エッセイ「本だけ眺めて暮らしたい」【212】|MK新聞連載記事
MKタクシーの車載広報誌であるMK新聞では、大西信夫さんによる様々な身近な事柄を取り上げたエッセイ「本だけ眺めてくらしたい」を前身を含めて1988年5月22日から連載しています。
MK新聞2007年11月16日号の掲載記事です。
本だけ眺めてくらしたい
ブックオフの百円コーナーで、ケータイ片手に本のISBNコードを入力し、アマゾンドットコムのマーケットプレイスの実勢価格をチェック――利ざやを稼ぐ転売目的に古本を買い漁る「セドラー」。ここ最近、頻繁に見かけるようになった(前回参照)。
周囲の目を気にしながらポツリポツリと選んで本の表裏を眺めてからケータイに入力している者、開き直って手当たり次第にカチカチ入力している者、やり方はそれぞれだが、日頃本なんてまったく読んでなさそうな若者が多い。
別に、先入観で決めつけているわけではない。手に取っている本や、その扱い方、棚の眺め方、書店に慣れていない雰囲気などでわかるのだが、そもそも本を読むのが好きで、古本の世界を知っている人ほど、「ケータイせどり」などやろうとは思わないのではないだろうか。
ケータイせどりの話を誰かに聞いて、いい儲け話だと思ってやってみることにしたのだろうが、もともと古本が好きな人なら、他所では高値で売られている掘り出し物が「たまに」あるのは知っていることだし、でもそういう例はそれほど多くないことや、単価が低い古本の小さな利ざやを地道に稼ぐにしても手間暇の割にたいした儲けにならないことを知っている。
このところ、品切れ・絶版本のマーケットプレイスで、古本の相場を無視した異常な高値が付けられている例をよく見かける。
「相場に無知な人(や金額を問わず急いでいる人)が買うかもしれない」というセコくて気の長い商売でもしているのだろうか。ブックオフで、かご一杯に仕入れている嬉しそうなセドラーを見かけることがあるが、予約待ちリストではなく、その高値を見て「取らぬ狸の皮算用」をしているのではないかと、いらぬ心配をしてしまう。売れずに何千円かのわずかな損をして、すぐにやめる人が多いのではないだろうか。
結局、儲けているのはセドラーのための検索サービスやハウトゥ情報を提供する会員制サイトの運営者。
ギャンブル同様、「仕入れ値の何十倍で売れた」という成功話だけがネット上に流通し、ねずみ講など楽して儲ける話にすぐ乗っかるタイプの若者が踊らさる。もっとも、アマゾン、ヤフオク、宅配業者、もちろんブックオフにとっては「まいどあり!」だろうが。
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MK新聞への大西信夫さんの連載記事
1988年以来、MK新聞に各種記事を連載中です。
1988年5月22日号~1991年11月22日号 「よしゆきの京都の見方」(45回連載)
1990年1月7日号~1992年2月7日 「空車中のひとりごと」(12回連載)
1995年1月22日号~1999年12月1日号 「何を見ても何かを思う」(64回連載)
1996年4月16日号~現在 「本だけ眺めて暮らしたい」(連載中)