信夫さんの連載記事

1988年以来、MK新聞に各種記事を連載中です。

1988年5月22日号~1991年11月22日号 「よしゆきの京都の見方」(45回連載)
1990年1月7日号~1992年2月7日 「空車中のひとりごと」(12回連載)
1995年1月22日号~1999年12月1日号 「何を見ても何かを思う」(64回連載)
1996年4月16日号~現在 「本だけ眺めて暮らしたい」(連載中)

 

本だけ眺めて暮らしたい バックナンバー

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