エッセイ「本だけ眺めて暮らしたい」【207】|MK新聞連載記事

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エッセイ「本だけ眺めて暮らしたい」【207】|MK新聞連載記事

MKタクシーの車載広報誌であるMK新聞では、大西信夫さんによる様々な身近な事柄を取り上げたエッセイ「本だけ眺めてくらしたい」を前身を含めて1988年5月22日から連載しています。
MK新聞2007年9月1日号の掲載記事です。

本だけ眺めてくらしたい

『艶本江戸文学資料選』の第一巻から第四巻まで四冊まとめて古本屋の均一台に安く売り出されていたので買ってきた。書名の通り江戸時代の艶本を翻刻したもので、和紙袋綴和本仕立、横本。本文二色刷。布装二重箱入り。図版の頁が安っぽい色コート紙であることをのぞけば、それなりに味のある造本である。
店頭では販売せず、出版社に直接注文するようになっていたようだが、昭和四十年代前半の発行当時に、当局から御咎(とが)めがありそうな「猥褻」箇所はちゃんと伏せ字になっていて、クライマックスでは「……□にさハるがごとく。□□う□ほ□。し□□て、すこしさ□た□く……」などと、伏せ字が頻出。こうなるともう、読者の想像力をかきたてるというより、何がなんだかさっぱりわからなくて、ただ笑うしかない。

でも、心配御無用。ガリ刷の「資料」が別紙で添付されていて、81頁の一行目の埋字は「81の1・け―玉門―る―ひ―めり」という具合に、暗号表のように記されている。読者はこれを片手に頭の中で空白に一字一字あてはめながら読み進むというわけだ。
当局に内緒で「資料」を配布する。もし、このカラクリがバレても、出版物そのものは問題ないでしょ?というアイデア。ちなみに、ガリ刷の冒頭には次のような注意書きが添えられている。「この資料は研究用にお貸ししたものですから、書写されましたら、必ず書留便でお返し下さい」。何を「研究」するのやら。

人類の、男の、飽くなき欲望への、手間暇厭わぬ創意工夫に感心するばかりだが、日本橋の電器店街に行けば、違法な無修正DVDが店頭で堂々と売られている昨今の身も蓋(ふた)もない丸出し風俗と比べると、古き良き昭和のノスタルジーを感じさせるというか、「子ども心をくすぐる」趣向と言えるかもしれない。

 

MK新聞について

「MK新聞」は月1回発行で、京都をはじめMKタクシーが走る各地の情報を発信する情報紙です。
MK観光ドライバーによる京都の観光情報、旬の映画や隠れた名店のご紹介、 楽しい読み物から教養になる連載の数々、運輸行政に対するMKの主張などが凝縮されています。
40年以上も発行を続けるMK新聞を、皆さま、どうぞよろしくお願いします。

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MK新聞への大西信夫さんの連載記事

1988年以来、MK新聞に各種記事を連載中です。

1988年5月22日号~1991年11月22日号 「よしゆきの京都の見方」(45回連載)
1990年1月7日号~1992年2月7日 「空車中のひとりごと」(12回連載)
1995年1月22日号~1999年12月1日号 「何を見ても何かを思う」(64回連載)
1996年4月16日号~現在 「本だけ眺めて暮らしたい」(連載中)

 

本だけ眺めて暮らしたい バックナンバー

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